EP.13かつての友との戦い(後編)

 「俺は……お前の一番の親友だと思ってた。考えてること全部わかるって思ってた。」

「お前が男を目で追ってることは気づいてたよ。別にそれを咎めるつもりはなかった。」

「ただ……掟は掟だから、お前はいいヤツだから、自分を抑えられると思ってた。それが正しいことだと思ってた。」

「でも違った……違ったんだよな。」

「お前は何も変わってない、俺の理解が間違ってた。」

「お前は、いいヤツなのに嘘をつかなきゃいけなかったんだ!……違うか?」


レヴィエルの声は震えていた。突然の言葉に戸惑ったが、俺も剣を下ろして答えた。


「……そうだ。俺は……善良さと嘘をつかないことを天秤にかけて、後者を取ったんだ。」


レヴィエルは袖で目元を拭い、続けた。


「それって何が違うんだ?」


「何が違うって、掟を守ることは善良なことで、嘘をつかないことは、自分のためにやってることだから……」


「嘘をつかないことだって美徳の一つだろ、何言ってるんだよ。」


レヴィエルは続けた。「俺はさ、お前が男が好きなこと、ほんとにどうでもよかったんだよ。」

「それが何かに影響すんの?って思ってた。……今思えば、全然わかってなかったな。」

「ごめんな、ニカフィム。お前が苦しんでたこと、気づいてやれなくて。」


「……っ!」どうでもいい。その言葉は確かにあの時一番欲しかった言葉かもしれないと思った。

関心を持って欲しかったわけじゃない。ただ当たり前に胸の中にある感情を、そこにあるんだと肯定してくれればそれでよかったんだ。


「……今更だ。」


「そうだな、今更だな。」


「でもさ、これは言える。ニカフィム、お前は変わらずいいヤツだよ。」

「だって悪いヤツなら嘘をつくことにそんな悩まねーもん、いいヤツでありたくて、でも天界の掟が邪魔だったから堕天したんだろ?」


「!……そんな、はっきり言ったって、何も出ないぞ。」かつて欲しかった言葉。かつて欲しかった肯定。それは手遅れになってからでも尚、暖かくて、目が潤んでしまう。


「そうだな……。ニカフィム、お前って変わらずいいヤツだったんだよなぁ……。」


何か納得したようにレヴィエルは頷くと、表情を曇らせた。


「どうした、まだ何か言いたいことでも……」


「いや、いい。俺はもう退く。お前はお前の好きなヤツと楽しくやってればいいさ。」


「生きていられたら……だけどな。」


「何を……」と問いかけたが、答えが返って来る前にレヴィエルの姿は消えてしまった。



「ニカさん!起きてください!敵襲です!ニカさん!」


先程から強くニカさんを揺さぶっているが、一向に起きる気配がない。

基地は先程から強い地響きが鳴り響いている。地上から人々が流れ込んできている。


どうやら基地に大量の流星群が降ってきたらしい。そんな芸当ができるのは天使しかいない。


「ニカさん……起きない……!」


何かの妨害に遭っているのか?とにかくこのままではいけないと判断した。


「アイさん、ニカさんのことよろしくお願いします。僕は地上の様子を見てきます。」


「地上の……って、上には確実に天使がいるぞ!?」


「だからこそです。僕やニカさんが生きていることは、奇跡を使えるなら向こうは探知出来るはず。僕が戦えるうちに戦っておかないと、ニカさんが危ないですから。」


「……っ!わかった。地上はおそらく瓦礫に埋まっている。これで爆破して向かいなさい。」


そう言うとアイさんは、僕にダイナマイトを手渡した。


「ありがとうございます、行ってきます!」


言われた通り、地上への入り口を爆破し、光の当たる場所へ出る。僕の知る限り建物のあったそこは、瓦礫の山と化していた。


「自ら首を差し出しに来るとは、殊勝な心がけだ。」

「我が名は処刑人キラエル。主の命に基づき、ホムンクルスと堕天使を処刑する。」


「はっ!ご丁寧にどうも。僕は紺碧です。お前を殺すホムンクルスの名です!」


一瞬の睨み合いの後、僕らの命を懸けたやり取りが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る