【人怖】怖バナクラッシャーの男! この世で一番怖いのは幽霊や妖怪よりも「人間」?いや、Yさんだ!怪奇なものは遭遇しなければ怖くはない。だが、相手が人間だとそうはいかない。それがYさんなら尚更だ!

BB ミ・ラ・イ

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 私は、小さい頃から怖い話が好きだった。よく心霊番組も録画をして見ていたものだ。現代では、ユーチューブが開設され、そのコンテンツには数多くの動画が投稿されている。


 もちろん、その投稿されている中には、怖い話をメインとしたチャンネルも数多くあり、私自身もいくつも登録をしていた。


 そんなある日のこと。時間を持て余していた私は、一つのチャンネルに目を引かれ、興味本位でその動画を視聴することにした。


 その動画では、有名な怪談師さんが6名おり、それぞれが聴いた怪談を話したり、時には「お題」が与えられ、それに沿った怪談を披露することもあるチャンネルだった。


 そんな怪談のレジェンドが集う場に、ひときわ目立っていた一人の男性。その方を仮にYさんとします。


 そのYさんという方は、短髪に整った髭、黒くて細いラインが入った特徴的な白いキャップを被り、腕に赤と白のパッチが付いている軍隊風のような服を着た、非常に特徴的な方でした。


 そして、そんなYさんも含めて6名の怪談師さん方は、順繰り順繰り怖い話を披露していくのですが、基本的に話す順番はジャンケンで決め、2番目以降は話した人が指名することになっていた。


 Yさんは、「先に話せれば気が楽だ!」と思っていたことだろう。なぜなら、残り時間は他の方の怖バナを聞いていればよかったからだ。しかし、そのYさんは運を持っておらず一発目で負けてしまたった。それも、一人負けだった。さらには、最後まで誰からも指名をされず、一番最後のトリとして話すことになったのでした。


 とはいえ、その会では先に話された怖バナにより、非常に現場はいい感じの雰囲気となっていたと思う。怖バナが好きな皆さんも、口々に「えー!!!」という驚きや、「怖っ!!!」という感想を述べていたから。


 そんな最高なムードの中、トリを締めくくることになったレジェンドYさん。多少、緊張はされているのか、瞳孔が開きすぎているようにも思えたが、それでも気合を入れ様々な怪談師さんが、完璧なまでに積み上げてきたスタジオで、彼はマイクスタンドの前に立った。


 話が始まると、他の怪談師さん方も真剣な眼差しで聞き、Yさんの話に釘付けになっていた。怪談師としては、最高の空気感の中、完璧なスタートダッシュを決めれていたはずだ。そのままYさんは、軽快に話しを進めていき、あっという間に数分間の短い話しは、終わりを迎えた。


 Yさんの怪談は、人づてとはいえ、かなり怖く完璧なトリを務めたかに思えた、その時だった。


 あろう事か、Yさんが放った最後の一言に、場の空気はそれまでとは違う形で氷付き、彼を除いた5人の脳裏には「はぁ?」「え?」「なに?」「どうした?」「何してんの?」など疑問符が浮かんでいたことだろう。


 彼は完全にやらかした。


 Yさん本人は、満足げに話し終え、オチも付いたと言わんばかりの満面の笑みだったがその背後で、5人のレジェンドの頭の中にはハテナと、Yさんに対して説明を求める眼差しが向けられていた。


 場の空気は、恐怖による冷たさではなく、どちらかといえば漫才でドンズべりをした時の空気感に近いだろうか。


 なにより、大先輩であり、そのMCをやっていた仮にSさんとしますが、Sさんの眼差しが一番冷たく、彼のことを突き刺していたと思う。


 Sさんは、何も言わなかった。ただただ、Yさんに対して冷ややかな視線を送っていた。他の4名はクスクス笑っていたが、Sさんだけは何かを要求し、弁解の余地を渡していたのだろう。


 しかし、Yさんは何も起きていないかのように、そのままの空気の状態にし、元の席へと満足そうに戻っていったのだった。


     ◆◇◆◇◆


 明くる日のこと。その日は、お盆の日だった。


 この日も、新しい動画が投稿されていた。


 その会は、『お盆怪談』と称して、お盆に関する20個のキーワードを選び、それにまつわる怪談を披露するというものだった。


 そこには、馴染のあるレジェンドとゲストを含めた6名が並び、そこにYさんも座っていた。


 初めにジャンケンをし、最初に怪談を話す人を決める。その後は、話した者が指名をすることになっていたのだが、なんとこの会でもYさんは一人負けをした。そして、まったく指名をされることなく、一番最後に話すことになった。


 キーワードは、一つだけではなく複数選ぶこともでき、一度使われたキーワードは使えないというルールだった。しかし、その会では前編・後編に分かれており、キーワードも引き継がれるため、Yさんの番でも半分以上のキーワードが残っていた。


 以前同様に、今回もレジェンドたちは次々と怖バナを披露していき、場のムードを温めていった。キーワードの中には、『肝試し』や『海』、『お墓参り』などの定番のものもあれば、『カブトムシ』、『おはぎ』なんていうものまであったが、そこはレジェンド怪談師。うまく怪談と絡ませ、皆5分程度の怪談を繰り広げていった。


 そして、Yさんの番。キーワードを二つ選び怪談が始まった。


 やはり、完璧なムードの中、スタートダッシュは良かった。うまく初めのほうでキーワードを使い、残るはいい感じに落とすことができれば、演者に恐怖を与えた状態で終えることができる。


 まさか。前回、あれでスベって、今回も同じ過ちを繰り返すことはないはずだ。怖い話をした後に、あのオチをつけることはしないはずだ。


 しかし、Yさんは皆の期待を裏切りった。いや、答えたのかは定かではないが、話し終えた彼は、 ─── 。


 大きく息を吸い込む。


 やめてくれ。それだけは、……


 人差し指と中指を揃え。


 頼む。頼む。頼む。頼む。言うな。言うな。言うな…………





「ピンポ~イント!!!!!!」





 終わった。いや、スベった?


 完璧な話だった。完全に射た矢は、真っ直ぐ的へと向かっていた。だが、最後の一言により、的から大きく外れていった。


 これほどまでに、怖かったムードを壊せる者が他にいるだろうか。


 そして、何より凍りついた現場で、笑っていたのはYさんただ1人だけだった。彼は、またもや満足そうに、まるでウケたかのように振る舞い席へと戻っていった。


 その時のMCであるSさんの表情はというと、完全に血の気は通っておらず、心ここに在らずのような表情をしていた。


 それからも怪談を話すたびに、オチで言っているが一度もウケたことはない。しかし、彼は忘れることがない限り、言い続けているのだろう。


 私がこの世で一番怖いのは、「人間」 ─── いや、Yさんの「鋼の心」なのかもしれないと、痛感した瞬間だった。これが夢か、現か、幻かは今の私には知る術はないのかもしれない。


 なぜなら、私はもうこの世には ───(完)

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