第28話 アンタ、それでも勇者なの!?

 満足げに目を閉じる、聖女リネット。

 そんな彼女の目の前で、俺様、東堂正宗とうどうまさむねは、頂いたポーションを革ベルトにげた。

 すると、案の定、脳内で、星野ひかりの声がとどろいてきた。

 東京本部から、上司の指示がもたらされたのだ。


「バカ! ここは返しなさいよ。

 アンタ、それでも勇者なの!?

 家族全滅の中で、たった一人、生き残った少女なのよ。

 助けたいとは、思わないの!?」


 俺は内心、舌打ちした。

 ほんと、これだから干渉したがる上司ってのは、煙たがられるんだ。

 もっと「現場の判断」を信じろっての!


 しばらく脳内で、押し問答が続くこととなった。


「思ってるよ。俺様も彼女を助けたいさ。

 だからこそ、彼女の願いを叶えてあげようとしてるんだろ、魔王討伐で。

 俺様のチート炸裂さくれつってかんじでさ!」


「あなたにとっては、勇者ごっこも、魔王退治も、遊びの延長なんだろうけど、その女の子たちにとっては、ゲームじゃないのよ。

 彼女たちは真剣。たった一つの生活、人生の一部なのよ」


「俺様だって、それなりに人生賭けてるんだけどな、この仕事。

 しがないバイトの派遣員だけど」


「もう! ふざけないで。もし、彼女が魔物に攻撃されたら……」


「大丈夫だって。

 ほら、十人近くも男どもが、聖女様の周りにうろついてるだろ。

 彼らが盾になってでも、彼女を守るだろうさ。

 聖女様は、アイドルみたいなもんだからな。

 それとも魔法少女?」


 俺は冗談混じりでこたえて、グルリと周囲の男どもを見回す。

 すると、男どもがオタに見えてくるから不思議だ。異世界人なのに。


(ロマンスとかいう、派手な動きのオタ芸、してくれるかな?

 あれ、もうすたれた技だっけか?)


 ーーそんなかんじで、とりとめもなく俺が思案していると、苛立たしげなひかりの声が、さらに聞こえてくる。

 脳内で直接響くせいか、まるですぐ近くで大声を出さてれるかのように、うるさい。

 とても、時空を異にする東京からの通信とは思えない。


「ほんとに、わかってないわね、マサムネくん。

 彼女にもしものことがあったら、彼女は死ぬのよ。

 そっちの世界での出来事は、そっちのヒトにとっては、唯一無二の体験なの。

 彼女が死んだら、生き返らないのよ!」


「んなこたぁ、わかってるよ。

 ……でもさ、それはそれで満足じゃないのか。

 晴れて家族の許にけるんだ。

 だからさ、要は俺が魔王を倒せるかどうかが重要なんじゃないの?

 彼女の意向ってやつを汲めばさ。

 それが俺様ーー勇者様の使命だろ!?

 俺様が勇者としてこの世界に降臨してきたのは、何のためだと思う?

 有象無象うぞうむぞうの現地人の生命に、気を配るためじゃない。

 諸悪の根源ーーそこらじゅうに魔素を振りまき、人間社会を脅かす、魔族や魔物の頂点たる魔王を、討ち果たすためだ。

 そうでなきゃ、異世界くんだりまで来た意味がないっつーの!」


 俺は自分自身で納得しながら、自分の意見を思い返す。


 ーーそうだよ。

 俺は聖女様の意向を尊ぶがゆえに、万全の体制で、魔王と対峙する。

 そのため、治癒力の補助として、ポーションをありがたく頂く。

 それの、どこが悪い!?

 聖女様だって、自らの生命よりも、魔王退治を優先するさ。

 それが、こっちの世界の現実リアルってやつだ。


 それに、ひかりもさ、少しは現場の判断を信用しろってんだ。

 俺様が治癒や回復にしくじって魔王に殺されたんじゃ、目も当てられないだろうがーー!


 などと脳内でわめいてから、俺はふと思い出した。


(そういえば……)


 即座に手を広げて、ステータス表を表示し、左下の隅を見る。


(やっぱ、あった、あった。

 通信OFFのボタン!)


 空中に浮かぶステータス表に、俺は指を向けた。


 コイツを押してやる!

 俺様は勇者なんだ。

 相手が上司だろうとなんだろうと、不当な命令、強引な干渉はすべて排除する!

 事件は、遠い地球の管理室で起きてるんじゃない。

 異世界現場で起きてるんだ!


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