ピグマリオンの果実

羽弦トリス

第1話A型作業所の風景

藤村純也は29歳の時に統合失調症を患い、以来精神障がい者として生きてきた。

現在の年齢は45歳。

収入は障害年金でまかなっていたが、田舎から出てきた母親との生活費が足りないので仕事を探していた。

ハローワークで障がい者枠の仕事を探していたが、右足が中々自由が効かず、仕事探しは難航した。

ハローワークの職員に、A型作業所での勤務を勧められた。

A型作業所は、様々な障がいを持つ人が勤務し、1日4時間働き、給料がもらえるらしい。愛知県の最低賃金は1030円だったか?兎に角、1日に4000円ちょい稼げる。

月のマイナス8日休みで、基本土日は休みだが、月によっては土曜日出勤もある。祝日は基本的に出勤。

月に9万円前後の給料。これは、有り難い。

藤村は出来立てホヤホヤの施設を選んだ。

「ひまわりワークス」

なる、事業所にハローワークの職員が電話して、翌日昼の1時半からの面接が決まった。

ハローワークの職員に、

「藤村さん、頑張って下さいね」

と、言われ丁重にお礼を言ってから面接票を受け取り帰宅した。


求人票には、朝の10時から15時まで勤務で、休憩は1時間。たまに、残業があるらしい事が書いてあった。職種は軽作業。

ハローワークの職員は、内職仕事だと言っていた。

早速、履歴書を作成した。


翌日、10月の末だが名古屋はまだ暑いのだが、スーツを着て面接に向かった。

1時半の15分前に事業所に到着した。ドキドキしながら、インターホンを鳴らす。

反応が無い。

もう一度鳴らす。

反応が無い。

藤村はまさか、面接地を間違えたのかと思い、電話を掛けたら、今から直ぐに向かいます。と言われて待った。

現れたのは、若い男性だった。

解錠し部屋に入ると誰も居なかった。

冷たいお茶を出されて、若い男性と対面に座り面接を始めた。

田村と言う苗字だった。暑いので藤村はお茶を飲む。


田村さんは、履歴書を読んだ。

いくつか、質問された。前職が団体職員だったのだが、説明が難しく、貿易における第三者証明機関である事を説明した。

即決だった。

「藤村さん、明日から一緒に働きましょう」

と、言われ藤村はホッとした。

だが、室内はテーブルが数脚と、働いている人が居ない。

田村さんの話しによれば、人数が集まるまで、他の事業所のお手伝いをしていると言う。

藤村は帰宅すると、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、冷蔵庫から缶ビールを取り出し飲んだ。

これで、生活苦が少し、否、だいぶ楽になる。

その夜、藤村は自分の母親とスーパーのお寿司で就職祝いをした。

発病してから、16年。

それまで、色んなアルバイトをしてきたが、どれも半年以上続かなかった。

メンタル面が不安定だからだ。だが、45にもなると、安定してきて働くなら今だ。

明日からの仕事は、楽しみと少しの不安があった。

母親は、取りあえず半年を目指して頑張りなさいと言う。母親は現役の介護職員だ。

70歳だと言うのに。

これが、「ひまわりワークス」のプロローグである。

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