第11話 学院襲撃

僕が真っ先に向かったのは治療室だった。


そこはこの試験を終えた受験生が勝っても負けても、一度検査を受ける場所である。



 その道中には警護をしていたはずの人たちが傷だらけで倒れていた。


僕の頭の中の予想が確信に変わっていく。


「間違いない。 この先に強者がいる」


走っていく途中、大きな物音が聞こえる部屋があったので、僕はそこへ勢いよく飛び込んだ。


するとそこには真っ黒なローブを着て、深くフードを被った人物が、先ほど試験を終えたばかりのカイアの首を掴み彼女を壁に押し付けていた。


「き、貴様何者だ!?」


ローブを着た人物は、声からして男で、かなりの年寄りだ。


「に、にげなさ……い、コイツは……」


カイアが何か言いかけたが、ローブの男が強く首を絞めたため、喋れなくなる。


この男がなぜカイアを狙うのか全く見当もつかないが、そんなことはどうだっていい。


とにかく周りから強いと評されているカイアを無傷で組み伏せているところを見れば、男がかなりの実力者であることは明白だ。


「待ってろ、助けるからな!」


僕はいかにも自身の正義感によるものからカイアを助けようとする素振りを見せる。




  「いやぁっと見つけましたわ! ワタクシあなたとお話してみたくっ――――ってえぇぇぇぇぇぇ!?」


これからという時に、今度は治療室に金髪の縦巻きロールの少女が入って来た。


――ルティだ。彼女は想像もしていなかった光景に驚嘆の声を上げる。


「なんですのこの状況!? 」


こいつ……。


「うるせぇ、なんでここ来たんだよ!」


「ワタクシあなたとお話してみたいかったのですの!」


「僕はお話したくない!! 帰れ!」


「いいえ、帰りませんわ! オーホッホッホ!!」


「今、笑うとこじゃないだろ」


「ワタクシの高貴な笑い方の魅力が分からないとは……寂しい方」


「あぁ!? なんだお前、ぶっ飛ばすぞ」


「いいえ、ムリですわ。 ワタクシ、俊敏さには自信がありますの」


そう言うと、ルティは僕の前で反復横跳びし始めた。


僕は覚めた目つきで彼女を見つめる。


「黙れお前ら!! 状況わかってんのか!?」


痺れをきらした、ローブの男がこちらに叫んでくる。


そして、男がカイアを掴んでない方の手を伸ばすと、なんとそれがこちらに伸びて迫ってくるではないか。


「はぁ!」


ルティはその攻撃に一瞬で反応し、腕を切り落とした。


切り落とされた腕をみると、およそ人間のものとは思えない禍々しい造形をしている。


「なんですの、この腕……」


するとローブの男は不気味な笑い声をあげる。


「これはかつて勇者によって封印された種族、悪魔族の腕。 バカなガキのお前らでも悪魔くらい知ってるだろ?」


「やはり、悪魔族! あの恐ろしい種族ですのね」


悪魔族……あぁ悪魔族か! いたなそんな奴ら。


「そうだ、あの悪魔族だ。 ――つまり、わかるだろ?」


男がそう言うと先ほどルティに切り落とされた方の腕が、みるみるうちに再生していく。


「悪魔は殺すことができない」


いやぁ、そんなことはなかった気がするけど……。


「悪魔なんて、存在するわけない!!」


カイアは声を振り絞りながらそう叫ぶ!


「くっははははは! 悪魔様は存在しておられる! 我らブラッククロス教会によって再びこの世に顕現なされるのだ!!」


ぶ、ブラッククロス教会!?


僕が居ない間にそんな厨二病みたいな組織が発足されていたのか。


「 早く彼女を助けなくてはなりませんわ!」


「フン、やってみるがいい」


ローブの男は再び腕をこちらに伸ばしてくる。


ルティはそれを斬るが、またすぐに再生して襲ってくる。


「うん? ……お前まさか」


ローブの男はルティに腕を切り落とされながら、小さな声でそんなことを呟いた。




 「はぁ、はぁはぁ……これでは、キリがありませんわ。 体力を削られるばかりで……」


直ぐに再生してしまうため、全く近づけず、体力ばかりが削られていく。


「ちょっと、僕もやってみるか」


試験を終えたあと、装備を返してもらっていたおかげで、僕の手には自前の短剣が握られている。


「次はお前と遊んでやろう」


ローブの男は、さっきよりも早いスピードで襲い掛かってくる。


僕はその猛攻を受け流しながら、勝ち筋を見出していく。


斬られても再生するという能力にあぐらをかいて、攻撃がワンパターンだな。


「これじゃあ、まだ届かないな」


これでは、まだ完全敗北できるほどの相手とは到底いえない。


でも、この世界にあの悪魔族たちがいるのはいい情報だ。


僕が目をつぶりそんなことを考えながら、男の攻撃を受け流していると――。


突然ドアが破壊され、中に真っ黒な鎧を着た剣士が現れた。


その姿をみた、ローブの男は目に見えて狼狽している。


「その漆黒の鎧は……王国騎士団長ヴァルナダか!?」


その質問に答える間もなく、剣士は僕を後ろに押しのけ、悪魔の腕を斬りつける。


「――フッ、馬鹿め! いくらヴァルナダでもこの悪魔の腕を持った私には近づけま――――」


男がそうあざけようとした時、悪魔の腕の切り口がまるで熱々の鉄板に水をまいた時のような蒸気を上げている。


「ぐっ、腕の再生が遅い……‼ それにこの痛み、まさか聖水!?」


よくみると、ヴァルナダと呼ばれた剣士の剣はその刀身に何かを塗られていた。


ヴァルナダは剣についた血をはらうと、ローブの男に一気に近づく。


うーん、なかなかいい足さばきだ。


どこの誰か知らないが、悪くない。


「ま、まずい!」


男はそう言うと、カイアから手を離し、懐からクリスタルのようなものを取り出すと、それを握りつぶした。


その瞬間男は眩い光に包まれ、姿を消してしまった。



 【あとがき】

夕方18:17に投稿!

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