第2話 カモは一羽50円で売れた
ムクドリ、ヒヨドリ、カラス等の鳥を毎日4羽から5羽狩れるようになってきた。
水辺に行けば、コサギやカルガモ等の食べ応えのある獲物も捕れる。
ただ、大きな鳥は、松葉の2本3本では仕留めきれないで、逃げられてしまう事も多い。
どうするか……。
草の葉っぱや、枯草の茎などを試して使い方を色々と考える。
枯れた葦の茎は十分な威力があるものの、鋭くカットする方法がない……。
いや、長めの枯草を硬くしてナイフ代わりに使えばいい。
何十本もの葦を切って、投擲の練習をする。
長いものなら、槍としても使えそうだ。
毎日、ザクザクと10本の葦をカットしていく。
カットした葦を更に半分にするので、30cmほどの獲物が20本になる。
大きな鳥ばかりだと、8才の俺には3羽運ぶのがやっとだった。
父さんの形見である背嚢に2羽詰め込んで、1羽をぶら下げて帰ろうとしたところに声がかかった。
「坊主、見事なもんだな。」
「おじさんは?」
「西の村のもんだ。坊主は部落のモンだな。」
「……うん。」
「一匹50円でどうだ。」
驚いた。
母ちゃんが1日働いて、50円だって聞いていたからだ。
俺は即決して150円を手に入れた。
追加で3羽狩って家に帰った。
「母ちゃん!カモが売れた!」
「何があったんだい?」
「川で会ったおじさんが、1羽50円で買ってくれたんだよ!」
「そんなに!」
「うん。3羽で150円もらった!」
母ちゃんは涙を流して喜んでくれた。
それから1日おきにおじさんが現れ、毎回カモを買い取ってくれた。
後になって知ったのだが、それでも相場の半額だったらしい。
つまり、母ちゃんはそれだけ安い賃金で働かされていたという事だ。
だが、8才の俺が、こんなガキの頃に金を稼げていたという事実は大きい。
そして、4か月を過ぎた頃だった。
もう、カモは北に帰っていたが、渡りをしないカルガモと、居ついてしまったマガモとコガモの一部は残っている。
俺がカルガモを射抜いた時におじさんが現れた。
「やっと尻尾を出したか。」
「お、おじさん?」
「お前の宿す神は、その鉄くず……釜の神だな。」
「釜?お釜様の事?」
「確証をとれぬまま殺してしまうと、さすがに本部が煩いからな。こうやって尻尾を捕まえるまで待ってやったのよ。」
「な、何を言ってるの?」
「我が名はアンドラス。悪魔派の侯爵なり。」
男の身体が黒いモヤに包まれ、現れた時には鳥の頭をした怪物になっていた。
尖ったくちばしに赤い目。
額から生えた2本の白い冠羽。
頭の部分は青灰色で、顔は白い。
背中の翼を羽ばたき、川の上空に浮かんでいる。
「サギ?」
「ほう、分かるか。我の和名は五位のサギ。倭国の天皇より賜った五位の爵位を持つ由緒正しき悪魔なるぞ。」
「そんな人が何で……。」
「分からぬか。世界を創造せしめたのは唯一の神だという真実。我にすら劣るくせに神を名乗る輩が許せぬだけよ。」
「神様に強いとか弱いとか関係ないでしょ。」
「お前のようなガキと問答するつもりはない。お前の神と共に死ね!」
手を広げた悪魔の全身から、羽が飛んできた。
数百本という羽が、とんでもない速度で迫るなか”キュッ”という声が聞こえた。
咄嗟に伸ばした左手の甲にお釜様が乗っていた。
お釜様の銀色の光が俺の身体を覆い、押し寄せる羽を弾いていた。
そして、頭の中に広がるイメージ……。葦を硬化して放て……。
俺はそのイメージをそのまま実行した。
「ば、馬鹿な。お前の神は封じたハズ……。」
俺の放った3本の葦は悪魔の額と胸と腹を貫き、悪魔は川に落下して流れていった。
俺の左手にはお釜様と針神様が乗っている。
針神様の身体に巻きついた鎖を二人で解き、ハイタッチを交わしている。
「そうか、針神様はホントに封じられていたんだね。」
”キュュ” ”キュキュッ”
「さっきのが”纏”なの?」
”キュウ”
どうやら、そうらしい。
そして、松葉を飛ばすのは針神様の力だったが、硬化はお釜様の能力だったようだ。
「二人の神様を纏えるなんて、爺ちゃんは言ってなかったけど……。」
”キュキュッ”
「そっか、できるんだから余計な事は考えなくていいんだね。」
”キュゥ!”
「あははっ、二人ともよろしくね。」
母ちゃんに心配をかけたくなかったので、悪魔の事は黙っておいた。
おじさんに会えなかった事だけを伝えたのだが、母ちゃんは笑い飛ばしてくれた。
「大丈夫さね。冬の間、弥七が頑張ってくれたおかげで、母ちゃんも栄養満点だからね。春になって野良仕事もできるし、野草だって芽生えてる。心配いらねえよ。」
俺の稼いでいた金は、主に布と糸の購入にあてられ、カモの胸と腹の綿毛を使って布団だって作ってくれました。
「母ちゃん、この布団はフカフカであったけえな。」
「木工所の若い衆から教わったんだよ。冬は温かくて夏は涼しいんだとよ。」
「母ちゃんのおっぱいみてえに柔らかいな。」
「あははっ、今までのせんべい布団とは大違いだね。」
俺は今でも母ちゃんと一緒に寝ている。
なにしろ、貧乏な我が家に残っている布団は、一組しかなかったからだ。
なんとなく、いつもの狩場に行く気がしなかったので、俺は少し上流に出かけてみた。
普段は行かない森の奥にいくと、水の淀んだ沼のようなところに出た。
部落でオドミと呼んでいる、死んだ水の匂いがした。
”キュキュ!”
「うん?どうしたの?」
針神様の示す方向の水面がいきなり盛り上がり、ドロッとした何かが襲い掛かってきた。
俺は手に持っていた木の剣を硬化させ、1mほどのそいつを切り伏せる。
”キュッ”
「澱みの魔物なんだ。」
”キュキュッ”
「えっ?」
針神様は澱みの残骸を示している。
「何かあるの?」
”キュウ!”
澱みの残骸を剣で広げていくと、死んだ魚に混ざって紫と灰色の入り混じったようなモノが見えた。
「もしかして、神様?」
”キュィ!”
どうやら、そうらしい。
ぐったりして精気がない。
針神様に言われるまま、流れのある場所へ行き、その澱みの神様を洗ってやると少し元気になったようだ。
”キュ……。”
「ああ、この澱みを解消してやればいいんですね。」
俺は木を削ってクワを造り、硬化をかけて澱みの端から川に至る水路を作ってやった。
「ふう、こんな感じでいいですか?」
”キュイ!”
神様の名は水環(みなわ)様というらしい。
水環様は、澱みが解消されるに連れて、きれいな水球に変わっていった。
「へえ、きれいな神様なんですね。」
”キュキュ!”
「ああ、針神様もお釜様もきれいですよ。」
”キュキュ!”
「嘘じゃないですよ。本当の気持ちです。」
乞われるまま、奇麗になった水袋に淵の水を入れると、水環様が一緒についてきてくれた。
これ以降、この水袋には常に冷たい水が満たされるようになった。
そして、他の神様を合体させていくと、3人とも強くなっていくのが分かる。
2人の神様も、強化されるに連れて姿が変わってきた。
大きさは10cm程だが、針神様は顔の先端が突き出してきて、先が尖ってきた。
お釜様は、黒光りする鉄球で、二人とも頭のわりに小さい胴体と手足がついている。
2頭身の手には2本の指?があり、それを器用に使って遊んでいる。
3人とも、母ちゃんには見えていないようだ。
【あとがき】
金属系の神様二人と、水系の神様一人。
Youtube連動動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
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