第32話 新たな隣人

 「え、と、あの……?」


 あの後……転移フラフープから現れたのは、俺よりちょっと年下かな?と思われる犬の獣人の女の子。……痩せてんなぁ。


「はーい。寒かったでしょう?」


 そんなオドオドしている女の子に、ふわりと毛布をかけてあげたのは母さんだ。


 女の子は薄汚れた肩出しのチュニック姿だったから、毛布をかけて貰ってホッとした感じだったな。


 まあ、毛布をかけた途端にふわっと浄化もされたから驚いてもいたけどさ。


「スープ、どおぞ?」


 驚き戸惑う女の子に、トコトコと歩いてスープを差し出すのはトーニャ。ちゃんとお盆を持って差し出しているけど、スープは溢れて半分まで減っている。


 俺達にとってはトーニャ頑張った!って感じだけどさ。女の子さんはどうだろうな?


「……ありがとう……」


 お!この子優しい子だ。


 俺達がちょっと心配して見ていたけど、女の子さんはトーニャの頭を撫でてスープを受け取ってくれたんだ。


 そんな二人の様子にほのぼのしていたけど、スープを飲んだ途端に泣き出した女の子。ここは凛がすかさずフォローに入ってくれたぜ。


 女の子は女の子に任せた方がいいからな。


 そして、次に現れたのはちょっと年配の犬獣人の女性。疲れ切った顔だったのが突然の状況の変化に驚きでカチンと固まってしまったんだよ。


 そんな女性に優しく毛布を肩にかけてあげたのはケイトさん。


「!!ケイト……?ケイトよね!?」


 どうやらその女性はケイトさんを見て、ハッと気付いたらしい。


「マーチさん……!」


「ごめんなさい……!ごめんなさい……!」とケイトさんに泣きながら謝る女性に、「いいんです……!いいんですよ……!」とお互い泣きながら抱き合っていた二人。


 そっかぁ……色々あったもんなぁ……


 感慨深くそんな二人を見守っていると、次に現れたのは「うおっ!」と声を出して驚く男性だったんだ。


 この人は俺が行くかな。


「毛布どうぞ」


「え、あ?ありがとう?」


 なんだか状況が掴めないようだったけど、俺が渡す毛布を素直に受け取る男性。


 受け取ったら受け取ったで、ホワッと全身が浄化されて更に「うおっ?」って驚いていたけどさ。


 ……現れたのが背が高い好青年だったからって、悔しくなんかないぞ?こっちの人達は大概美形なんだから……!


 俺は純日本人だし……!となんとか表情に出さなかった俺。


 ちゃんと笑顔で母さんが準備していたスープも青年に渡したぞ?


 でもさ。この好青年、「ありがとうな」って受け取ってくれたたのはいいけど……俺までトーニャと同じように頭を撫でられそうになったから、一応自己紹介してみたんだ。


「俺、こんなんでも一応16だから。俺は洸。あんたは?」


「え?16?うわ、ごめん!年上かあ……俺はスワイ、14だ」


 爽やかに謝られて内心微妙だったけど、手を差し出して来たから互いに「よろしく」と言って握手する俺達。


 そんな俺達の後ろから次に転移フラフープに現れたのは、ゼファさん。次いでジャンさんが現れたんだ。


 これで気付いただろ?


 結局、ジャンさんとディグレンさんでもゼファさんを説得出来なかったんだよ。


 だからジャンさんとディグレンさんも加わって、ゼファさんを守りながら街に再侵入する事になったんだ。


 そして、ゼファさんの案内で無事隠れ場所にいた三人を保護出来たんだぜ。


 その後、母さんの携帯に爺ちゃんが連絡してくれて……今、全員を世界樹の一階で迎えているところなんだ。


 「此処は……一体……?」


 そういえば、ゼファさんも世界樹の中に初めて来たんだもんな。口を開けてキョロキョロと周りを見ているよ。


 「ゼファさん!無事で……!無事で良かった!」


 そんなゼファさんが現れた途端に、俺と握手をしていたスワイ君がゼファさんに駆け寄っていったんだ。


 どうやらジャンさんに聞いたら、あちらでは事情を説明する事ができなかったらしい。


 とにかく避難場所に逃げる事だけ伝えて、強制的に三人を転移させたんだってさ。


 すると、女の子さんもケイトさんと抱き合っていた女性もゼファさんを見つけて駆けつけて来た。


 そんな四人が涙の再会で抱き合う中……ヤレンさんとディグレンさんも戻って来て、最後に父さんと爺ちゃんもこっちに戻って来て全員が無事揃ったんだ。


 「みんな、お帰り!」


 「お帰りなさい!」


 やっぱり直に顔を見てホッとした俺と凛がみんなに駆け寄っていくと、ディグレンさんがスッと凛を抱き上げ縦抱きにしたんだよなぁ。


 クッ!……なんて素早い……!


「あああああああ!ディグレン!お前は凛と接触禁止だ!」


 まあ……俺も止められなかったけど、父さんも止められなくてお怒りなんだけどさ。


「何故だ?」


「え?お父さんどうして?」


 困ったのが、当人同士が本気で何故?って言ってる事なんだよなぁ……


 「グッ……それは……!」


 父さん……!わかる……!わかるぞ……!此処でディグレンさんを問い詰めれば、凛にディグレンさんの好意が届いてしまう……!


 かと言って凛をそのままにしておきたくないが、スキンシップが激しい坂木家ではハグは結構よくある光景。


 年頃なんだからと責めれば、自分もハグしにくくなるのでは?という恐怖から凛にどう説明すべきか悩んでいるんだろう?


 「父さん、今回は俺らの負けだ……」


 俺はポンッと父さんの肩に手を置き、ここは一つ今後の為に引く事を勧めたんだ。


 父さんも「クッ!」と悔しそうな声を出してガクッと項垂れたけどさ。でも、そこは娘命の父さん。


「だが!次は油断しないからな!ディグレン!」


 即座に復活してディグレンさんに宣戦布告をするも、ディグレンさんはフッと笑って凛を抱いたままゼファさんの方へ歩いて行ったんだよ。


 当の凛は、不思議そうに首を傾げたままだったけどさ。


 ……この時点で負けている気がするのは、気のせいであって欲しい……


 ゼファさん達もこの様子を見て「え?ディグレンに番が出来たのか?」って騒ぎ出したから、慌てて「お風呂!お風呂に入りませんか!?」って誤魔化した俺。


 でもさ。実際、爺ちゃんご自慢の温泉に入って貰いたかったんだよな。身体と心を休めて欲しいってのは本音だ。


 ゼファさん達には詳しくは明日話す事にして、まずは身体を休めて欲しいってなんとか説得して入って貰ったのがついさっきの事。


「くっは〜!やっぱり温泉は良い!」


 頭にタオルを乗せた爺ちゃんも一緒だけど。あ、勿論俺と父さんとトーニャも一緒だぞ。


 そんで、女子組には凛が一緒に入って貰ってる。


 ジャンさん達は後でいいって言ってたし、気遣い屋の母さんとケイトさんは「入ってらっしゃい」と送り出してたからなぁ。


 なんて回想してたら、ゼファさんとスワイ君の驚きの声が聞こえて来たぞ。


「このお湯……!身体の痛みが消えて行く……!」


「え……!?なにこの気持ち良さ……!?」


 お、よしよし……!しっかり効いているみたいだな。


 とりあえず俺の勧めでゼファさんは治癒の湯、スワイ君は癒しの湯に入って貰っているんだ。


 ゼファさんは怪我があちこちにあったし、スワイ君も結構気を張っていたみたいだったからなぁ。


 因みに、爺ちゃんと静かな父さんは大浴場の白濁の湯に入っていて、俺はトーニャの髪を洗ってやっているんだけどさ。


 ……スワイ君、14歳であの筋肉はないだろう!!!っと内心悔しい思いをしている俺。


 クッ!あっちでプロテイン買って持って来るか?と本気で考えていたら……ゼファさんがザバッとお湯から上がり、俺達に向かって両膝をついて感謝をして来たんだ。


「心から……!心からの感謝をさせて欲しい……!」


 まさか、真っ裸の状態でそう来るとは思ってなかった俺。動きを止めて唖然としていたら、トーニャが怒った。


「コー!はやくするのー!」


 トーニャはシャンプーが苦手みたいで、ぎゅっと目を閉じて我慢していたんだ。だから怒られるのは仕方ないけど……


「構わんよ。仲間を助けるのに理由はいらんだろう?」


 代わりにというか、応えてくれたのはやっぱり爺ちゃん。そんな爺ちゃんの言葉に、ゼファさんは更に衝撃を受けたらしい。


「仲間……と言ってくれるのか……!ジャンを見捨て……ディグレンとヤレンを助けられなかった俺達を……!」


 驚きで爺ちゃんを見つめ返すゼファさんに、爺ちゃんはニカッと笑って答えたんだ。


「思っている事が行動で表せない時もあるもんだ……何より、そんなお前さん達を仲間として思っているからこそ、そのジャンとディグレンとヤレンから俺らは頼まれた。感謝は奴らにこそすべきもんだ」


 ガッハッハと笑い、頭の上にあったタオルを湯船の中で広げてタオルクラゲを作る爺ちゃん。あ、それ懐かしい……!


 爺ちゃんの言葉を聞きながらザバアアアア……とトーニャの頭を洗い流すと、ブルルルルッと頭を振るトーニャ。


 ブッハ!お湯飛ばすなって!


 トーニャの攻撃から背を向ける俺の代わりに爺ちゃんが「ホレ」ってトーニャに見せるもんだから、トーニャが「ふわあ!」って喜んで爺ちゃんのところに行っちまった。


 身体まだ洗ってねえのに……


 なんて思いながらも、これ爺ちゃんの照れ隠しだってわかっているからさ。俺も何も言わずに、爺ちゃん達が入っている大浴場に入りに行ったよ。


「ゼファさん、折角のお湯だぜ。湯冷めしちまう。入ろうぜ」


 で、その途中で更に感動しているらしいゼファさんの肩をポンと叩き、トーニャに続いて湯に浸かる俺。


 くぅぅぅ……!やっぱり風呂は良いわ……!


 そんな俺が満足していると、ゼファさんの肩に手を置いて何やら目で合図を送るスワイ君。


 「ゼファ……!」


 「ああ……!わかっているよ、スワイ」


 何やら清々しい表情で大浴場に入って来たと思ったら、律儀に俺達に頭を下げる二人。


 「それでも感謝はさせて欲しい。本当にありがとう」


 「ありがとうございました!」


 改めて二人から感謝を伝えられたけど、今度は爺ちゃんも俺も笑って「ああ」「どういたしまして」と受け取ったんだ。


 ———この時には、どうやら気持ちが定まっていたらしい二人。


 ジャンさんに後で聞いたんだけどさ。犬獣人って忠義に厚いらしいんだ。それも黒に近いほどそうらしい。


 これでゼファさんとスワイ君の種族が予想出来ただろ?


 [黒犬種]は、この世界では斥候の役割をこなすのが得意な種族で主人を定めると真っ直ぐな性質を持つらしい。


 主に主人は爺ちゃんだろうけど……坂木家全員を主人とみなした二人は、仲間っていうより部下になったみたいなんだ。


 俺は気安い関係が良かったけどさ。


 あ、そうそう。あの父さんがずっと静かだっただろ?その理由はさ……


「ほれ!繁!お前もちゃんと返事せんかい!」


「ああああああ……凛が……凛が離れて行ってしまう……!」


「……はぁぁぁ。この馬鹿息子はなんとかせんといかんなぁ」


 深いため息と共に頭を抱える爺ちゃん。


 そうなんだよ。父さんってば、さっきのディグレンさんに負けてしまったのが相当ショックだったらしい。


 更に父さんの考えの中で発展して、凛が離れて行くと思い込んでショックで落ち込んでいるんだよ。


 全く……まだ凛はディグレンさんに好意も持って無いってのにさ。まだまだ、諦めるには早いってもんだ。


 ———なんて、結局締まらない我が坂木家。


 でも、まずは四人を助け出せたから結果オーライだよな!


     ————————————


 お読み頂きありがとうございます。


 次回の更新は10/13日予定です。


 今の仕事時間に慣れるまでは、どうしても執筆に時間がかかってしまうんですよねぇ……😓


 しかも二作品同時進行はやっぱり負担が大きい……!


 という事で、まずは『マンションスキル』を優先に予定を立てております。


 でもゆっくり週一更新ですが、こちらの作品も進めさせて頂きますので、これからもよろしくお願いします!!!


風と空

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