六花廷へようこそ!
秋山 楓
プロローグ
「判決を下します」
卓上ベルを叩きながら立ち上がった生徒会長が、議論の終結を静かに言い渡した。そよ風程度の一喝だったのにもかかわらず、彼女の貫禄に圧された皆は押し黙り、生徒会室の空気が一気に張りつめる。
通常の教室の二倍の広さを誇る生徒会室。窓際の議長席に位置する彼女は、鉄仮面のような無表情で、ゆっくりと周囲を見回した。その途中、一番端に座っている俺とも目が合い、彼女の美貌にちょっとだけドギマギしてしまう。
室内にいる人間の顔をあらかた眺め終わった生徒会長は、最終的に真正面に座る一人の男子生徒をじっと見据えた。コの字に並べられた長机の中心で、一人ぽつんと肩をすくませている被告人の男子生徒である。
生徒会室中の視線が、その男子生徒の元へと集まった。厳粛なムードの中、威嚇にも似た視線を四方八方から突きつけられるのは、相当に辛いものがあるだろう。他人事ながら心中をお察しします。南無。
緊張のあまり俯いてしまった被告人の頭に、生徒会長の容赦ない言葉が降り注いだ。
「女子生徒の下着を目撃し、謝罪の言葉もなく、あろうことか不気味に微笑んだことにより被害者に心的外傷を与えたとして、被告人には有罪を言い渡します。罰則として、明日から三日間、放課後に中庭の掃除をするよう命じます」
やっぱりね。
俺を含めた、弁護側に座る男子たちは皆一様にため息を漏らし、原告側の女子団は、ほれ見たことかと言わんばかりに不遜な態度で鼻を鳴らすだけだった。
判決を下された男子生徒は、項垂れながら一礼した後、とぼとぼと退室していった。
その途中、恨みがましい目でこちらを睨んでいたのだが、勘弁してくれ。弁護できる余地なんて最初からなかったんだよ。恨むなら、馬鹿げた理由で裁判を起こした訴訟側を恨んでくれ。
「では、これにて閉廷いたします。皆様、お疲れ様でした」
優雅な動作でお辞儀を披露した生徒会長を合図に、場の緊張が一気に和らいだ。
俺も周囲の例に漏れず、深々と椅子に身体を預けて姿勢を崩す。緊張が解けたことによる安堵の弛緩ではあったが、しかしそれ以上に落胆も大きかった。
今回の敗訴を含めて、
つまり、全敗だった。
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