第一話 魔物が住む時間帯
静かな団地の付近にある児童公園で、一人の子供が砂場で遊んでいる。
この子の名前は、ユキ。
歳は、4歳。
ユキは、団地の3階に、両親と祖母とで暮らしていた。
白いワンピースの服を砂で真っ黒に汚しながら、砂場で、城作りに夢中である。
ユキの父親は、サラリーマン。
帰りは、いつも20時過ぎ。
母親は、団地の近くにあるスーパーで、昼過ぎからパートで働いている。
祖母が一緒に住んでいて、保育園への送り迎えは、祖母がしている。
いつもなら、祖母も一緒に公園へ来るのだが、今日は、祖母の友人が部屋に遊びに来ていて、二人は、昔話に花を咲かせていた。
大人の、ましてや老人の話など、4歳の子供には、退屈な事である。
ユキは、こっそり部屋を抜け出して、一人で公園へ来ていた。
先程までは、他の子供達もいて、賑やかだった公園も、一人、また一人と帰って行き、今では、ユキ一人である。
砂場の近くにある街灯がチカチカと、明かりを灯す。
空は、真っ赤な夕焼け空。
太陽がもうじき、沈もうとしていた。
小さなプラスチック製のバケツとスコップで、砂を集めては、形を作り、ユキは、城を作る。
「ユキちゃん……。」
名前を呼ばれた気がして、ユキが顔を上げると、薄暗い街灯の下、母親らしい姿が見える。
しかし、何故か、後ろ向きに立っていた。
「ママ?」
ユキは、立ち上がり、街灯の方へ近付いて行く。
白いシャツに黒いスカート。
いつもの母親の服装である。
「ユキちゃん、一人で遊んでいるの?」
後ろ向きのまま、そう尋ねる母親らしき人物。
ユキは、砂場の城を指差し、明るく言う。
「ねぇー、ママ、見て!!お城を作ったのよー!」
キャッキャッと声を上げ笑うユキに、優しい口調で言う。
「まぁ、上手ね。」
しかし、砂の城なんて見てはいない。
相変わらず後ろ向きである。
「でもね、ユキちゃん。一人で遊んでいたら、危ないわよ。」
「だって、おばあちゃん、お話ばかりして、楽しくないんだもん。」
そう言いながら、ユキは、母親に近付き、後ろ向きの、その身体に、しがみついた。
「ねぇ、ママ?どうして、ママは、後ろを向いてるの?」
「えっ?後ろ向き?いやーね。ちゃんと見てごらん。ママは、前を向いているでしょ?」
そう言われ、ユキは、母親から少し離れて見た。
チカチカと街灯が点滅する。
母親の身体は、ちゃんと前を向いていた。
ユキは、首を傾げると、ゆっくりと顔を上げていく。
「でも、ママ……。」
そう言いかけて、ユキは、ビクッと大きく身体を震わせた。
身体は、前を向いているのに、首から上は、後ろを向いているのだ。
顔を後ろに向けたまま、ソレは言った。
「こんな時間まで、一人で遊んでいると……魔物が出て、食べられちゃうわよ。」
そこまで言うと、クルリと顔を前に向けたソレは、母親の顔ではなかった。
目は、真っ赤に血走り、口は耳まで避け、鋭い牙を剥き出している。
口からは、唾液が糸を引いて地面に落ち、ユキは、あまりの怖さに、声も出せず、動けなくなった。
両手を口にあて、ガクガクと震えているユキの頭を大きな口を開け、ガブリとくわえる。
バリバリと音を立て、ソレは、ユキを食べていった。
唾液と血液で身を染めながら、ソレは、公園から、スッと消えて居なくなった。
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