EP.12かつての友との戦い(前編)

 ふと目覚めると、俺は白い空間にいた。見慣れた天界とも違う。遠くには霧がかかり、地平線がはっきりと見えない。この場所が一体どこなのか、俺には見当もつかない。


「ニカフィム!」


軽快な声が耳に飛び込んでくる。俺は声のした方向に振り向いた。そこには、かつての親友レヴィエルが立っていた。彼の姿を見て、胸が締め付けられる思いがした。


「レヴィエル……」


俺は彼や、彼の所属する天界を裏切った身だ。この状況が理解できず、どこか気が引けた。


レヴィエルは笑顔で近づいてきた。「ニカフィム、前はひどいこと言ってゴメンな。」

彼の言葉に、俺は戸惑いを隠せない。

「俺、お前が男好きでも、全然気にしないからさ。」

「だからこれからも友達でいてくれよ。」


レヴィエルは手を差し伸べてきた。しかし、その笑顔と言葉は、どこか不自然に感じられた。俺は以前、彼にカミングアウトをして否定されたのだ。この展開は、あまりにも都合が良すぎる。


「嘘だ。レヴィエルはそんなこと言わない。」

俺は冷静に状況を分析した。「これは夢だろう、俺にとって都合のいい夢だ。」


レヴィエルの手を拒むと、彼の表情が一変した。笑顔が消え、冷たい視線に変わる。


「な〜〜〜んでそんな気付き方するかな〜〜〜」


レヴィエルの声音が変わり、両手に双剣を召喚した。俺に向かって斬りかかってくる。咄嗟に俺も剣を召喚し、応戦する。


状況を整理する。ここが異空間であること、レヴィエルの不自然な態度。答えは一つしかない。


「『夢見の奇跡』を使ったな!レヴィエル!」

夢見の奇跡。相手の夢の中に入る奇跡。

それだけなら何の害もないが、天使の夢に入り、その中で天使を殺害すれば、「殺害された」と認識した天使は本当に死んでしまう。


俺の叫びに、レヴィエルは薄笑いを浮かべた。


「ああそうだよ!堕天したお前を処刑しにな!」


レヴィエルは後方に跳び、羽根を広げて空中に飛び上がった。俺は地に足をつけたまま、彼を見上げる。


「なんでだよ、なんで堕天なんかしちまったんだ、ニカフィム!」


彼の叫びとともに、レヴィエルは急降下してきた。双剣を振り下ろす。俺は刃で受け止めようとするが、勢いが強すぎて弾き飛ばされてしまう。


地面に叩きつけられ、仰向けで起き上がろうとする。その時、レヴィエルの剣が迫ってくる。


「お前が堕天しなければ、ずっと友達のままでいられたじゃないか、なぁ?」


レヴィエルの言葉に、怒りが込み上げてくる。


「……っ、調子の良いことを!」


俺は腕で地面を支え、全身の力を込めてレヴィエルの顎を蹴り上げた。相手が怯んでいる隙に、素早く剣を再召喚し、体勢を整える。


「先に俺を否定したのはお前だろレヴィエル!お前が否定しなきゃ、もう少し我慢できたかもしれなかったのに!」


「我慢って何だよ!黙ってればいいだけの話だろ!」


レヴィエルの言葉に、さらに怒りが沸き起こる。


「その黙ってるだけが辛いって言ってるんだよ!」


叫びながら、俺はレヴィエルに向かって剣を叩きつけた。羽がない分、勢いはないが、相手を押し切るだけの気迫はあった。レヴィエルは双剣で防ぐが、徐々に刃が彼の首元に迫っていく。


「レヴィエル、俺はな、本当は堕天なんてしたくなかったよ。」

言葉を続けながら、さらに力を込める。

「好きな人と一緒にいることを認めてくれたら……堕天なんてしなくてもよかったんだよ。」

「お前みたいな奴がいるから!俺がずっと我慢しなくちゃいけなくて!周りが認めないから、俺が出て行かなくちゃいけなかったんだよ!」


感情の爆発とともに、俺の剣がレヴィエルの胴を切り裂いた。しかし、傷は浅い。

レヴィエルはふらつきながらも、戦闘体勢を崩さず、笑って剣を再び構えた。


「もっとかかって来いよ、ニカフィム。お前なんかちっとも怖くねぇ。」


そう言うとレヴィエルは再び飛び上がる。先程のような急降下をするつもりだろう。

しかし、俺にも策がある。天使の飛行能力は翼ではなく、「飛行の奇跡」によるものだ。


「なっ……!?」


レヴィエルの驚きの声が聞こえる。俺は空中を階段を登るように駆け上がり、彼に肉薄した。


刃をレヴィエルの首元に振り下ろす。双剣で防がれたが、刃は彼の首元にわずかに突き刺さった。


「悪いなレヴィエル、俺はもういい子じゃないんだよ。」

「ぐっ……!」


そのまま刃を押し切ろうとしたが、腹に蹴りを入れられて吹き飛ばされた。だが、その瞬間、俺の刃はレヴィエルの首の中程まで通った感覚があった。


地面を転がりながら、何とか受け身を取る。立ち上がり、レヴィエルの様子を確認する。


「……っ、はは……」

「俺は、お前のこと、全然わかってなかったんだなぁ……」


レヴィエルは多量の出血をしているが、まだ生きている。先ほどの傷では、彼に「死」を認識させるには至らなかったようだ。

レヴィエルは「治療の奇跡」を使い、瞬時に首の傷を癒した。


俺は再び剣を構えたが、レヴィエルの両手は、剣を放してしまっていた。


この展開に、俺は戸惑いを隠せない。レヴィエルの次の行動を慎重に見守りながら、緊張感が漂う空間に沈黙が広がった。​​​​​​​​​​​​​​​​

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