モブ転生したので推しの闇堕ちエンドを防ぎたい!
瀬尾優梨
第1話 生まれ変わって異世界進出
あっ、私異世界に転生している、と気づいたのは、五歳のときのことだった。
前世、私は日本で暮らす平凡な女性だった。高校卒業後、大学進学費用を出すのが難しいと親に言われたので、在学時のアルバイト先だったスーパーマーケットのパートになり、間もなく正社員に採用された。
接客は嫌いではなかったけれど、本当は大学に進学して研究職に就きたかった。でも大学なら何歳になっても入学できるのだから、今はしっかりお金を貯めておこう……と思っていたある日。
バイトのかわいい女の子に懸想して逆上したクレーマー客が店内でナイフを振り回し、女の子をかばった私が刺されてから後の記憶がない。
多分、出血多量で死んだんだと思う。享年、二十四歳。
せめてあの女の子が心身ともに無事であることを祈っている。
……そんな前世の最期のことを、物心ついたときから覚えていた。
だから私は「アレクシア」という名前を与えられ、金髪やら銀髪やらが普通にいるこの世界は最初、ヨーロッパのどこかの国かなと思っていた。前世ではパスポートを持っていなかったから、まさか死後に初めて海外に行けるとは、と嬉しかった。
それに実家はそこそこ裕福だったようで、いつもおいしいものを食べられてかわいい子ども服も着せてもらえた。今世の両親は父親がすごいイケメンで、母親は平凡顔だけどとても優しくて愛情深い人だった。
おおー、私の第二の人生はこのヨーロッパのどこかの国の裕福なお嬢様なのかな、と思っていた。
……でも五歳のときに両親に連れられて訪問した怪しい施設で、占いに使う玉のような怪しい物体に触れたところ、それが赤く光った。
そして「お嬢様は炎属性の魔力をお持ちです」と知らない大人に言われたとき、あ、これは海外転生ではなくて異世界転生だったのか、と気づいた。まさか海外ではなくて、惑星の外にまで進出していたなんて。
後々に分かったのだけれど、異世界転生を果たした私が暮らしているのはリール王国というところで、私の父親は王国魔法師団のお偉いさんだった。
母も優秀な魔法使いらしいし魔力は遺伝するそうなので、そんな二人の娘である私も魔法使いなのはごく当たり前のことだったようだ。
父は、「アレクシアが大きくなったら、お父様の紹介で魔法師団に呼ぶからね」と親バカ……を通り越してそれはさすがに七光りの濫用しすぎじゃないか? と思われることを平気で言う。
魔法師団も内部でいろいろ部署やランクがあり、父の紹介で入団すれば下々の者をあごでこき使って仕事をサボりながらお給料がっぽりもらえる部署に就けるとか。
……いやいや、それはだめでしょう!
「おとうさま、しゅうしょくはびょうどうじゃなきゃだめなの。おとうさまのちからでしゅうしょくするのは、よくないの!」
私が必死に言うと、父は困ったような顔になった。
「そ、そうか。でもね、シア。私はかわいいシアがうっかり戦場に行ったりしないようにしたいんだよ」
「王都は平和だけど、街の外には魔物がいるの。お父様もお母様も、シアが魔物と戦うお仕事をすることになったら辛いのよ」
父に続いて、母も言う。
顔はとてもいいのに若い頃から魔法一筋で恋愛には興味がなかった父は平凡顔の母に一目惚れして熱心に口説き、結婚にこぎ着けたそうだ。
なお、私は母と同じ茶色の髪に緑色の目で顔立ちも母によく似ているけれど、父は「うちの妻と娘は世界で一番美しい」と言ってはばからない。
……それにしても、父だけでなく母も過保護のようだ。
私が生まれたときが相当の難産で母が生死の境をさまよったらしく、父はそのことがトラウマになっているそうだ。だから多くの家では跡取りの男の子が熱望される中でも父は、「子どもはシアだけでいい」と言っている。
そういうことだからか、父も母も私のことになるとちょっとやり過ぎなんじゃないかってほど甘くなる。
「でも、そういうおしごとをするひともいるでしょう?」
「それはそうだが、そういう人たちは自分で希望しているから……」
「だから、わたしもだいじょうぶ! それにわたし、まほうのけんきゅうがしたいの!」
せっかく、魔力を持って異世界に生まれたんだ。それに今世は、経済的なゆとりもある。
だから今世は、魔法の研究をしてみたい!
「わたし、まほうでいろいろなものをつくりたいの! それで、たくさんのひとをしあわせにしたい!」
「おお……シア! そんな立派なことを考えていたのか!」
娘に甘い父は涙ぐみ、私をぎゅっと抱きしめた。
「シアは、私よりずっと先のことを考えていたのだな。……分かった。それじゃあお父様はシアを応援するよ」
「……そうですね。魔法研究なら討伐隊よりずっと安全ですし、たくさんの人を幸せにしたいなんて素敵な目標ですもの」
母もそう言って、私の頭を撫でてくれた。
……よし、これで親の七光り縁故採用ルートは回避できそうだ!
今世は、やりたいことをやって悠々自適に生きるぞ!
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