第28話 〜世界樹の窓から〜

「あ、確かに空気変わるわ」


 ジャンさんに連れられて入った世界樹(凛作成)の中は、ジャンさん達が言っていたように、入った途端に爽やかな風を感じたんだ。……って、風?


 上を見ると木の中にいるのにかなり上から光が注ぎ、新鮮な空気が流れてくるんだ。って事は、頂上は外と繋がっているのか?


「もしかして天井って穴空いてる?」


「コウ……世界樹に穴が空いてたら大変だぞ?」


 やべ、ジャンさんがマジで引いてる。とはいえ、どうして内部に日の光が入ってくるんだろ?


「お兄ちゃん、あのね。光が欲しいなぁって思ったら、この木が光を取り込んでくれたみたい。不思議だよねぇ」


 そう思ってたら凛が父さん達を連れて入ってきたけど……俺は我が妹の力も不思議だと思うんだが。


「コウ。世界樹の伝説では、世界に光がなくなったとしても輝き続けると言われているんだ。だから、内部は夜が来てもずっと明るいままだぞ」


「そしてその光は、浴びた者の心を包み込み癒してくれるという言い伝えもある。……これは俺達が実感している」


 ディグレンさんとヤレンさんも補足してくれたけどさ。そっか……二人はまだまだ気持ちが先走る事もあるのかな。


 俺と同じ事を思ったんだろうなぁ。ヤレンさんの肩をポンポンって爺ちゃんが叩いている。


 ……二人の気持ちを考えると、そんなゆっくりしてられないよなぁ。俺もなんとか力にならないとな!


 「しかし……見事な空間だな」


 「あ、父さんが現実に戻って来た」


 「失礼な!父さんはさっきから現実を見ていたんだぞ?洸や親父が驚かなさすぎだ!」


 「はっはっは。まだまだ繁も甘いな。洸も動揺していただろうに」


 あ、やっぱり爺ちゃん見てるなぁ。爺ちゃんこそいつも通り過ぎて凄えけど……凄えのは此処もか。


 なんつーの?木の内部はドーナツ状になってるって言えば伝わるかな?


 部屋の真ん中にも世界樹があって、そこに螺旋階段があるんだ。凛によると2階から5階まで、まるで扇風機の羽のように部屋が交互にあるんだぜ。


 「なあ、凛。一階はなにがあるんだ?」


 「えっとね。一階はお爺ちゃんの為に温泉を作れるようにしたんだ」


 そう言って凛がドアを開けると……雨の後の森の匂いがする脱衣所があって、その奥の扉の先に大小の様々な浴槽だけが設置している大浴場があったんだ。


「これでお爺ちゃんが温泉さえ出してくれたら、此処にスーパー銭湯が出来るかなぁって思ったんだ」


 なんて、可愛い事を言って照れ笑いをする凛。


「なんと!我が孫は天使だろうか!」


「凛はやっぱり良い子だなぁ!」


 俺も同感!つーか、爺ちゃんも父さんも凛が潰れるって!離してやれよ!


 感激の余り凛を抱きしめる二人をなんとか引き剥がし、爺ちゃんに温泉を引いて貰うように促すと、今度はブツブツ独り言を言い出した爺ちゃん。


「ふむ。これは打たせ湯の場所だな。ほほう、壺風呂!これは座湯か!む?此処に穴があるという事はジェット噴射が出来るというのか!?それにこの浴槽の数……!泉質ごとに温泉が引けるのでは……!?」


 「これは!」と叫び声を上げつつ一人楽しそうに空の浴槽を見て廻る爺ちゃんを、俺達はこのままそっとしておく事にしたんだ。まあ、出来たら呼びに来るだろうし。


「なぁ、凛。二階はどうなっているんだ?」


 なんとなく予想はついたけど、凛に確認しつつ残った全員で二階への階段へ向かったんだ。


 あ、外で遊ぶ源とトーニャは、今ケイトさんが見てるぞ?


 思いっきり遊んだ後は朝寝タイム突入だろうなぁ、と思いつつ階段を上がって行くと……


「これは……!飾り棚……?しかも木枠のフォトフレームがこんなに沢山……!!!」


 父さん驚きのこれまた広い部屋でさ。


 部屋の壁二面には天井まで届く飾り棚があって、もう一面はどんな大きさの写真でも飾れる天然木の壁になっていたんだ。


 それも、沢山の木枠のフォトフレームが用意されて。


「此処はねぇ。お父さんのフォトギャラリーが良いかなぁって思ってたんだ」


 案の定、父さん用の部屋だったんだよなぁ……


「ああ……!凛!我が娘は絶対嫁に出さんぞ!」


「ええええ……!それは嫌……」


 ぎゅううううっと凛を抱きしめる父さんに、ちょっと困り顔の凛。


 いや、父さん……あんた娘の幸せ願うなら出してやれよ……と思わず突っ込んだけどさ。


まあ、生半可な奴には凛は渡せないから、見極めには父さんと徒党を組むけどな!そこは俺も同意するぜ。


 とりあえず、父さんから凛を救出する為に一つ質問をする俺。


 「父さん、此処に何飾るんだ?」


 そんな俺の言葉にハッとした父さん。凛をパッと離し、爺ちゃんと同じように独り言を言い始めたんだ。


「此処になら……!今まで諦めていた坂木家成長ギャラリーが出来るのか……?いや……しかも、これから始まる坂木家のターニングポイントを歴史に残せるのでは……?」


 凛に今のうちにこっちへ来いと手招きをし、父さんから離したのはいいけどさ。


「こうしてはいられない!!!」と叫び出したかと思えば、バッと部屋から走り出して行った父さん。


 予想出来たのか、ジャンさんやディグレンさんやヤレンさんは顔を見合わせて苦笑していたよ。


 ……なんかうちの父さんがすみません、と謝りたくなるのは何故だろうなぁ。


 此処に来た理由を忘れる我が家の大人達に申し訳なさを感じつつ、俺はある予想を口にする。


「凛。もしかしてさ……三階は俺の部屋だったりする?」


 流石に凛も警戒したのか、ジャンさんの後ろに隠れて「うん」と頷く。


 ……いや、そこまで警戒されると兄ちゃん悲しいぞ?


 とはいえ、やっぱり坂木家の血筋なんだよなぁ。父さん達の事が無ければ、凛の頭を撫でまわしてただろうな……


 チラッと思いに浮かんだ事はとりあえず置いといて、今度は3階へと階段を登って行くと……


 そこは流石、我が妹!と褒め称えたくなるような内装の部屋が広がっていたんだ!!!


 まずは、屋根裏部屋の様な梁が見える天井だろ?それにしっかり作業が出来る棚付き木製デスクが有りーの、床はゴロゴロ出来るように畳が全面に敷いてるんだぜ!


 更に、部屋にしっかりとした階段もあってロフト完備とくれば———ヤベぇ……俺、爺ちゃんや父さんの事やっぱり言えねえわ。


「凄えよ!凛、ありがとうな!」


 浮かれる気持ちを抑えてポンポンと凛の頭を軽く叩くと、凛もようやく警戒を解いて俺の横に来てくれたんだ。


 愛情たっぷり貰うのも日本人って慣れてねえんだよなぁ。よく分かるわ。


「あのね!4階はジャンさん達も初お目見えだよ!」


 やっと凛らしく元気に先頭に立って階段を登って行くと、今度は普通に8畳の部屋。


 変わっていると言えば……デカいロールスクリーンが正面にデデンっとある位か?


「凛さんや?これはどういう事かな?」


 流石に異世界人である三人には理解出来ないのか、顔を見合わせていたから俺が代表して凛に聞いたら、「えへへ」と笑って壁に走り出す凛。


 木の壁の一部をカパッと開けて、出てきたのは黒い石盤。


「あのね!この石の部分に全員手を当てて!」


 何かを隠しつつ凛が嬉しそうに俺らに言うって事は……恐らく、ジャンさんやディグレンさんやヤレンさんが喜ぶ事だと思うんだけどさ。


 ともかく疑問に思いながら全員が言う通りに石盤に触ると、凛がロールスクリーンの前に俺達を座らせて、自分は横へと移動して行ったんだ。


「では、これから世界樹ネットワークのお披露目会を開催します!はい、皆さん拍手〜!」


 凛の言葉にもしかして……?と思った俺はともかく、訳が分からずとも凛に付き合ってくれる三人。


 そんな優しいジャンさんを凛が指名して好きな数字を聞いてきたんだけど、数字ってこの世界でも通用するんか?とちょっと不安に思った俺。


「家族が3人だから、3が良い」


 あ、通用するんだな……と思った途端にロールスクリーンに映し出される森の風景。


 そして続けてディグレンさんにも同じ質問を凛がすると、ディグレンさんは一番強くある事を目指している為に「1だな」と答えたんだ。


 すると、映し出されたのはなんとこの世界樹!しかも遊んでいる源やトーニャやケイトさんの様子が見えたんだぜ!


 極めつけはヤレンさんが言った数字だ。


「村人は全員で168人だった。この数は可能か?」


 そうヤレンさんが言った途端映し出されたのは……


「俺達が居た村だ……!」


 立ち上がって近くまで見に行くヤレンさん。


 やっぱりか……!


 「凛。これってライブ映像か?」


 煤になっている家々の間をうさぎのような魔物が通り過ぎる風景を見て、俺は確信を込めて凛に聞いたんだ。


 すると、嬉しそうに説明を始める凛。


「さっすがお兄ちゃん!そう、世界樹は木々を通して周囲の状況を見る事が出来るんだよ!最近発見してね。ディグレンさんやヤレンさんの仲間を見つけるのに役立つんじゃないかって思ったんだ……よ!?」


 説明の途中でヤレンさんに抱きしめられる凛。そして、更にヤレンさんごと凛を抱きしめたディグレンさん。


「どこまで……どこまで俺達の心を掬い上げてくれるんだ……!」


「俺達は何を返せばいい……?」


 未だ凛をぎゅうっと抱きしめているヤレンさんと凛の頭を撫でるディグレンさんに、「お兄ちゃ〜ん……!」と俺にヘルプコールを出す凛。


 我が自慢の妹よ……!それは甘んじて受けておけ。って、うぉっ!


 そう凛に頑張れと念を送ると、何故かジャンさんも俺に抱きついてきたんだよ。


「……坂木家には恩だけが積み重なって行く……!」


 ジャンさんも感極まったのか、涙声なんだぜ。まあ、俺の拘束は一瞬で解けたけどな。


 恥ずかしくて「ひゃあああああ!」と声を上げる凛を、更に異世界流スキンシップで困らせるヤレンさんとディグレンさん。


 まあ、今回は凛の可愛さが爆発したようなもんだし。


 五階の天体観測が出来る寝室なんてもんを見せられた時には、俺も凛を抱きしめまくったからなぁ。


 凛よ……これはお前が招いた事態だ。頑張って耐えろ……!


 でもって、恐らく凛は無自覚に人の心を救って行くんだろうなぁ……


 お兄ちゃんは、ちょっとだけお前の周囲が心配になってきたぞ?


———————————

 次回更新は9/26の予定です。……仕事で疲れ過ぎなきゃいいなぁ……😓

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