あなたは口にしたその「噂」に、責任が持てますか?

@kumanonn

第一話 いつもの日常

ーーこれは、ある暑い夏の物語。







「明日楽しみだなあ。早く学校行きたいなあ」

「いいねえ、明日香は。私なんてこんなに残りの課題が溜まってるっていうのにさあ。あああ、やばいわー、数学の先生、課題忘れると倍追加してくんのよ。」

「それはお姉ちゃんの自業自得でしょ。毎日ゲームばっかり。」

「うわっ、今ぐさっときた。さすが私の妹だわ。ぐうの音もでない。」


ケラケラと笑う姉に私ははあっと溜息をついた。夏休みが終わる前日。宿題が終わっていない子供を絶望のどん底に叩き落す日。私のお姉ちゃんも例に漏れず、課題が終わらず、頭を抱えていた。……本気で悩んでる様子じゃないところを見るに諦めたんだろう。もう、お姉ちゃんは昔から諦めるのが早いし楽天的なんだから。


「それにしても……、随分変わったよな。」

「えっ?」

「昔は学校行くの嫌がってたじゃん。まあ、があったんじゃ仕方ないけど。でも、ほんと、明るくなった。」


良かった、とへらっと笑ったお姉ちゃんからプイっと顔を背ける。顔が少し熱い。お姉ちゃんはこういうところがある。優しいのだ妹思いなのだ、姉は。があった時も、一番怒ってくれたのはお姉ちゃんだった。今から三年前。あの、忌まわしい日々の記憶……。



ーー小学五年生の春。私は、虐められていったクラスメイトを庇ったことで、虐めの標的にされた。先生も見て見ぬふりで、毎日地獄のような日々だった。悪口、仲間はずれ、無視。机に死ね、消えろと書かれてあったり、水を頭からかけられたり。誰も助けてくれなかった。辛かった。苦しかった。家族には相談できなかった。優しい彼等に心配をかけたくなかったから。


いじめが明らかになったのはあの日、学校の古い倉庫に閉じ込められたことからだった。窓は小さくとても通れるような大きさではなく、鍵もかけられていて出られなくて。夜になっても誰も来なくて、ああ、私ここで餓死するのかなあって、うずくまりながら、ぼんやりと考えてた時。


「明日香!」


お姉ちゃんが助けてくれたのだ。帰りがあまりにも遅いから家族総出で探してくれていて、お姉ちゃんは、まさかと思ったらここにいた、と言っていた。皆泣きながら気づかないでごめんねと泣いていて。私も大泣きしてしまった。後日、学校側が用意した謝罪の席の時、謝るように促されたいじめっ子の主犯の子が泣き叫んだ時も。


「なんで私だけ責められるの?!あんたは私と違って優しい親がいるじゃない!毎日毎日いい成績が取れなかったら殴られたり、食事を抜かれたり兄弟に女のくせになんて悪口も言われないあんたが!何で私だけ!あんたは家族に恵まれてるじゃない!ちょっとぐらい「うるさい!」!?」


「何で気づつけられる苦しみを知ってるお前がおんなじことしてんだ!妹はただ虐められていた子を助けただけだ!妹はあんたに何かしたか!?明日香はお前の八つ当たり場じゃねーんだよ!」


いじめっこは茫然としていた。姉はそれから、同じように茫然としているいじめっ子の家族にガンをとばし、


「もし今のこいつの話が本当なら、お前らは虐待していたことになる。お前らは人間の屑だ。私はお前らを、許さない。」


今にも殴りかかりそうな低い声で、そう脅していた。あの時のお姉ちゃんは、滅茶苦茶かっこよかった。


そんなことがあってから三年、今じゃ私は私立の名門校に特待で合格して、あの後転校した学校でもできなかった友人にも恵まれて。毎日が、幸せだ。特に、友人二人は優しいし大好きだ。昔は大っ嫌いだった学校も、今じゃ大好きな場所。


「私、もう寝るね?」

「おー、おやすみ。」


「おやすみなさい。」


明日楽しみだなあと呑気に思っていた私は、翌日から悪夢の日々が始まるのだと知らなかった。

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