第16話 ようやく偵察。

 「マジックリュックにポーションはいっぱい入っているし、遠隔攻撃用の風刃と氷槍と拘束と結界付与魔石も入ってる。念の為、母さんが握ったおにぎりも回復付与してるし、飲み物はスポーツドリンクのスタミナ増進付与してるし……」


 「お兄ちゃん、そこまで準備していたら大丈夫じゃない?」


 「凛!だってこれは現実なんだぞ!準備し過ぎて悪い事はない筈だ!」


 「洸がこんなに心配性だとはなぁ」


 「親父、残される側ってこんなもんらしいぞ。むしろ嬉しいじゃねえか。洸!父さんは無事帰ってくるぞ!」


 「ぎゃー!ハグは要らねえって!」


 父さんにぎゅっとだき潰される前に、ジャンさんの後ろに逃げ出す俺。父さんは仕方ないから凛の頭を撫でている。


 「コウ、心配しなくても二人は強い。むしろ言い出した私が行けないのが申し訳ない」


 「ジャンさんはまだ回復中だから仕方ないし!そこは気にしなくて良いよ!」


 「そおよぉ。私達が言い出した事なんだから、責任は私達が取るわ。でも、繁さんもお義父さんも十分気をつけてくださいね」


 おお……!流石、母さん。締めるところは締めてくれるわ。でも実際、後足りないものは何かないか……?


 あ!そうだ!


「携帯!と言うか、連絡取り合えるもの作るの忘れた!」


「「おお!そういえば!」」


 俺が叫んだ事に父さんと爺ちゃんはポンッと手を叩いて同意してくれているけど、二人して動作が一緒って……流石、親子。


 まあ、ジャンさんケイトさんは不思議そうにしているけど、凛が良い事を思いついたんだ。


「お母さん!確か、機種変した時の使わなくなった携帯持ってなかったっけ?」


「そういえば、お義父さんが使っていたガラケーもあるわね」


「「それだ!!」」


 凛と二人同時に顔を見合わせて頷き、母さんに置いてある場所聞き出し急いで地球の自宅に戻る。


 流石に今地球で使っている携帯に細工すると、こちらから持ち出せなくなる可能性があるからなぁ。凛、ナイス!


 走って取って戻って来て確認すると、当然充電されていないから動かない。けど、そのための俺のスキルだ!


「魔素を[急速充電]にして……伝達も魔素を介してできるように[通信]付与!っと」


 すると……ガラケーの真っ暗だった画面に電池マークが映り、充電が急速に進み、ある筈のない電波が3本立ったんだ!


「おっし!もう一台!」


 続けて同じように付与すると、こちらも成功!調べてみると、電話番号は以前の番号とは違い、英数字入り混じったものになっているけどさ。


 赤外線通信ならぬ魔素通信が出来るおかげで、二台とも番号を登録出来て、試しに爺ちゃんと母さんに以前のガラケーを渡して試して貰ったんだ。


「お義父さん、こちらから掛けますよぉ」


「はいよ」


 なんとも緊張感も抜ける二人だが……結果、この方法は上手くいったんだ!やった!っと思わず凛とハイタッチしたよ。


 でもさあ……


「爺ちゃん……なんで、サスペンスな劇場の着信音なんだよ……」


「いや、それを言ったら遥。3分で出来る料理の着信音は変えてなかったのか……」


 俺と父さんがツッコミを入れてしまう音が異世界で鳴り響き、凛は大笑いしている。


 でもって懐かしい曲をダウンロードしてたのか、母さんも爺ちゃんも鳴らしまくっているけど……爺ちゃん、その時代劇シリーズ、普通によく揃えたな。


 ある種感心している俺の横で、母さんがケイトさんに「こんな曲が流行ってたのよー」と教えているけど、ケイトさんにとっては音楽自体が初めてだったらしくすっごい感動しまくってたよ。


「あれ?ジャンさん、こっちで歌ってないの?」


「あんなに見事な音は聞いた事がないな」


「そうなんだ……」


 どうやら、ジャンさんによるとそもそも歌う事自体がなかったらしい。「生きる事に必死だったからな……」と呟くジャンさんに、俺はもっと楽しい事も教えたいって思ったよ。


 でもその為には、ジャンさんの憂いを取らないとな!


「うん、俺のやれる事はやった!後は父さん、爺ちゃんに託すよ!」


 サムズアップした俺の様子に、「ようやく許可が出たか」「まぁ、これで万全だな」と改良型バイクに乗り込む父さんと爺ちゃん。


「何かあったら連絡するからな!」

「ジャン!お土産期待していろよ!」


 ———なんて言って出発したのが1時間前。


 なんとなくリビングに集まってソワソワとする俺達。そんな中、母さんのガラケーがピンポーンと鳴り響いたんだ。


「あれ?母さんこれって……」


 ガラケーを覗き込む俺と凛が見たのは、メッセージ受信のマーク。


「あら、メールも出来るの?凄いわねぇ」


 母さんってば、とことんマイペースなんだよ。


「いや、俺も今知ったけど。爺ちゃんだよな?母さん、なんて書いてあった?」


「えーとね……『ようやく予定の半分まで到達。このまま行くと、後1時間半で目的地に着く予定』だって」


「うっわ!早え!流石、改良型バイク!」

「良いなぁ。凛も乗って行きたいなぁ」


 休憩ついでにメールしてくれたんだろう。おにぎり食べる父さんとピースサインをしながら写る爺ちゃんの写メも送られてきたんだ。異世界でも地球の携帯技術って凄え!と実感したよ。


 そんな感じでワイワイと騒ぐ俺ら三人の近くに、実はジャンさん達も一家揃っているんだけど……


「ジャンさん?どうしたの?」


 ずっと何かを考えるように黙っているジャンさんとケイトさんに、凛も気になっていたのか声を掛けたんだ。


 俺は、ジャンさん達が話してくれるまで待とう、と思っていたんだけど、凛は我慢できなかったみたいだな。正直、凛よく言った!って思ったけどさ。


「……すまない。私達の代わりに危険を犯してまで村に行って貰っているのに……」


「良いんだよ?坂木家全員の総意だもの!そこにジャンさんが悔やむ必要はないんだもん」


 凛、良いぞ!もっといってやれ!


「だが……無駄足になるかもしれないんだ」


「どう言う事?」


「……せっかく行っても誰もいないかもしれない……!村は焼けたんだ……」


「焼けちゃったの?」


「ああ、俺達が居た痕跡を残すつもりは始めからなかったんだろう……」


「証拠を隠滅されたの?」


「……元から自分たちの持ち物だった事にしたかったんだろう。表向きには獣人は保護対象だからな。……だが、国はそれを守らなかった……!


ただ、仲間と生きて行くことさえ奪った!苦労して開墾した畑を踏み潰し、友を———反抗する獣人を痛めつけて笑いものにした!私達家族を守る為に、身を挺して逃してくれた銀狼という誇り高き種族を!」


……凛も、流石に言葉が出なかったんだろう……。ジャンさんの悲痛で自分を責めるその言葉に、どう言葉をかけたらいいのか俺達には何も言葉が出てこない……


「そう……それでその人はディーと言うのかしら?」


すると、母さんが代わりに声を出してくれた。


「っ!ディーは……ディグレンは俺の1番嫌いな奴だった。何をしても嫌味を言い、俺達に嫌がらせをしない日はなかったんだ……」


「そう、その彼の名前をトーニャちゃんが言ったのはどうして?」


「……その日は!なかなか来ないからほっとしていたんだ。だけどその日に限ってディグレンが俺達を庇って、貴族のうさ晴らしを耐えてまで俺達の居場所を口にださなかったんだ!」


「……その事を知ったのはいつ?」


「……奴隷商に捕まった時。奴が面白おかしくディグレンの息が意識がなくなって行くのを俺達に話してきた。『黙って渡せば良いものを、最後まで『銀狼種は仲間を売る事は絶対しない!』と言って事切れおったわ』と言われた時……初めて人を殺したい程憎んだ……!」


 母さんは抱き合うジャンさんとケイトさんをそのまま抱きしめて、優しくぽんぽんっと俺達を慰さめるように背中を軽く叩いていた。


「そう……彼は貴方達を命をかけて守ったのね……」


「そうだ……!彼がいなければ、私達は貴族のうさ晴らし用に鞭打たれ、そしてただ幸運を呼ぶ存在として、晒しものになっていただろう。人権も個人の意思をも取り去る隷属の首輪をつけられて……」


「それでも捕まったのはどうして?」


「……仲間が彼を助ける為に口を割った。俺達を商人に売ったんだ」


「辛かったわね……仲間が身を挺して守り、その仲間が彼を守る為に貴方達を売ったなんて……そこまで最悪な状況だったのね……」


「ああ、俺はその仲間を恨んではいない。……本来俺達家族は除け者だったから……庇われる存在じゃなかった。だけど、なんでディグレンが俺達をそうまでして庇い続けたのか、彼は何故俺達にあんな態度をとり続けたのか、がわからない……!」


「そう……戻りたかったのも、ポーションの件も彼の安否を確認したかったからなのね?」


「ああ。もしかしたら、ディグレンは生きているかもしれない、と言う思いがぬぐいきれなかった。……だけども厳しい事も理解している。だから……せめて彼の真実を知りたかった」





         *****


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