[総ルビ]留学生は同棲JKエルフちゃん

第40話 エルフちゃんと節分と高校受験

■第（だい）４０話（わ）　エルフちゃんと節分（せつぶん）と高校（こうこう）受験（じゅけん）

　二月（にがつ）三日（みっか）節分（せつぶん）。

　節分（せつぶん）とは立春（りっしゅん）の前日（ぜんじつ）になる。実（じつ）は時差（じさ）の関係（かんけい）で正確（せいかく）な日付（ひづけ）は中国（ちゅうごく）と日本（にほん）で違（ちが）うことがあるらしい。

　立春（りっしゅん）は太陽（たいよう）の動（うご）きに合（あ）わせて決（き）まって閏年（うるうどし）などの関係（かんけい）もあり四日（よっか）だったり三日（みっか）だったりする。

「おにわーそと」

「あわわわ」

「ふくわーうち」

「あわわわ」

　もちろんやったことがないというララちゃんを交（まじ）えて、妹（いもうと）のエリカと幼馴染（おさななじみ）のハルカと一緒（いっしょ）だ。

　正確（せいかく）には「鬼（おに）は外（そと）」「福（ふく）は内（うち）」だけども、ララちゃんの発音（はつおん）はちょっとだけ違和感（いわかん）がある。それはそれでなんかかわいい。

　一本（いっぽん）角（つの）が赤鬼（あかおに）さんで二本（にほん）角（つの）が青鬼（あおおに）さんだ。諸説（しょせつ）あり。

　それで俺（おれ）が鬼（おに）の紙製（かみせい）の仮面（かめん）を被（かぶ）って、みんなが俺（おれ）に向（む）かって豆（まめ）を撒（ま）いている。このお面（めん）は二本（にほん）角（つの）だけど赤鬼（あかおに）さんだった。

　家（いえ）の廊下（ろうか）が豆（まめ）だらけだ。幼稚（ようち）園（えん）児（じ）もかくやという本気（ほんき）っぷりだった。

　豆（まめ）は炒（い）った大豆（だいず）だ。残（のこ）った豆（まめ）のうち年齢（ねんれい）の分（ぶん）だけ食（た）べる。

　うちでは落（お）ちた豆（まめ）はすって粉（こな）にして庭（にわ）の木（き）の下（した）に撒（ま）くけどこれは一般的（いっぱんてき）ではないと思（おも）う。

「えへへ、十六個（じゅうろこ）ですぅ」

「私（わたし）は十四個（じゅうよんこ）でーす」

　豆（まめ）をパクパク食（た）べる。小（ちい）さいころおじいちゃんたちが遊（あそ）びにきて「年齢（ねんれい）個（こ）分（ぶん）もたあくさんあって食（た）べられんわあ」とか言（い）っていたような気（き）がする。

　まあ六十（ろくじゅっ）個（こ）とか七十（ななじゅっ）個（こ）だから、そんなに正確（せいかく）に数（かぞ）えられないかもしれない。

「こういう文化的（ぶんかてき）なことはあまりやらないので面白（おもしろ）いですぅ」

「ああ、こういうのは日本（にほん）っぽいな」

「もっといろいろあるなら体験（たいけん）したいですぅ」

「そうだね。もう七夕（たなばた）とかもやったけど」

「七夕（たなばた）の願（ねが）い事（ごと）ですかぁ、あれもロマンチックでよかったですねぇ」

「ああ」

　翌日（よくじつ）は立春（りっしゅん）だ。

　あ、でも日本（にほん）では立春（りっしゅん）だからといっても特（とく）に何（なに）かをするわけではない。

　前後（ぜんご）して旧正月（きゅうしょうがつ）はある。特（とく）に中国（ちゅうごく）では今（いま）でも旧正月（きゅうしょうがつ）を祝（いわ）うので一部（いちぶ）のネットゲームではこの時期（じき）にお祭（まつ）りがあったりするらしい。

　日本（にほん）サーバーは二（に）か月（げつ）遅（おく）れで四月（しがつ）に新年（しんねん）の新（しん）アイテムが配布（はいふ）されるなんて運営（うんえい）もごく稀（まれ）にある。

　まあその辺（へん）は状況（じょうきょう）による。

　さて何（なに）か特筆（とくひつ）すべきことといえば、妹（いもうと）の受験（じゅけん）があった。

　公立（こうりつ）高校（こうこう）の試験（しけん）だ。

　筆記（ひっき）と面接（めんせつ）と別（べつ）の日（ひ）にあり、中学（ちゅうがく）ではなく高校（こうこう）へ行（い）って受験（じゅけん）する。

「行（い）ってきます」

「頑張（がんば）ってこいよ」

「頑張（がんば）ってきてください。ファイトですぅ」

「ありがとう、お兄（にい）ちゃん、ララちゃんも」

　朝（あさ）からすでに泣（な）きそうだ。

　これは受験（じゅけん）がイヤなのではなく、うれし泣（な）きだった。

　もう安全圏（あんぜんけん）と判定（はんてい）されて筆記（ひっき）試験（しけん）は受（う）かるつもりでいる。問題（もんだい）は面接（めんせつ）と内申（ないしん）といわれるものだ。

　面接（めんせつ）は礼儀正（れいぎただ）しいから大丈夫（だいじょうぶ）だろう。別（べつ）におかしいところはない。

　もう高校（こうこう）入学（にゅうがく）すら不可能（ふかのう）で、ずっと病院（びょういん）で原因（げんいん）も分（わか）らずそのまま死（し）んでしまうかもしれないと思（おも）っていたのに、回復（かいふく）して勉強（べんきょう）を必死（ひっし）にしたのだ。

「もう今（いま）が奇跡（きせき）みたいなものだから、何（なに）があっても私（わたし）は大丈夫（だいじょうぶ）」

「ああ、よかった。強（つよ）くなって」

「もうメソメソしないもん」

「いや逆（ぎゃく）に不治（ふじ）の病（やまい）から逆転（ぎゃくてん）復活（ふっかつ）って面接（めんせつ）で泣（な）いてみせたらどうだ」

「泣（な）き落（お）としするってこと？　確（たし）かに出席（しゅっせき）日数（にっすう）とか足（た）りないどころじゃないんだけど、病院（びょういん）でナースさんと勉強（べんきょう）した日（ひ）は出席（しゅっせき）扱（あつか）いにしてもらってるし」

「そうそう、そうやってもう死（し）んじゃうと思（おも）いましたって泣（な）くの」

「恥（は）ずかしいからちょっとメソメソするだけにするね」

「ああ、そうしてこい」

　この作戦（さくせん）はどうやらうまくいきそうだ。

「えへへ、筆記（ひっき）は勉強（べんきょう）した範囲（はんい）内（ない）だったから楽（らく）だと思（おも）う」

「へぇ」

　この子（こ）はへっちゃらな顔（かお）で言（い）うが、俺（おれ）は結構（けっこう）ぎりぎりで合格（ごうかく）だったと後（あと）で教師（きょうし）に教（おし）えてもらったので、立（た）つ瀬（せ）がない。

　優秀（ゆうしゅう）な妹（いもうと）を持（も）ってよかったとよろぶべきなのだろう。

　面接官（めんせつかん）は体調（たいちょう）が悪（わる）いのに勉強（べんきょう）も必死（ひっし）にして合格（ごうかく）ラインまで勉強（べんきょう）に励（はげ）み、病気（びょうき）に負（ま）けないで頑張（がんば）った妹（いもうと）が泣（な）きそうになったところで、えらい感心（かんしん）したらしく「もう合格（ごうかく）だと思（おも）いますが」と口走（くちばし）ったらしい。

　俺（おれ）の学校（がっこう）は公立校（こうりつこう）の中（なか）では上（うえ）の方（ほう）なので、結構（けっこう）厳（きび）しいが、そうか先生（せんせい）たちの心（こころ）を動（うご）かしたか。

　別（べつ）に事実（じじつ）なだけで、気（き）をもむ必要（ひつよう）はない。ただ面接官（めんせつかん）だって人（ひと）の子（こ）だってことは変（か）わりがない。でなきゃ面接（めんせつ）なんてやる意味（いみ）がない。

「合格（ごうかく）できそうですっ」

「よかったな」

「よかったですぅ」

「合格（ごうかく）発表（はっぴょう）まで楽（たの）しみですね」

　この余裕（よゆう）っぷりだった。

　私立（しりつ）の試験（しけん）ももう少（すこ）し後（あと）であった。

　こちらは今回（こんかい）は滑（すべ）り止（ど）めということになるので、気楽（きらく）なものらしい。

　ただ是（ぜ）が非（ひ）でも公立（こうりつ）の俺（おれ）と同（おな）じ学校（がっこう）である県立（けんりつ）埼台（さいだい）東（ひがし）高校（こうこう）に行（い）きたいとのことで、私立（しりつ）は眼中（がんちゅう）になくやる気（き）はない。

「お兄（にい）ちゃんと同（おな）じ学校（がっこう）じゃきゃ、死（し）んでもいい」

「それはまた大（おお）げさな」

「それくらい一緒（いっしょ）の学校（がっこう）がいいの。こうして中学（ちゅうがく）に行（い）ってるのだって我慢（がまん）してて、本当（ほんとう）はもう飛（と）び級（きゅう）で同（おな）じ学年（がくねん）になりたいのに」

　優秀（ゆうしゅう）な妹（いもうと）はこう言（い）ってのける。確（たし）かに妹（いもうと）くらい頑張（がんば）り屋（や）で頭（あたま）がいいなら飛（と）び級（きゅう）してきそうだ。

　案外（あんがい）やってみたらできたりして。日本（にほん）の制度（せいど）がどうなってるか知（し）らないけど。

「そんなに俺（おれ）のこと好（す）きか？」

「え、大好（だいす）きだよ、お兄（にい）ーちゃん」

　甘（あま）えた猫（ねこ）なで声（ごえ）で言（い）ってくるから、こっちは頭（あたま）がクラクラしそうだ。

　妹（いもうと）に手（て）を出（だ）すことはないが、かわいいものはかわいい。

　ずっと膝（ひざ）の上（うえ）に抱（かか）え上（あ）げていたいほどだった。

　そんなこんなで、男女（だんじょ）の一年（いちねん）のメインイベントともいえる、バレンタインがやってくる。