第15話 こいつは面白い
「で、弟子!?」
「はい! ワタクシをジャック様の弟子にしてくださいまし!!」
ルティは僕の背中にしがみついて離れない。
「悪を許さず、弱きを助ける。 先ほどのジャック様の立ち振る舞いは、まさにワタクシの憧れる勇者そのものですわ!! 将来勇者になることを夢見る者としてぜひ、教えを頂きたいのですわ!」
「いやだって、おい離れろよ!」
「ジャック様が弟子にくださるまで、ワタクシ絶対離れませんわ!!」
僕が何とか振りほどこうと体を左右に揺さぶっていると――。
ゴォーンゴォーンという鐘の音が街に鳴り響く。
「この音は?」
「あぁ、これは17時の合図ですわね」
なん……だと。
「お前のせいで、寮の鍵貰い損ねたじゃないか!」
「はっ! そうでしたわ。 どうしましょう」
「どうしましょうじゃねぇよ! どーすんだよ! 野宿するしかないんじゃないか」
どうもこのルティとかいう奴と一緒にいるとペースを乱される。
「弟子にしてくださいまし!」
ルティはより一層強く僕を抱きしめる。
「ちょっ、お前何でそこまで――」
「約束ですの! 妹との! もう叶わないあの子の代わりにワタクシが勇者になるんですの!!」
その声は今までみたいに高貴で、朗らかな声ではなく、必死に何かを訴えかけるような声だっだ。
――――クソ! そんな同情してしまいそうな、事情なんて知るか!
――そうだ、弟子なんて取る気全くないけど、諦めてもらうために、一度チャンスをやるふりをしよう。
「わかった。 なら、僕に一度でも攻撃をあてることができたら、弟子にしてやる」
その言葉を聞いたルティは、徐々に腕の力を弱めていく。
「分かりましたわ!」
僕達は街を出てすぐ他ある何も無い草原に向かった。
寮のカギをどうするのか、という悩みは一旦保留だ。
ここで白黒付けないと、ルティに一生付きまとわれるかもしれないのだから。
「さぁ、いつでも掛かってこい!」
僕は右手に短剣、左手に20cmの杖を手に構える。
一方のルティはバスターソードを構える。
右手の人差し指に、青い魔法石の埋め込まれた指輪をつけていることから、水属性の魔法を使うことが分かる。
「いきますわよ!《ウォーターソード》!!」
ルティがそう唱えると、その手に持つ剣を水が包んでいく。
水に包まれたことで剣の刀身が、1.5倍程伸びる。
「王道だな」
魔法を剣にまとわせて、重量を増やす事なく、剣のリーチを伸ばすというのは魔導剣士なら誰でもやる王道技だ。
「《ウォータースピア》」
ルティがそう唱え指輪をはめている右手を横に振ると、横一列に小さな魔法陣が複数展開され、そのひとつひとつから円柱型の針が飛ばされる。
「これまた王道」
飛び道具を使って相手に回避行動を取らせている間に、間合いを詰める。
まるで教科書を読んでいるようだ。
いつもなら相手の狙い通りに回避行動を取り、どんな風な攻撃をしてくるのかを見るだろうが、今回はさっさと決着をつけるために、遠慮は無しでいく。
「本気で行かせていただきますわぁ!」
予想通りルティは僕に真っ直ぐ向かってくる。
彼女の剣の構え方からして、予測している選択肢は二つ。
僕がウォータースピアをしゃがんで回避するか、ジャンプして回避するかだ。
もうひとつの選択肢として横に回避行動を取る事もできる。
ただ、ウォータースピアが横に広がる魔法であるため、横に回避行動を取るのは難しい。
「だからこそ逆に横に回避行動をとって、不意を突くのではないかと考えているか?」
僕がそう言うとルティは分かりやすく動揺し、行動に迷いが見え始める。
この程度の事で迷うなんてのは、明らかな実践経験のなさからくるものだろうな。
「こういう選択肢もあるぞ」
僕はウォータースピアを避けなかった。
短剣を横に振る。
その一振で、横一列に並ぶウォータースピアを全て打ち消したのだ。
「そんなことが出来ますの!?」
横一列とは言ってもウォータースピアは綺麗な列を成していたワケではないので、剣を振りながら多少の微調整は必要だ。
短剣を使うからこそできる、コントロールだ。
完全に面食らっているルティの動きは、スローモーションかのように遅くなっている。
よし、後は一気に間合いを詰めて喉元に切っ先を突き立てて終了っと。
僕はその考えの通り間合いを詰めると短剣をルティの喉元に――。
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕の短剣は弾かれた。
ルティがバスターソードをとんでもないスピードで動かしたのだ。
その剣の扱い方は教科書のどこにだって書いてない、無茶苦茶なものであった。
「まずい!」
って呑気にそんなことを考えいる場合では無い。
剣を弾かれた僕は丸腰も同然。
「くらいなさって!!」
ルティはこれまた無茶苦茶な動かし方で、足を上げて僕に蹴りを入れようとしている。
無茶苦茶な割にキチンと僕の隙を突いてくる。
これ結構やばいかも。――かくなる上は!
「《マジックバレット》」
杖を高速で動かし、お馴染みの魔法をルティに向けてではなく、自分自身に放つ。
「ウグッ」
僕は情けない言葉を漏らしながら後ろに吹っ飛んだ。
しかし、それによってルティの蹴りを避けることができるのである。
「今のはワタクシの攻撃が当たったようなものですわ!」
「はぁ? セーフだよ! 全然セーフ!」
――その後もルティとの攻防は続いたのだが、何やらコイツには今までに戦ったヤツらとは違う何かを感じる。
基本的に800近くの勝ち筋を見つけられるほど、僕とルティには力の差があるのだが、時々その数が一瞬だけ一桁代になることがある。
それはいつも、僕が致命的な攻撃を与える時。
ルティが頭で考える暇がなく、本能で戦わなければならない時。
アイツの天性の戦闘センスが発揮されるのだ。
「おもしろい」
僕はルティの単調な斬撃を受け流しながらそう言った。
「それはどうもありがとうございますですわ!」
ルティにとって僕の言葉は皮肉しか聞こえていないようだ。
まぁ、実際こいつの攻撃は全く受けず、逆にルティは死ぬほど僕の攻撃をくらっているからな。
客観的に見れば僕の圧勝……。
「もう、僕の勝ちでいいんじゃないか?」
僕は煽るように、眠そうな声でそう言った。
「はぁ……はぁ…………まだ、ですわ! 制限時間を設定なさらなかったのならば、ワタクシが負けを認めるまで続きますわ」
痣のついた顔のまま威勢よくそう言うと、ルティはまた僕に斬りかかってくる。
どうしてそこまで……という言葉が喉元まで出かかったが、口には出さなかった。
何か重い事情があるのが分かっていたからだ。
同情的になって弟子を取るなんて悔しいじゃないか。
ただどうしても試してみたいことがあるのだ――。
「――わかった、僕の負けだ。 敗北を認めよう」
僕はルティから一気に距離と取ると、両手を上げてバンザイをした。
突然の出来事にルティはキョトンとして固まっている。
「いいんですの? ワタクシ、こういうのは遠慮しませんわよ!」
なんだ、意外とがめついところがあるじゃないか。
攻撃当ててないから、勝ちとは言えないって言うくだりが一度はあるかと思ったのだが。
「ではワタクシは今日から、師匠の弟子ということでヨロシクお願い致しますわ!!」
「師匠呼びはマジで恥ずかしいからやめてくれ」
こうして僕は、ルティと師弟関係になった。
これはルティを認めたというわけでは断じてない。
こいつが勇者になろうが、なれなかろうが関係ない。
妹との約束なんてクソくらえだ。
ルティを弟子に採用したのは、全くもって私利私欲のためだ。
彼女に僕の全てを教えることによって、対僕において最強の敵になるのではないかと考えたのだ。
つまり、僕に完全敗北を与えてくれる存在を僕自身で作り上げる!
申し訳ないが、お前の夢を利用させて貰うぞ。
「クックック」
そんなことは露知らず、嬉しそうなルティを見て思わず不敵な笑みが浮かんでしまう。
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