その人と会う時は いつも雨だった

彼方希弓

第1話 食べ終わってからでいいかと

 カノジョの夏菜子が、せっかく うーたんの 誕生日なんだから、ちょっと高いケーキを食べようよ!!

 なんて言うから、2人で白金台のお店に行った。


 ケーキ屋さんだけど、イートインスペースも併設されている。

 ショーケースに並べられているケーキの中から2つ選んで、飲み物がつくケーキセット3500円。

 高くねー?

 普段の俺の昼メシ5日分だぞ!!

 でも、まっ、誕生日のお祝いだしな!!

 夏菜子がここへ行こうって言ったんだし、これ、夏菜子のおごりだろ?

 確認もしなかったけど、そう思っていた。


 ショーケースの中のケーキは、どれもこれもキラキラしてる。

 比喩じゃなくて、実際 金粉がかかっていたり、コーティングされているチョコがテッカテカだったり、フルーツもゼリーで固められてるからか、キラキラだ。

 美味しそう!!ってゆうより、なんだか プラスチックで出来た食品サンプルみたいだなって、思った。


 えーどうしよー!えーマジどーしよー!!

 って、夏菜子はずっと悩んでる。


「全部おいしそうで決められないから~、1番高いやつにする!!」


 夏菜子らしいな、と思った。


 選んだのは、この店イチオシだという1番高いチョコレートケーキ1700円と、ヘーゼルナッツクリームのなんちゃら1550円。

 俺は、いちごがぎっしりのっている いわゆるいちごショートケーキ1500円と、モンブラン1300円。

 値段だけ見ると、サイズがデカいのか?なんて思ったけど、サイズはいたって普通の8等分カットだ。

 俺のイメージだと、こうゆうケーキって、500円くらいじゃないか?普通は?

 さすがシロガネーゼ価格だな。

 ドリンクの中から一杯880円のコーヒーを頼んだ。

 ってか、ドリンクも高っ!!

 値段設定がバグってんな!

 夏菜子は、これも1番高いやつって、トロピカルフルーツジュースって1100円のものを頼んだ。


 ケーキと飲み物が運ばれてくる間、夏菜子はスマホの写真を見ながら、うーたんといろんなところへ行ったね~と笑った。


 そうだな、と言いながら外を見ると大つぶの雨が降っていた。

 え~~っ!!マジか!!今日雨降るなんて予報だったか?

 買ったばかりのスニーカーが濡れるのは嫌だな。

 食べてる間にやめばいいけど……


 店の前の道を歩く女性の傘が目に入った。


 黄色い傘


 黒っぽい傘をさして、足早に歩く人たちの中で、その傘だけが、なんて云うのか、そこだけがカラー写真であとはモノクロ写真みたいな感じに見えた。

 そこだけ色がある世界、みたいな?

 しかも、そこだけ時空の流れが違うみたいに

 ゆっくりと歩いて行く。


「うーたん?」


「えっ?」


「どうしたの?ぼーっとしちゃって?

 ケーキきたよ」


 あっ、いつの間に?

 全然気がつかなかったな。


「いっただっきまーす!!」


 そう言って夏菜子はケーキをほおばった。


「あれっ?撮らないの?」


 いつも、いつも、何か食べる前は、必ず夏菜子はスマホで写真を撮っていた。

 写真撮り終わるまで食べちゃダメ!!って、俺もいつもオアズケをくらっていた。

 それが、今はパクパク食べ始めている。


 あっ、いや?

 ぼーっとしちゃってた時に、もしかして、もう撮ってたのかな?


 夏菜子は食べながら、


「うん、今日は撮らなくていいの。

 ってか、他の写真も全部消しちゃうし」

 と、言った。


「全部消しちゃう?

 なに?スマホの容量いっぱいとか?

 クラウドに預けるとか、SDカードに移動すればいいんじゃね?」


 そう言いながら、俺もいちごのケーキをほおばった。

 わっ!!このケーキおいしいな!!

 さすがシロガネ!!

 高いだけのことあるわーー!!


「食べ終わってからでいいかと思ってたけど、

 もう、これでお別れしようと思って!!

 うーたん と」


 ん?

 ん、ん?

 お別れしようと思って?

 って、なに?

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