転生したら俺を振った大好きだった娘の飼い猫になってしまった!!

楽園

第1話 もしかして、異世界転生!? いえ違います!!

 俺は、クラス一美少女『早坂由奈』に告白して見事に玉砕した。


「貞本康二君、ごめんなさい!」


 大きく頭を下げる由奈を見て俺の恋は終わった、と気づかされた。周りの男子生徒の笑い声やヤジが嫌になり、居づらくなった俺は教室を飛び出す。


  それにしても可愛かったな。由奈は日本人の母とイギリス人の父のハーフらしく、金髪の髪に蒼い瞳、そして母親に似たのか背が低くて150センチの身長はまるで西洋人形を彷彿とさせた。そして華奢な身体に反比例した大きな胸。間違いなく学校一の美少女だった。


 そんな由奈に俺が無謀とも言える告白を決断したのは、ある噂からだった。由奈が俺のことを好きかもしれない。


 そう言われてみれば由奈の行う小さなことでも、俺のためにしてるように思えた。そして、由奈の視線はいつも俺を追いかけているように見えた。


 このままでは誰かに取られてしまう。そう思った俺は勇気を振り絞って告白し、見事に玉砕した。


 分かっていたはずだった。由奈と俺では釣り合いが取れない。だからと言って傷心のあまり自殺をするなんてできない。俺は改めて視線を海面に向けた。高架橋の向こうは断崖絶壁だ。落ちたら、海面に叩きつけられ助かることはない。


「お前は、いいよな?」


 さっきから高架橋にいる先客は俺よりも大胆に高架橋を歩いてこちらにやってきた。まあ、人間にできることではないな。


「お前、名前はなんて言うんだ!?」


 もちろん、相手が答えるわけがない。俺をじっと見て少し首を傾げた。


「名前も分からないし、猫……って呼んどくぞ」


 猫に猫と呼ぶのは正直違和感を感じた。


「飼い主はいないのか?」


 首に鈴をつけているから昔、飼われていたことは間違いない。


 だが、見窄らしい姿が飼い猫でないことを物語っていた。


「そうか、お前も捨られたんか……」


 言葉に出してそう言うとなんか猫に共感が持てた。


「俺も……捨てられたんだよな」


 振られたことを捨てられたと表現するのは正しくないかもしれない。でも、その時はそう感じた。隣に座る猫も俺の言葉を理解してるのか分からないが、ただ俺の隣でずっと海面を眺めていた。なんか、こう言うのいいな。猫と同じ目線で景色を見るなんて初めてだ。俺が海を見ながらくつろいでいると周囲がガタガタと揺れ出し、俺は慌てて柱に捕まった。


「地震か! 猫、猫は大丈夫か!!」


 俺たちは自殺するために来たんじゃない。俺はもう一方の手で猫を抱き寄せようと伸ばした。


「ば、馬鹿!!」


 猫は地震に驚いて海の方に飛び降りた。このままでは海面に叩きつけられ即死だ。


 俺は柱から手を離し、猫に向かって手を伸ばす。ただでさえ揺れている高架橋で手を伸ばせばどうなるか。


 俺はそのままバランスを崩し高架橋から落ちた。そのまま手を伸ばし猫を抱く。


 猫をマット代わりにすれば助かるかもしれない。


 一瞬、頭に浮かんだが、俺は腐ってもクズにはなれない。俺は猫を抱いたまま、背中から海に突っ込んだ。


 背中に激しい激痛が走る。そのまま、俺の意識は遠のいていった。




――――




「はっ!!」


 目を覚ますと俺は、ダンボールの中にいた。なぜ俺の身体がダンボールに収まるのか。そもそも、なぜ病院じゃなくてダンボールなのか。わけが分からなかった。


 手を見るととても小さい手で指がなかった。代わりに爪のようなものがあった。しかも身体全体がモフモフしていた。


 これは俗に言う異世界転生か!?


 でも、目の前の道は見覚えがあるし、このモフモフ具合は猫だし……。


 うーん、スライムに転生してゴブリンや鬼などを引き連れ世界を救うようなこともなさそうだ。イケメンに転生して女の子を口説き落とすことも無理そうだ。


 そもそも猫なんだから、魔法が使えるわけがないし、人間の女の子とエッチできるわけもない。

 

 なぜ猫なんだよ。猫の恩返しなのか? そんな物語あったような、と思ったが俺はかなり真剣に焦っていた。こ、これはやばい。捨てられた子猫が長生きできる可能性はかなり低い。誰かに飼ってもらわないと……。そう思っていると前から女の子の声が聞こえてきた。


 あれは、由奈と友達の山本久美じゃないか。隠れる必要もないが俺はダンボールの中に入って様子を伺った。


「だから、あれは由奈のせいじゃないって」


「だって、だって、わたしが……わたしが振ったせいで、貞本くんが自殺しちゃって……」


「もう、可愛い顔が台無しだよ」


「いいもん。貞本くんのいない世界なら、可愛いと思われても仕方がない!」


「じゃあなぜ振ったのよ!」


「だって、……久美も言ったよね。あまり軽くハイハイ言ってたら軽い女に見られるからダメだって」


「言ったけど、友達からはじめるとか方法ならいくらでもあったでしょ」


「そんなの思い浮かばないよ!!」


「もう泣くなって!! 自殺なんかしないで、1日待っててくれればねえ」


「走って出て行った時、探したよ!! 見つからなかった。探して謝ろうと思った。好きです、って言おうと思ったのに……こんなの酷すぎる……」


「もう、由奈がメソメソしてると貞本くんだって成仏できないよ」


「成仏なんかしなくていいよ。わたしを呪い殺して欲しい……」


「もう、由奈……」


 もしかして、俺って思い切り勘違いした?


 マジか……。て言うかあんなオッケーサイン、わかるかよ。


 俺が思い切り凹んでいると久美が俺の側に近づいて来た。


「そんなことより面白い生き物いるよ?」


 久美と由奈が並んで中腰になる。て言うか、その姿勢ではパンツ丸見えだが……。久美はピンクで由奈は白だった。


 由奈の下着の色に俺は少し安心した。やはり清楚系美少女の由奈には白がお似合いだ。


「うっわ、可愛い!! ねっ、この子、貞本くんに似てるよね?」


「似てないよ。と言うか何これ、多分猫だけど、なぜ小さな羽があるの?」


「天使なのかな?」


「はあ! そんなわけないでしょ。でも、むっちゃ変だよね」


「変じゃないよ、可愛いよ!!」


「そんなにムキにならなくていいよ。由奈が可愛いと思うなら、それでいいよ」


「猫ちゃんは、可愛いよね」


「それよりさ……」


 ふたりは俺の前で話をはじめた。どうやら俺が亡くなってもう半月も経っているらしい。由奈は俺が亡くなって本当に落ち込んで、学校もしばらく行けなくなっていたそうだ。


 久美が呼びかけて無理やり連れていくうちにふたりは毎日一緒に登校するようになった。


「そろそろ遅刻するから行こうよ」


 久美が由奈の手を掴み引っ張った。由奈は転けそうになりながら、なんとか身体を維持する。そのままの格好で振り返り手を振った。


「じゃあ、猫ちゃんまたね!」


「また、じゃないでしょ」


「ねえ、あの子誰かに拾われたりしないかな?」


「あんな可愛くもない猫、誰が飼うのよ!!」


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