[総ルビ]元貧乏エルフの錬金術調薬店(web版)

２ ここが憧れの王都だよ

●２ ここが憧（あこが）れの王都（おうと）だよ

　目（め）の前（まえ）には国（くに）で最大（さいだい）規模（きぼ）の城壁（じょうへき）、いわゆる城塞（じょうさい）都市（とし）というものだった。

　王都（おうと）の入場（にゅうじょう）の列（れつ）を捌（【さば】）いていく槍（やり）装備（そうび）の衛兵（えいへい）たちが、検分（けんぶん）しながら処理（しょり）をしていく。

　私（わたし）の番（ばん）になる前（まえ）に馬車（ばしゃ）から降（お）りて、横（よこ）に整列（せいれつ）する。

　この馬車（ばしゃ）は乗合（のりあい）馬車（ばしゃ）なので、全員（ぜんいん）が審査（しんさ）の対象（たいしょう）だ。

　私（わたし）は緊張（きんちょう）しながら、自分（じぶん）の番（ばん）を待（ま）った。

「はい次（つぎ）、えっと何々（なになに）」

「ミレーユ・バリスタットです」

「ミレーユちゃんね。それでお父（とう）さんとお母（かあ）さんはどの人（ひと）だい？　年中式（〔ねんちゅうしき〕）前（まえ）の子供（こども）は親（おや）と一緒（いっしょ）じゃなきゃだめなんだよ」

「あの」

「なんだい？　ミレーユちゃん」

「私（わたし）、もう年中式（ねんちゅうしき）過（す）ぎました。こう見（み）えても十三（じゅうさん）歳（さい）なんです」

「そうなの？　じゃあ身分証（みぶんしょう）見（み）せてもらえるか？」

　私（わたし）は村（むら）から持（も）ってきた身分（みぶん）証明証（しょうめいしょう）を見（み）せる。カード（card）型（がた）になっていて、誕生日（たんじょうび）、名前（なまえ）、性別（せいべつ）などが書（か）いてある簡易（かんい）カード（card）だ。

　魔法（まほう）、たぶん錬金術（れんきんじゅつ）系（けい）のものが使（つか）われていて、本人（ほんにん）が魔力（まりょく）を流（なが）すと、ちょっと光（ひか）る不思議（ふしぎ）なカード（card）だった。

「あら本当（ほんとう）だ。はいよーし。えらいえらい」

　いつまでも子供（こども）扱（あつか）いしてくる衛兵（えいへい）さんに頭（あたま）を撫（な）でられつつ、しょうがないので、笑顔（えがお）でその場（その）をやり過（す）ごした。

　下手（へた）に機嫌（きげん）を悪（わる）くしたら、怒（おこ）られてしまう。

　特（とく）に普通（ふつう）の旅人（たびびと）は、お金（かね）の徴収（ちょうしゅう）とかはないらしく、安心（あんしん）して再（ふたた）び乗合（のりあい）馬車（ばしゃ）に戻（もど）った。

　城門（じょうもん）から終着（しゅうちゃく）駅（えき）まではまだちょっとかかるらしい。王都（おうと）は広（ひろ）いんだって。

　王都（おうと）の門（もん）は今（いま）まで見（み）た中（なか）で一番（いちばん）大（おお）きい。それが横（よこ）に二（ふた）つ並（なら）んでいる。

　入（はい）る人（ひと）と出（で）る人（ひと）を効率（こうりつ）よく扱（あつか）っていた。

　感動（かんどう）する門（もん）の下（した）を通過（つうか）すると中（なか）が見（み）えてきた。

「スゴイ、これはスゴイ」

「きゅ、きゅぅ」

　ポムと私（わたし）が一緒（いっしょ）に馬車（ばしゃ）から身（み）を乗（の）り出（だ）すようにして、周（まわ）りを見渡（みわた）す。

　石畳（いしだたみ）の道（みち）は綺麗（きれい）でそして広（ひろ）い。その中（なか）を人（ひと）や馬車（ばしゃ）が別（わか）れてたくさん行（い）ったり来（き）たりしている。

　左右（さゆう）にはお店（みせ）と露店（ろてん）が所（ところ）せましと並（なら）んでいるんだもん。

　もうこれだけで感動（かんどう）モノだよ。

　人（ひと）なんて知（し）り合（あ）いしかいない田舎（いなか）村（むら）とは違（ちが）って知（し）らない人（ひと）しかいない。いやあ、世（よ）の中（なか）にはこんなに多（おお）くの人（ひと）がいるんだね。

　とにかく道（みち）なりに馬車（ばしゃ）は進（すす）んでいき、またびっくり。なんと広場（ひろば）の中心（ちゅうしん）には小（ちい）さいながらも噴水（ふんすい）が設置（せっち）されていた。

「見（み）て見（み）て、ポムぅ、噴水（ふんすい）、噴水（ふんすい）だよう」

「あはは、嬢（じょう）ちゃんは初（はじ）めてかい。一人（ひとり）でえらいね」

「はいっ」

　他（ほか）の乗（の）り合（あ）いの人（ひと）に話（はな）しかけられた。別（べつ）に人見知（ひとみし）りというわけではないけど、子供（こども）扱（あつか）いだし、初（はじ）めてだし、ちょっと恥（は）ずかしい。

　どうせおのぼりさんですよ。

　この国（くに）では十三（じゅうさん）歳（さい）で「一人前（いちにんまえ）に仕事（しごと）ができる」とされている。結婚（けっこん）できるのもこの年（とし）からだ。

　お酒（さけ）を飲（の）んだり、一人前（いちにんまえ）の大人（おとな）として扱（あつか）われるのは二十歳（はたち）からだけど、私（わたし）だって立派（りっぱ）な青年（せいねん）だもの。

　一人（ひとり）でできるもん。

　ポムだっているから大丈夫（だいじょうぶ）。

　それなのにみんなみんな、私（わたし）を子供（こども）扱（あつか）いして、本当（ほんとう）に恥（は）ずかしい。

　十三（じゅうさん）歳（さい）は立派（りっぱ）なレディー（lady）なの。

　馬車（ばしゃ）は噴水（ふんすい）を回（まわ）り込（こ）んだところの駅（えき）馬車（ばしゃ）の建物（たてもの）前（まえ）に到着（とうちゃく）して、解散（かいさん）になった。

　さて、ここからは自分（じぶん）で行動（こうどう）しないといけない。

　まず噴水（ふんすい）に行（い）って水筒（すいとう）のお水（みず）を補給（ほきゅう）するんだ。

　えいしょ、えいしょ。

　ちょっと噴水（ふんすい）のお水（みず）を汲（く）むための場所（ばしょ）が高（たか）かった。

　背伸（せの）びをしてやっと届（とど）いた。

　まだまだ私（わたし）はちんちくりんだ。こればかりはどうしょうもない。

　でもでも最近（さいきん）、ちょっと胸（むね）がついに成長（せうちょう）してきて、膨（ふく）らみ始（はじ）めてきたのだ。立派（りっぱ）な女性（じょせい）になるんだ。

　なんとかお水（みず）を汲（く）めた。

　すんすん。お水（みず）の匂（にお）いを嗅（か）いでみる。別（べつ）に変（へん）な臭（にお）いもしないし、カビっぽくもなく、大丈夫（だいじょうぶ）そうだ。

　意（い）を決（けっ）して飲（の）んでみる。

「美味（おい）しい、冷（つめ）たい。はぁ、生（い）き返（かえ）る」

　王都（おうと）のお水（みず）は大丈夫（だいじょうぶ）だ。これならポーション（potion）を作（つく）る際（さい）にも問題（もんだい）なさそうだ。

　ここまで来（く）る途中（とちゅう）、お水（みず）があまり良（よ）くない、ちょっと大（おお）きい町（まち）もあったので、警戒（けいかい）していたのだ。

　王都（おうと）でも水（みず）が悪（わる）かったらどうしようかと思（おも）った。

　もちろん錬金術（れんきんじゅつ）で濾過（【ろか】）装置（そうち）や、水（みず）を精製水（せいせいすい）に錬成（れんせい）することもできるけど、コスト（cost）が高（たか）くなってしまう。

　必要（ひつよう）な材料（ざいりょう）を全（すべ）て持（も）ってきているわけではないので、元手（もとで）がない今（いま）は精製（せいせい）はしたくなかったのだ。

　お水（みず）美味（おい）しい、本当（ほんとう）によかった。