腹筋BREAKER開催

「くがっち、もうすぐだな」

「そうだね」

 悟とくがっちは来る腹筋BREAKERの予選に向けて最終調整を行っていた。

 事務所近くの公園でいつものようにネタ合わせをしていた。

 今日、シタミデミタシの腹筋BREAKERの一回戦が始まる。

 今回11回目に参加したのが546組との情報が出ていた。

 一回戦、二回戦、準決勝戦を経て決勝トーナメントに八組進むことが出来る。

 ちなみに、シタミデミタシのエントリーナンバーは478番だ。

「いつも通りすればいいさ」

「そうだよね、ここまで来たんだから」

 今までやって来たことを発揮していけばいい。

 悟徳がっちはそう自分たちに言い聞かせている。

 そんな時だった。

「おーお二人さん。そろそろ事務所で壮行式をやるみたいでっせ」

「はい、ありがとうございます」

 ラブソング糸川に呼び出されて、シタミデミタシの二人が円城プロの事務所に戻っていった。

 事務所に入ると、円城社長、カニカマ工場の二人、ラブソングバラードの二人が揃っていた。


「皆様揃われましたか。簡単ではございますが、シタミデミタシの壮行式を行いたいと思います」

 円城社長が壮行式を進めていく。

「今回、シタミデミタシの二人が腹筋BREAKERに参加し、一回戦を行います。まだ弊社からは腹筋BREAKERの優勝者はおろか、ファイナリストも輩出していません。しかし、地道な自己研鑽を行ってきた彼らには大いなる可能性を感じています。先輩方の皆様におかれましても、シタミデミタシの二人を応援していただきますよう、どうぞよろしくお願い致します。短いですが、あいさつに代えさせていただきます」

 円城社長のあいさつに拍手が起こる。

「続きましては、シタミデミタシの二人から意気込みを聞きたいと思います」

 円城社長がシタミデミタシの二人の前に来るよう促す。

「今回初めて参加しますが、腹筋BREAKER優勝を目指して今まで準備してきました。今でもその思いは全く変わりません!」

「優勝トロフィーを持って、事務所に帰って来たいと思います」

 悟とくがっちが力強い言葉で意気込みを語る。

 カニカマ工場のネタが入っていた動画ファイルを見たその日から、その思いは何一つ変わることはなかった。

 シタミデミタシの二人に拍手が起こった。

「あとは自分たちのお笑いを精一杯やって来て下さい。我々は応援していますよ」

 円城社長の温かい言葉を受け、シタミデミタシの二人はついに腹筋BREAKER一回戦に向かうのだった。



 腹筋BREAKERの会場は元気笑会が所有している会場だった。

 ただ、悟とくがっちはまだこの会場でネタを披露したことはなかった。

 主に元気笑会のエース格やベテランが漫才をする場所なので、他事務所所属の芸人が入ることが出来るような場所ではなかった。

「こんな音響が整った場所で出来るなんてな」

「流石元気笑会はお金持ちだね……」

 悟とくがっちは会場を眺めるなり、思い思いのことを口にし出した。

 そして合同控室の方へ向かうと、既にネタを披露する芸人で溢れかえっていた。

 やはりと言うべきか、男性のコンビが多いのでむさ苦しくなってしまうのは仕方ないだろう。

 そんな中、今時の可愛らしい女性コンビがいるのを悟とくがっちが見つけた。

 そのコンビは女性誌を読みながら話をしている。

 ぱっと見はガッツリお笑いをするような雰囲気ではない


「さとる、あの二人可愛いねえ」

「くがっち……、知らないのか?」

「さとるってもしかしてあの子たちのストーカー?」

「んなわけねえだろ! あの二人は『あきあかね』ってコンビでな。今回の腹筋BREAKERファイナリストの候補と言われているんだ」

 可愛い女の子を見てテンションを上げているだけのくがっちに、悟が解説を入れ始めた。

「くがっち、悪いことは言わない。賞レースの有力コンビには注目しておいた方がいいぞ」

「さとるは僕がそんなキャラに見える?」

「見えないけど、忠告はしないとダメだろ」

 悟がくがっちに言うべきことを言いきった。

 そうこうしているうちに、シタミデミタシの出番が近づこうとしていた。

「おし、出番だなくがっち」

「ビシッといきたいね」

「おう」

 こうしてシタミデミタシは舞台袖に移動していった。



 一回戦の結果は思いの外早く発表された。

 シタミデミタシ、まずは一回戦を突破した。

 本当なら喜びたいところだが、二回戦がすぐに始まってしまう。

「調整終わったらすぐ二回戦だね」

「大規模有名賞レースだともうちょい間があるが、腹筋BREAKERは結成8年以内の縛りもあるし、ネタの準備も多い大会だからな。とっととファイナリストを決めてしまいたいんだろう」

 シタミデミタシが事務所で話をしていると、カニカマ工場の二人がやって来た。

「おおっ、まずは一回戦突破だな。おめでとう」

「「ありがとうございます」」

 深川ジンがシタミデミタシの二人を祝福する。


「何て言うか、この二回戦がなあ。一気に三十組まで絞って準決勝だからなあ」

「急に絞ってくる感覚なんですよねー」

 三橋ジロウの言葉にくがっちが反応する。

 腹筋BREAKER一回戦突破が百八十組。そして二回戦で三十組まで一気に絞ってしまうので、何とも窮屈な印象を受けてしまう。

 その代わり、準決勝はネタ時間が四分に変わるので仕方ないことではある。

「ネタも万全そうだし、思い切ってぶつかってくれ!」

「今の二人ならどんどん上を目指せるさ」

 三橋ジロウと深川ジンがシタミデミタシの二人にエールを送る。

「ほんとうにありがとうございます!」

「せっかくたくさんネタ作ったんで、全部かまして来ます!」

 悟とくがっちもカニカマ工場の二人のエールに返事をする。

 そしてついに、シタミデミタシが腹筋BREAKERの二回戦へと向かうこととなった。

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