第22話招かれざる客 その二(店長side)

 迷惑男はそれから間もなくして店を去った。

 二度と来ることはないだろうさ。


 結局、あの男は最後まで謝罪を口にしなかった。


 腐った性根は一生治りそうもないね。


 どれだけ愛されようと。

 どれだけ大切にされようと。


 あの男の薄汚い本性は、いつまでも消えやしないのさ。

 結局、あの男は最後まで謝罪を口にしなかった。

 腐った性根は一生治りそうもないね。

 どれだけ愛されようと。

 どれだけ大切にされようと。

 あの男の薄汚い本性は、いつまでも消えやしないのさ。


「やれやれ……悪いが塩を撒いとくれ」

「はい!ただいま!」


 あたしゃあ、元従業員を呼びつけて塩を撒くよう命じた。

 店の前にね。

 あの男が残した汚れは綺麗さっぱり流さなきゃね。







 塩を撒いたのが良かったのか、翌日、久しぶりにお嬢様から手紙が来た。

 どうやら他国に支店をだすらしい。

 若旦那様と一緒に行くんだと。


 お土産をたくさん送るから、楽しみにしててと書いてあった。


 相変わらずだなぁと嬉しくなって、すぐに返事を書いたさ。

 勿論、あの男のことは書かなかった。

 過去の遺物なんて、知る必要はない。気に止める価値すらない。

 お嬢様が幸せになるならそれが一番さ。


 あたしゃ、嘘は言っちゃあいない。

 お嬢様親子が店を閉めたのは本当だ。

 お二人が街を離れたのも本当のことだ。

 誹謗中傷の嵐だったのは本当だ。

 この店の店長があたしだってことも本当だ。

 ただし……“雇われ店長”だってことを除けば、だがね。

 まあ、聞かれなかったからね。仕方ないさ。こっちだって言う必要ないことだ。あの男はもうこの店に関係のない奴だからね。親切に全部本当のことを言う必要はないってことさ。



 

 

 お嬢様は心を病みかけていた。

 それを救ったのが若旦那様だ。


 あの男の友人だから警戒していたが、良い人だった。

 あのクソッたれと大学の専攻が同じで、よくつるんでいた。

 お嬢様もクソッたれに紹介されて顔なじみだったらしい。妊娠したと聞き、心配して様子を見にきてくれた程だ。


『僕も彼と同じ貧乏貴族なんです』

『三男坊だから食い扶持も自分で稼がないと』

『万年次席です。彼にはかなわなくて』


 今思い出しても良い人だ。

 気さくで、明るくて。

 お嬢様もすぐに心を開いたさ。


 同じ貧乏貴族でもクソッたれ野郎とは雲泥の違いだ。


 本人は平民同然の暮らしだと言っていたが、育ちの良さってもんは出てくるもんさ。

 小難しいマナーとかじゃない。

 考え方とか、物の見方とか。

 そういうもんは、やっぱり育ちが出るもんだ。


 素直なんだ。

 自分が悪かったら直ぐに謝るところとか。

 少し気の弱いところはあるが優しい。

 裏表のない親切。

 自分より優れた人や恵まれた人を妬んだり、僻んだりもしない。


 ……クソッたれ野郎の友人とは思えない。良い人だ。


 ああいう人だからね。

 お嬢様とその子供を大事にしてくれる。

 実の子供と分け隔てなく可愛がってくれる。



 お嬢様の幸せを願うなら、あのクソッたれ野郎との別れは大正解だったんだろうさ。



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