第二章14  『命懸けの探索』

 生徒全員が集合したのを確認してから密林へと出発した。

 ヒロアキたちが目指す場所は密林の奥にあると言われる場所。そこには、ドラゴンの巨大な卵があるらしいのだがその卵を持ち帰らなければならないのだ。


 目的地を目指して北上、ひたすら歩き続けた。道中では魔物の群れとの戦闘もあったが特に問題なく進むことができたので良かったと思う。

 長い道のりを越えてそして、ついに目的地に到着した。

巨大な木々が生い茂る密林。


「では、二人一組に分かれて探索を開始したいと思います。制限時間は日没。目印を立てて置きますので、それまでに指定されたモノを持って戻って帰って来てください」


「「「はい!」」」


 簡易的なテントと目印の看板をアンリエッタが組み立てている。先生が指示を出している間に、俺は周りを見渡して状況を確認した。密林には様々な種類の生き物がいて、それらを避けながら進むだけでも一苦労しそうだ。

 先ほどの通り、二人一組になった生徒全員は目的のために各ルートへ散らばって行った。


「ちぃーっす! テンションぶち上げてこー。今日はよろしくね、ヒロアキくん」


「ああ、よろしく頼む。俺は足手まといだから、期待はあまりしないでくれ」


 なんだか今日はいつにも増してローリエが、ハイテンションな気がする。そういえば彼女と行動を共にすることにしたのだったな。

 それから俺たちの授業を体験してみたいとの意見で、猫人びょうじん族のリーフィアが付き添いで参加してくれることに決まった。


「お久しぶりです。ごしゅじんさま」


「り、、リーフィアじゃないか!? 学院の幼学部に入学したと聞いていたが……見違えたな」


「はい。おかげさまで元気に学院生活をおくっております! あれもこれも、ごしゅじんさまの助けがあったからです」


 入学してリーフィアは間もないので今は幼学部の生徒だ。同じ年齢の子供たちと勉強をしつつ魔法や武術の訓練もしている。…となると、学費を出しているのは仲間のレイナか。


「そうか……キミには自由な暮らしを体験させてあげたかったからね。……良かったよ。元気そうで何よりだ」


 これまでのリーフィアの奴隷生活や出会いを回想して思うと、おもわず涙ぐむヒロアキ。そして、リーフィアの頭を撫でた。気持ち良さそうにリーフィアは目を細めると、そのままヒロアキへ抱きつく。成長を見守る親の気持ちとはこういうものなのだと十六の歳にして実感した。出そうになる涙を堪えて、


「本当のお父さんやお母さんの行方はわかったのかい? 行方不明になったリーフィアを探しているとの事だけれど……」


「そうなんです! 連絡を取って無事に再開できましたよ。両親が「ヒロアキさんにも一度お会いしてみたい」と伝えてほしいみたいでした。今度ご紹介しますね」


 満面の笑みを浮かべてリーフィアはヒロアキへ報告する。むすめが悪者に捕らえられ奴隷に身を落として売り飛ばされたとの噂を聞き、リーフィアの両親は心配していた……どうやら家族と無事に再会できたらしい。

 仮に、ヒロアキが偽りの父親だとしても誇りに思う。リーフィアが本当の家族に再会出来た事が、とても喜ばしいことだ。


 世界の崩壊と魔王ふっかつを阻止するためにもそろそろ本題に入らなければならないだろう。……ぜひリーフィアのご両親とはいつか俺の方からも直接、ご挨拶に伺いたい。

 俺は安心した様子で答えた。すると、リーフィアは少し照れたように頬を赤く染める。


「まずはこの辺りの探索をするんだよな?」

「そうそう〜! 近くに川があるみたいだからまずはそこを目指して歩こうか」


 俺たちのチームはローリエの提案に乗って川沿いを歩くことにした。裏道を抜け、急勾配の山道を三十分ほど歩いてしばらくすると、ちょうどいいサイズの岩がいくつもあるのが視界に入ったので椅子代わりに座って休憩を挟むことにした。


「はい、これあげるー! 栄養をちょっと補給出来るよ」


「いただきます。ローリエさん、ありがとう」


「遠慮なく貰ってくぜ……サンキュー」


 制服のポッケから取り出した飴をローリエは二人に手渡してきた。安全な食品みたいなのでヒロアキは、それを受け取って口に入れる。すると口の中に塩っけと甘い味が広がった。ふと疑問に思ったヒロアキは小声で、


「そういえばローリエの竜の尻尾ってどうやって隠しながら収納してんの?」


「あー、あれね。腰巻きで覆って巻きつけて、魔法で形と姿だけ消して見えないようにしてんだー」


「アイテムと魔法を併用して尻尾を隠しているのか。なかなか賢い子だな」

 近くを流れる川のせせらぎを聞きながら、ヒロアキたちは今後の方針について話し合う事にした。

まず、最短最速でドラゴンの卵を手に入れるためにはどうすればいいのか? という問題だが。


「本題の前に。私には皆さんの授業を体験し、経験するという利点がありますが卵を入手出来なかった場合そのチームはどうなるのでしょう。とても気になります」


「確かになんも言われてないようだ。入手出来る卵は一つのみ。どうなるのだろうか」


 真剣な表情でリーフィアは質問し、意見を述べる。大陸の世界中を探せばドラゴンの卵はたくさんあるのだろうが、今回の密林の卵は一つしか存在してないだろう。確かにその疑問はもっともだ。


「マ!? するとさー、奥地で鉢合わせになったら他の生徒とで争奪戦の奪い合いが起こったりしちゃう可能性が微レ存。それってやばたに〜」


 彼女たちの、その推測が正しいのであれば厄介なことに成りそうだぞ。なるべく魔法を覚えているであろう他の生徒との戦闘は避けられるならば、避けて通りたい。ローリエは焦ってあたふたしながら、チーム唯一の男性であるヒロアキへ意見を求め、



「その点もきっと魔法の大会に参加する権利を得る評価に繋がってくると俺は予想する。その状況下に陥った際、ソイツがどんな人間性なのかを見極めて試す為の良い判断材料になるだろうぜ。なにせ代表を決めるための授業なんだから……」


 憶測の域をでない。が、なりえる可能性は十二分にある。そんな時だった……突然茂みの中からヒロアキに向かって何かが飛び出してきたのだ!

 不意の攻撃を避けるべく飛び退き距離を取るが相手の方が一枚上手だったようで攻撃を避けきれず攻撃を受けてしまう。直撃は防いだものの、衝撃で俺は吹き飛ばされてしまった。


「ヒロアキくん!」


「ぐ……っ」


 大きな角を持つイノシシだった。鋭い眼光で俺を睨みつけている。どうやらこの魔物は俺に敵意を持って攻撃してきたらしいな。立ち上がって体勢を立て直そうとするも片方の足が一時的に痺れて上手く起き上がることが出来ない。イノシシはヒロアキに再度狙いを定めて猛ダッシュで突進してきた。

 違和感を感じる……ヒロアキの知っている動物の姿とはサイズが違っていた。あの巨大なイノシシ、突然変異か何かなのか!? ここで逃げるわけにもいかない。ヒロアキは覚悟を決めると短剣を構えて相手の出方を伺った。

と次の瞬間――、


 魔法の詠唱を終えたリーフィアが魔法を解き放つ。


「――星々スターダスト煌閃光フレアビットっ!!」


 放たれた無数の光弾は一直線に飛び、猪の頭部や胴体に直撃する。突然の攻撃に敵は驚いたのか、動きが一瞬止まったように感じた俺はすかさず攻撃を仕掛ける。「いまです!」リーフィアの合図とともに相手の懐に入り込み剣を振り抜く……イノシシの胴体を突き刺し貫くと、その一撃は確かに手応えを感じたのだ。

 短剣を引き抜いた傷口から大量の血が吹き出し、イノシシは倒れるとその場で力尽きた。


「ありがとう。リーフィア」


 見事、倒す事に成功したもののリーフィアの援護がなければ危なかったかもしれないな。しかし、弱虫だった昔のリーフィアと比べて、パワーも精神こころも本当に強くなっていて嬉しいよ。


 これもすべて憶測の域でしか無いが、もしかしたらあの猪のように巨大化した甲虫や生物が他にも身を潜めて生息している可能性がある危険な密林なのかも……。これも魔力と魔法の源『レノ粒子』とやらの影響によるものなのだろうか、


「イノシシさん、ごめんね……」


 息絶えたイノシシを見て、しゃがんで両手を合わせて祈るリーフィアは悲しげな表情を浮かべて呟いた。弱肉強食。自然の摂理だ、可哀想だが仕方がない。

 他者の命を奪うことは簡単にできるが、その逆はすごく難しい。戦うそれ以外の方法で分かり合い共存してゆくことは出来ないのだろうか。人も魔族も……。難しい問題だ。


「あたしもリーフィアちゃんと同じ気持ちよ。…悲しいけれど命を無駄にしない為にも先へ進もう」


 思うところがあるらしく、ローリエは複雑そうな顔をしていた。俺たちはイノシシを解体して食用の肉と防寒対策用の皮を剥いで回収すると先を急ぐことにした。


「俺たちも急ごう。こうしている間にも時間は進んでいる。他のチームはドラゴンの卵を見つけているかもしれない」


 だが、単純で生易しい場所では無いのは巨大生物が証明している。…この先に何が待ち受けているのか……不安と期待が入り混じった複雑な気持ちを抱えつつ歩みを進めたのだった。

 このあと、残念ながらヒロアキの嫌な予感は的中。密林の、生徒たちは自然の恐ろしさを嫌というほど体験する事となる。

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