第16話 作戦会議 その3
簡単な調書の作成と明日の作戦を練るため、弁護団の部室へと戻る。
部室内では、すでにシュウと周防が待機していた。
「やけに遅かったじゃない。生徒会長とイチャコラしてたの?」
「ただ話してただけだよ」
男女が会話してただけで恋愛沙汰を疑うのは安直すぎるぜ。
シュウの冷やかしを適当にあしらい、俺も二人に倣ってパイプ椅子に腰かけた。
「んじゃ、まずは野村君。生徒会長からゲットした情報を話してちょうだい」
「あいよ」
俺は今さっきあった出来事を事細かに話した。
聞き終えた周防が眉間に皺を寄せる。
「なるほどねぇ。すべては生徒会長の仕組んだことだったのか」
「すべてっていうのも語弊があるけどな。会長はこんな面倒な事態になるとは予想もしていなかったらしい。そんな話し方だった」
「じゃあさ、責任を全部生徒会長に押し付けちゃえばいいんじゃないかな?」
俺と同じ思い付きをシュウも提案してきたが、俺と周防は首を横に振った。
先ほど会長にも指摘されたことを、今度は周防が説明する。
「たぶんそれはできない。野村君が繚乱倶楽部に赴いたことは生徒会長の陰謀だけど、その後に起こったことは彼女の知るところじゃない。どうあがいても野村君の自己責任だ」
「ふーむ。いっそのこと、会長が罪を被ってくれればねぇ。野村君の籠絡作戦が中途半端に終わっちゃったから、仕方がないか」
「特別措置をもらえただけでも十分な成果だっつーの。そういうお前は自分の考えをまとめられたのか?」
「うん」
昨日シュウが言っていた、真実を嘘で塗り固める作戦の全容を耳にする。
はっきり言って、手放しで絶賛できるような解決策ではなかった。
「厳しくないか? こっちが想定していた流れから外れたらアウトだぞ?」
「そうなのよねぇ。道筋が脆いというか、詰めが甘いというか。最後の最後にもう一つ決定打になりそうな手札が欲しいところだけど……周防君はどう思う?」
「僕も二人と同意見かな。その理論立てだと、確実に勝つのは難しいと思う」
「お前は何か良い案とか持ってないのか?」
「ないね」
やけに潔く断言したな。シュウの小言が怖くないのか?
いや、周防ですら匙を投げるくらいだ。完全無罪を求める弁護なんて、最初から無理難題だったのだろう。どんな結果になろうと、いくらか減刑はできそうな気はするけど……無罪を主張するとなると難しいなぁ。
それから俺たちは、明日の六花廷について熱心に議論を交わした。
しかし時間切れ。実のある結論に到達できないまま、最終下校を促すチャイムが無慈悲に鳴り響く。
「あー、ダメだ。疲れた」
弱音を吐き、俺はパイプ椅子の上でぐったりと項垂れた。
そんな俺を横目で見ながら、周防が嘲笑気味に鼻を鳴らす。
「ま、もし負けたとしても、罰則はボランティアで済むのが六花廷だ。弁護が失敗した場合は、甘んじて受け入れようじゃないか」
くっそー、他人事だと思って。
「そうは言っても千石の奴、俺に屈辱的な罰則を与える気満々だったけどな。責任を取ってもらうって言ってたくらいだし」
「そうなのかい? 罰則は生徒会長が決めるから、繚乱倶楽部の一存でどうにかできる話じゃないと思うけど……」
「ちょっと待って!」
俺と周防の会話にシュウが割り込んでくる。あまりの大声に、俺たちはビクッと身体を震わせた。
「センセンちゃん、なんて言ってたって?」
「えっと、責任を取ってもらうって……」
「責任を取る、か。確かセンセンちゃんは、野村君のことが好きなんだよね?」
熟考するように俯いたシュウが、目の動きだけで俺と周防を交互に見比べる。
自分で言うのも恥ずかしかったので、俺は周防に答えるよう催促した。
「確定じゃないよ。生徒会長の根拠は不明だけど、繚乱倶楽部と弁護団の関係上、そうであっても不思議じゃないってレベルだ。確かなことは本人に訊くしかないだろうね」
「なるほど。じゃあ野村君、センセンちゃんに訊いてきて」
「んな無茶な」
笑えない冗談だ。バカを見るような目で憐れむ千石の顔がありありと浮かぶ。場合によっては、また別の六花廷を起こされても文句は言えないだろうに。
「まぁいいわ。でもそうすると、もしかして……」
「何か分かったことでもあるのか?」
しばらくの間、シュウは無言のまま考え込んでいた。
しかし出したのはアイデアや結論ではなく、深い深いため息だった。
「ごめん。何か浮かびそうだったけど、かなり無理筋っぽいから却下するわ。明日の流れ次第では使えるかなってくらい」
「了解。俺はお前を信じるよ、シュウ」
どのみち無理筋は最初からだ。だったら当たって砕けようじゃないか。
後は野となれ山となれ。泣いても笑っても、俺の処遇は明日で決まる。
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