第10話 真夜中の犯人探し
「ちょちょちょっと! 大丈夫!? 一体何があったの!?」
「あー……いや、何でもないです。急にこれが降ってきただけなんで」
「小麦粉が1人でに?」
「はい、1人でに」
「そっかそっか。小麦粉が1人でに降ってきた.....わけないでしょう! そういえばこの薄着のこともそうだし、何か隠しているわよね? 怒らないから言って。じゃなきゃ魔法のことバラしちゃうからね……!?」
ピフラは鬼気迫った顔で脅迫する。
「はあ……別に大したことじゃないですよ」
それからガルムは訥々と語ったのは、屋敷での嫌がらせの数々だった。
先程の小麦粉爆弾のように、何かをぶつけられたり、部屋の物を壊されたり。最近は夜な夜な服を破られているらしい。
(それでやたらと薄着をしていたのね……)
「ガルム、そういうことは必ず言ってちょうだい」
「公爵さまには報告してます」
「わ・た・し・に・も、言って欲しいの! 姉には弟を守る義務があるわ」
「いいえ。姉上は
ガルムは明確に答えた。まるでそれが、課せられた使命であるかのようにキッパリと。
赤く鋭い眼光に射竦められたピフラはすっかり強張る。これだけハッキリ誰かに境界線を引かれたのは、人生でこれが初めてだ。
知らぬ間に自分は何か下手を打ったのだろうか。あるいは地雷を踏んだのか。ピフラの目が落胆を隠せず伏せがちになる。
すると、それを見たガルムは溜め息をつき指をパチンと鳴らした。
瞬間、ガルムの足元で風が旋回し、全身の小麦粉を巻き込んで風が吹き上げた。
小麦粉汚れは失せてすっかり綺麗になっている。
(ドライクリーニングか!!)
ピフラは魔法の「高機能機器」感に感嘆した。
「これで分かりました? 魔法がバレたら面倒だから何もしていないだけで、その気になれば色々出来るので大丈夫です」
「そう、なのね……」
(でもそれって、魔法が使えなきゃ今みたいにやられっぱなしってことじゃない?)
やはり真犯人を捕まえなければ。何処の馬の骨かもしれない奴に、みすみすガルムの心を病ませてなるものか。
その後、2人は姉弟水入らずでジャム作りをした。
しかしピフラは上の空で、頭の中では「犯人の捕まえ方」をシミュレーションしているのだった。
◇◇◇
午前0時、ピフラはベッドを抜け出した。
軋んだベッドの上で枕の犬のぬいぐるみがぽりと倒れて横たわる。ヒビが入った右目は現在ガルムが修繕中で別の赤い石で代替している。
代替品を用意する方が手間だろうしぬいぐるみごと預けようとしたが必要ないと固辞され、これまで通りピフラと褥を共にしている。
これまで、両親には口酸っぱく「夜はぬいぐるみを近くに置くように」と言われてきた。
だから夜にトイレに目覚めた時ですら持ち歩いていたし、それが当然だと思って生きてきたけれど。しかし前世の記憶を取り戻した今なら、それがただの親のエゴだったと分かる。
(そもそも無理矢理ぬいぐるみを押し付けてくるのも謎じゃない? なんで……)
理由は見当もつかない。今夜ばかりはぬいぐるみと別行動させてもらおう。
なぜならば、これからガルムに嫌がらせをする犯人を現行犯逮捕しに行くからである。
昼間の様子からして、ガルムはこの件の対処を避けているようだった。
唯一このことを知る公爵もガルムの部屋を別室に移させただけ。根本的な解決を行なっていないのが現状だ。
しかしこのまま犯人を野放しにしていたら、嫌がらせがエスカレートする事だろう。そうやって長期的に心的外傷を与え続けられたらガルムはどうなる?
──病む!
──ヤンデレ化に一歩前進!
──そしてわたしは死ぬ!
そういうわけで、ピフラは1人、ガルムの部屋に忍び入った。お忍びなので無論照明の類はつけないが、幸い今夜は満月なので部屋は明るんでいる。
そして部屋の奥、大人6人は入る衣装タンスの中へと隠れ入った。
ここ数日のターゲットはガルムの洋服らしいので、きっとここに近づいてくるはず。
そして犯人と対面したら事情を聞こう。上手く諭せたらいいのだが──。
そうこうする内に、時刻は午前2時を回った。
幸か不幸か部屋では何も起こらず、ピフラの懐中時計の秒針の音だけが虚しく鳴っている。
今夜は不発だろうか、と半ば諦めたところで、ギイイ……ッとドアが開く不気味な音がした。
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