恋人は一反もめん!
崔 梨遙(再)
1話完結:1200字
黒沢影夫の探偵事務所は、超常現象解決所も兼ねている。その日、現れたクライアントは超常現象解決所の方の依頼だった。
ただ、クライアントは一風変わっていた。クライアントは長細い布だった。そう、彼こそ妖怪一反もめん。九州の妖怪だ。コーヒーを飲みながら話は進む。
「要するに、恋の相談なんですね?」
「そうばい、九州に遊びに来ていた千佳ちゃんに一目惚れしてしまとばい」
「で、千佳さんに会いに東京まで追いかけて来たと」
「そうばい」
「そんなことするから、特急電車で目撃されたりするんですよ」
「まあまあ、で、儂の恋はどうなるんじゃろうか?」
「ちょうどいい所に来ましたね。実はええもんがあるんですよ」
「いいもの?」
「砂かけ婆から命懸けでわけてもらった“惚れ砂”があるんですわ」
「なんとー! そんな便利なものがあればよかねー!」
「相手にこの砂をかければ、相手はこっちのことを好きになるんやで」
「本当か?」
「ウチの事務員、この砂のおかげで付き合っています」
「なんと! あの別嬪事務員が、この砂で-?」
「はい、僕と離れられないと言ってますわ」
「買う! 買うばい!」
「お値段は1回分で……このくらいでいかがでしょう? 別途相談料も合わせてこのくらいになりますが、だいぶん安くしてまっせ」
「高っ! まあ、先行投資と思うことにするばい」
「では、幸せをお祈りいたします」
その日の夕方、一反もめんは人通りの少ない公園で千佳を待っていた。千佳は大学から帰る時、この公園を横切って近道をする。千佳は160センチくらい。スレンダーなショートカット、目鼻立ちがくっきりしている美人だった。
現れた! 千佳だ!
一反もめんは千佳に近寄って言った。
「ちょっと、お話するばい」
千佳は驚き過ぎて固まってしまった。
「ああ、驚かないでほしいばい、確かに儂は妖怪やけど、千佳ちゃんの味方ばい」
「……味方? 妖怪?」
「一反もめんというばい、よろしくお願いするばい」
「……布?」
「木綿ばい。そんなことはどうでもいいばい、儂、千佳ちゃんには幸せになってほしいばい」
「いや、今、充分幸せですから」
「彼氏は? 恋人は?」
「今はいませんけど、それはそれで気楽で楽しいですよ」
「儂、千佳ちゃんのことが大好きばい。儂と付き合ってほしいばい」
「いやいや、布と付き合うつもりはありません」
「ちょっと待った! 最後に、千佳ちゃんの幸せを祈らせてほしいばい」
「祈る?」
「この幸せの砂を少しだけ千佳ちゃんの頭からかけたら幸せになれるばい」
一反木綿は惚れ砂を取りだし、千佳の頭の上にかけようとした。風が吹いた。一反もめんからすれば逆風だった。砂は全て一反もめんにかかった。
「儂、儂のことが1番好きば~い!」
一反もめんは自分で自分を抱き締め始めた。千佳は首をかしげながら去って行った。それ以来、一反もめんはナルシストになったという……風の噂だが。
恋人は一反もめん! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます