第24話 俺、わざわざ異世界から、こっちに来てるんだよね。大事な身体なんだ。

 みなを代表するかのごとく、白い鎧の騎士は、胸に手を当て、マサムネに向かって頭を下げた。


「感謝します。異世界よりおいでになった勇者よ。

 召喚儀式の結果がどうであったか気がかりでありましたが、間に合って、ほんとうに助かりました」


(ふむーー)


 俺、勇者マサムネは満足した。

 初めは、みなが聖女ばかりに感謝の念を表していて、少々不快に感じたものだが、さすがに育ちが良いのかな。

 この騎士ーーイケメンなのに、礼儀を知っている。

 誠意に満ちた態度に、好感が持てる。


「なに、礼には及ばぬ。

 魔物を滅ぼすことなど、俺様にはどうってことはない。

 宇宙レベルの力を持っているからね」


「宇宙レベル……?

 ウチュウとは何のことかよくわかりませんがーーなにはともあれ、強大な力をお持ちで、なんとも頼もしい」


 騎士のレオンが目を見張った。

 周りの者たちも騎士に同調して、口々に声を上げ始めた。


「ウチュウレベルなんて……。聞いたことはないぞ」


「強い勇者様が、召喚できた。これで安心できる」


「聖女様の尊い祈りが、神様に届いたのだ」


「勇者様に感謝を捧げよう!」


 生き残った人間たちが、ワアーワアーと歓声をあげ始めた。

 互いの無事を喜びあって、泣きながら手を取り合っている。


(なんとか、勇者っぽい仕事をやり遂げた。

 本当に良かった……)


 少し肩の荷がおりた気分になった俺は、改めてぐるりと周囲を眺める。


 文字通りの死屍累々ししるいるいーー。

 猪を巨大にしたような魔物が、何十頭も横たわっている。

 炎の魔法で血溜まりは乾いているが、周囲はすっかり血の海だ。

 さらに、焼け焦げた魔物のしかばねを眺めてみると、何人もの人間が下敷きになってるさまが見受けられた。

 聖女さんや騎士さんたちの仲間なのだろう。

 俺様が登場するまで、彼らが全滅しかけてたのは間違いなさそうだ。


(仕方ない。らなきゃ殺られる世界なんだしな。

 人間も魔物も、その意味じゃ平等だ)


 コッチの世界は、現代日本よりよほどワイルドで、露骨に弱肉強食がまかり通っている。


 俺は、ボス魔物の焼け焦げた死体に目を遣る。

 なかなか機敏な動きだった。

 配下の魔物に左側を襲わせると同時に、反対の右側から攻撃を仕掛けてくるとは。

 かなりの頭脳プレイである。

 まあ、魔物化してなくとも、狼や野犬でも、この程度の頭脳プレイはするのかもしれんが。


(それにしても危なかった……)


 俺は冷や汗を流し、生唾を呑み込む。

 戦闘の最中は、恐怖耐性が発動してたからか、なんなく動いて戦えた。

 が、戦闘が終了した今では、ちょっと怖い。


 たしかに純粋な格闘技をする場合なら、今の俺様は無敵だ。

 物理攻撃を受けただけなら、その際に生命を取られさえしなければ、損傷のすべてはナノマシンで修復できる。

 だが、腕が喰いちぎられた瞬間、一瞬ではあったが、しびれるような激痛が走った。

 ーーということは、ナノマシンが起動するまで、少し時間がかかるってわけだ。

 牙をいた箇所が右腕じゃなく、ちょっとズレて心臓一撃だったら、お陀仏だった。


 それに、魔法で攻撃を喰らった場合、ナノマシンでは役に立たない。

 魔法による防御力や治癒力でカバーするしかできないから、ステータス表示にあらわされた数値を超えた損傷を受けたらヤバイはず。


 俺は、こんな訳の分からない世界で死にたくはない。

 どうせなら、完璧を期したい。


 俺はさらなる能力向上を企図して、彼らに話しかけた。

 俺自身が救ってやった連中にーー。


「レオンくん、リネットちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど。

 いいかな? 聞いてくれるよね。

 だって、俺様はキミたちの命の恩人だもの」


「はい、なんでしょう?」


 リネットが好奇に満ちた目をして、俺の方を見た。

 あとの連中は、彼女の後ろへと回る。


 うん。

 ホントーーお姫様と忠実なる家臣たちってかんじだ。


「俺、わざわざ異世界から、こっちに来てるんだよね。

 大事な身体なんだ」


「はい。承知しております。

 突然、お呼び立てして、申し訳ありませんでした。

 さぞ、あちらの世界でも、みなさまから必要とされておいででしょう」


「ーーうん。そうなんだけどね……。

 そう、俺様はどこの世界にあっても、とても大切な重要人物なんだ。

 俺様は宇宙レベルの男だからな」


 俺はまたもや胸を張って、ことさら堂々とした態度を取った。

 他に虚勢の張り方すら知らないのだから、仕方ない。

 だけど、それはあくまで表向きってヤツなのも相変わらずで、やはり内心、戦々恐々としていた。


 だって、これからずいぶんムシが良いことを、現地の人相手にお願いしようとしているわけだから。


 実際、こういった後ろ暗いところがある頼み事をするときほど、強圧的に出たほうがうまくいく場合が多い。

 そんなかんじが経験上するから、尊大な振る舞いをしてるわけでもある。


 よし、一気に、それでいてさりげなく切り出すぞーーと俺は意気込んで、両拳を強く握り締めた。


「ーーだからさ、悪いんだけど、君たち、俺に力貸してくんないかなぁ。

 これから魔物に襲われたりしても、俺様が無傷で済むようにさ」

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