あの鳥が旅立つ時に
いろたすな。
第1話 尊敬
セミが鳴き始め、気温が高くなった。
4月から入学した学校も慣れてきて、なんなら
退屈していた。
いつも通り朝学校に登校し、席に座った。
チャイム音が鳴るギリギリに。
いつも、学校に来るのはチャイムが鳴るギリギリの時間だ。
別に朝が弱いわけでもなく、家が遠い訳でもない。
ただ、早めに来て1人で過ごしている時間がなんとなく嫌だっただけだ。
入学早々、私には友達というものができなかった。
優しい人達が話しかけてくれたが、素っ気なく返してしまい
なんだ?こいつ
って思われたのだろう。
中学の頃、人間関係でトラブルになってしまい
当時仲のいい友達から嫌われてしまった。
そのせいで人間不信になり、
仲良くしようとしても怖さが勝ってしまっていた。
朝読書の時間が始まり、
直前まで、賑やかだった教室は映画館のように
静まりかえった。
聞こえてくるのは鳥やセミの鳴き声、風や車がはしる音。
そして1ページずつゆっくりと時を戻すように捲られる本の音。
この時間がなにより好きだった。
その時間が終わると、朝の挨拶、HRを行った。
「昨日のバスケの試合みた!?」
と言っている1人のクラスメイト。
燕 涼太だ。
男子バスケットボール部に所属していて、
どうやら1年で唯一のAチームらしい。
Aチームは基本的に3年生で、2年生も多くいる訳では無いらしい。
机の横には、学校用の鞄の他に部活用の鞄とバスケットボールシューズがあった。
そこには
大きく
''城南森ヶ丘高等学校 1-4 燕 涼太''
と書かれていた。
前回の中間テストでも、1教科ほぼ90点以上
学年1位だった。
性格も明るく外向的であり、顔もかっこいい。
それにはスポーツもできる。
まさに ''模範'' のような存在だった。
彼の太陽のような輝きに私も少し憧れを抱いていた。
彼の事を私はすごく尊敬していた。
昼休み。
私は図書室に本を返しに行った。
この学校は、去年新しく塗り替えられたらしく、床も壁も白く綺麗だった。
だが、先生達の意見で図書室だけは塗り替えるのをやめようという話になり、図書室だけはそのままだった。
新しい校舎に比べて図書室は、素朴な匂いと雰囲気がした。
そんな図書室が私は好きだった。
「返しに来ました。1年4組 桃谷 日菜です。」
「日菜ちゃんね!」
と声を返したのは図書室の先生の、
灰谷先生だった。
入学当初から図書室が好きで通っていたため、
いつの間にか仲が良くなっていた。
「日菜ちゃんいつも難しい本読んでるよね?」
「そうですね、その方が勉強にもなると思うので、」
「日菜ちゃんは偉いね!」
そう褒められると、いつも自然と笑顔になっていた。
この図書室には、本屋にはない古い本が沢山あった。そういう本は他の本と違い表面がザラザラしており少し汚れていた。
そういう本に触れる度なんだが、懐かしさを感じた。
私は借りたい本があった。
それは、表紙に2匹のうさぎがいる本だった。
背景には真夜中の暗い景色が広がっている。
この本は、初めて親に買ってもらった本だった。
幼い時に、両親が離婚して母子家庭だった私は
毎日寂しい思いをしていた時があった。
その時に母親から買ってもらった
''初めての本''
「懐かしいなあ」
と思わず呟いてしまった。
「何が懐かしいの?」
と言ったのは隣の本棚から覗いていた、燕 涼太だった。
驚いて「わあ!」と声を出してしまった。
静かな図書室にはその声は奥まで響いた。
「いい反応笑。それで、何が懐かしいの?」
「この本が懐かしいなあって。」
苦笑いして答えた。
「それどんな本なの?」
涼太は聞いてきた。
日菜は、そんな涼太に言葉を詰まらせた。
「えーっと、この2匹のうさぎの兄弟が真夜中に
はぐれちゃうっていう話」
「そうなんだ!面白そうだね!」
彼は今まで見た事ない笑顔でこちらを向いてきた。
「できたら、その本読み終わったら貸してくれない?」
涼太はそう言った。
私は「うん」と頷き、すぐに本を借りて図書室を出た。
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