第21話 私に縁のある神様はおられないんですか?
「10名分の仕事着を作って頂きたいのですが、どうでしょう。」
「えっ、母ちゃんに?」
「はい。形状や柄はお任せします。」
「できれば、こういうヒラヒラのついた可愛いのがいいです。」
「あはは、時の神様と針の神様がやる気を出しちゃってますけど……。」
「やはり、職業に特化した神様もおられるんですね!」
「特化なのか分からないですけど、俺の出会った最初の神様が針神様なんです。」
「針の神様がおられるなんて……。」
「婆ちゃんとは赤の他人で、生地を分けてもらってたんですけど、その店を針神様が気に入っちゃったみたいで、婆ちゃんや店のお針子さんたちを祝福しちゃったんです。」
「祝福?」
「ええ。針神様が触った道具はピカピカになっちゃうし、婆ちゃんやお針子さん達も針神様の加護を受けたみたいで、急に腕が上がったって大喜びしてました。」
「か、神様の加護なんて……。」
「それで縁ができて、婆ちゃんが母ちゃんを養女にしてくれたんです。」
「神様が取り持ってくださったご縁なんて、良かったですね。」
「父ちゃんも早くに死んじゃって、うちは貧乏でしたからね。婆ちゃんのいる鶴舞村に引っ越して、神社で神饌を採ってくる狩人の仕事にも就けたし。全部神様がつなげてくれた縁ですね。」
「う、羨ましすぎます!」
「サキさん、興奮しすぎよ。アサコさんも何で泣いてるのよ!」
「だ、だってお嬢様……。」
「ああ、この家の裁縫道具を持ってきてくれれば、祝福するって言ってますよ。」
「す、すぐに持ってきます!」
サキさんとアサコさんは走って部屋を出ていった。
「じゃ、仕事着の件は、帰ったら母ちゃんに伝えておきます。」
「よろしくお願いします。当家には、櫛の神様と太刀の神様がおられるのですよね。」
「はい。」
「わ、わたくしに所縁のある神様はおられないのかしら?」
「それは……えっ、いるの?」
「えっ?おられるのですか!」
お母さんである五月さんの顔が、一気に明るくなった。
「でも、朽ちようとしてるって……。」
「えっ!どういう事ですの!」
「行ってみましょうか。」
「はい。お願いします。」
神様の案内でついていくと、一階の奥にある納戸についた。
「ここに神様が?」
「そうみたいですね。」
別の女中さんに納戸を開けてもらい中に入る。
「そこの奥の箱です。」
「はい。」
廊下に衣装箱を出してもらい、開けてみる。
「ああ、この帯の神様なんですね。」
「こ、この帯に神様が……。確かに曾祖母から受け継がれている古いもので、流石に解れが出て使っていないのですが……。」
俺は力なく帯に包まれている神様に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
”は……い……”
「どうしたらいいんですか?」
”もう……そっとしておいて……ください。”
「帯として使ってあげれば元気になるの?」
”いえ。もう……限界なのです……。”
「帯として?」
”は……い……。”
「帯として限界だって言ってます。」
「そうですね……。もう、100年近いですから……。」
「でも、布としては使えますよね。」
「ですが、流石に雑巾という訳にもいきません。」
「……、じゃあ、俺にください。」
「えっ?」
「母さんに解いてもらって、別のものにしてもらいます。」
「別のもの?」
「着るものの一部にできるか、箱に貼り付けて小物入れにするか分かりませんし、神様が残れるかどうかも分かりません。ですから、俺にください。」
「それは……構いませんが。」
「こんなに奇麗な布なんですから、何か別の形で残してあげましょうよ。神様もそれでいいだろ。」
”は……い。”
帯は陰干ししてもらい、俺は部屋に戻った。
部屋には、3人の女中さんが待機していた。
何だか、ワクワクした子供みたいな顔をしている。
「あ、あの。針仕事の好きな子がついてきてしまって……。」
「ああ、問題ないですよ。あっ……。」
「ど、どうしました?……針が……キラキラと……。」
「待ちきれなかったみたいですね。さあ、裁縫箱の中の針も出して並べてください。」
「はい!」
針は針神様が、そして握りばさみはお釜様が活性化させている。
「ああ、握りばさみまで奇麗になってる。」
「それは、鉄の神様ですよ。」
「こんなお道具を見ていたら、縫物がしたくなってきました……。」
「縫物してたら、もしかして針神様の祝福があるかもしれませんよ。まあ、針神様の気分次第だと思いますけどね。」
「は、はい!」
3人は裁縫道具を片づけて部屋を出ていった。
「はぁ、何だか家の者が全員で大騒ぎですわね。」
「まるで、昨日の花織さんを見ているようですね。」
「えっ、昨日の私って……。」
「じゃあ、昨日の続きをやりましょうか。」
「……はい。」
下着姿で横になった花織さんの下腹部に手を当て、昨日のおさらいを始める。
「じゃあ、ここから傷の修復に変化させていくよ。」
「ゆ、ゆっくりお願いします。」
「言葉では表現できないから、法力の流れに集中して。」
「はい。……もう一度お願いします……。」
もう一度、もう一度と繰り返したが、よく分からないという。
”花織にも法力を使わせて、弥七が確認してみたらどうだ?”
「ああ、それでやっけみようか。」
「はい?」
俺は服を脱いで花織さんの横に並んで寝た。
俺の顔の前に花織さんの下腹部があり、花織さんの目の前には俺の下腹部がある。
「な、何を……。」
「俺の腹に手をあてて、感じている法力を俺に流してみてください。」
「あっ……。」
「受けている法力を真似して流すんです。いきますよ。回復の法力から。」
「は、はい!」
その時、「失礼します」と声がかかり、サキさんが入ってきた。
「キャッ……、し、失礼しました。」
サキさんは戸を閉めて、廊下から声が聞こえた。
「申し訳ございません。弥七様は本日お泊りでよろしいですよね。」
「サキ。別に入ってきていいわよ。」
「で、ですが……その……。」
「法力の鍛練よ……その、誤解されるような事はしてないわ……。」
「そ、そうですか……。」
おそるおそるといった感じで、サキさんが入ってきた。
「本日は宿泊されると伺っておりますが……、夕食で食べられないものとかございますか。」
「ああ、俺ですか。食べられないものって……多分、大丈夫だと思います。」
「魚とか野菜とか、苦手なものはないんですか?」
「そんなに色々な種類を食べた事がないので、食べてみないと分かりませんが大丈夫だと思いますよ。」
「かしこまりました。」
「あっ、泊まらせてもらうんだけど、風呂はありますか?」
「は、はいございますが。」
「帯の神様にも入っていただきましょう。俺が掃除して水を張りますから。」
「えっ?」
「水の神様に水を出していただくんです。神社の神様にも好評なんですよ。」
「はあ?」
法力の鍛練を中断してもらい、俺は風呂に案内してもらった。
「こちらが風呂場になります。」
「へえ、木の浴槽……ヒノキなんですね。」
「はい。ご主人さまの代になって作り変えたお風呂でございます。」
樹林様や太刀神様、サキさんにも手伝っていただき、3間ほどの浴槽を洗って水環様に水を張っていただいた。
「な、何だか良い香りがいたします。」
「水の神様に出してもらった神様の泉らしいです。これなら、帯の神様も元気になってくれるかもしれません。」
俺は部屋に戻って花織さんの鍛練を再開した。
【あとがき】
帯の神様……、名前があるのかな……。
Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
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