チート転生も100回すればもう飽きる。やっと無能に転生出来たので、敗北を味わいたい! ~手も足も出ない完全敗北を味わいたいのに、勝ち筋が100通り以上見つかるんですが~

プリントを後ろに回して!!

第1話 プロローグ

「くっクソ! 我の渾身の魔法が全く通じないなんて、なんてつよさだぁぁ!!!」


世界最強と呼ばれる魔王が、僕の目の前でそんなことを言っている。


「はい、ふぁいやーぼーる」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


ため息交じりに唱えたその魔法で、魔王は燃え盛り、息絶えたのだった。




「勇者よ! この世界を救ってくれて心から感謝する! 君が望むものすべてを与えよう」


王都に帰ると王宮の者達だけでなく、国中の人たちが集まり僕を称賛してくれる。


「あの魔王を子ども扱いだったんだぜ」


「やっぱり勇者様はかっこいいわ♡」


今世のパーティーメンバーも僕をほめまくってくれているようだ。


「勇者様!」


王の前で膝間づいている僕の元に、世界一の美女と呼ばれる姫様が駆け寄ってきた。


彼女は僕を抱きしめると、僕と熱い口づけを交わしたのだった。


あぁ……僕は今、最っっっっっっ高に――。


退屈だ。






気が付くと、嫌というほど知っている真っ白な空間に立っていた。


「おめでとうございます! よく頑張りましたね!」


そう言って僕を抱きしめるのは、僕を担当している女神イアであった。


「おめでとう……? ってことは遂に僕は777回魔王を倒したんですね」


「そうです。 あなたは【ステータス継承】という序盤では全く役に立たないスキルだけを持って、1132回の転生の末、777個の異世界を救ったんです」


1132回……、そう僕は推しのアイドルの引退ライブに行く途中でトラックに轢かれて死んでしまいこの天界に来たのだが、イアにチート転生するよりも普通に生き返らせてほしいと願ったのだ。


普通ならそんなことできないのだが、偉い神様からステータス継承というスキルだけで777回魔王を倒す、つまり777個の世界を救ったら生き返らせてくれるという提案がなされたのである。


「最初は本当に苦労したな。 なにせ本当にただの村人Aでしかなかったんだから……」


ステータス継承は前世のスキルを継承するというスキルなので、転生生活の序盤の僕はモブ同然に弱かった。


しかも、全く成長できずに死んで、次の異世界へ行ってもステータスが全く上がっていないなんてこともかなりあった。


魔王どころか、ゴブリンにやられて死んでしまったり何てザラだったのだ。


そして約350回の転生、年数にして約3500年以上の修行の末、僕は膨大な知識と戦闘経験を駆使して、初めて魔王を倒すことができたのだ。


ちなみにその時は魔力とスキルは並みの冒険者程度で、僕は戦闘技術だけで魔王を倒したと言っても過言ではない。


ただ、その魔王を倒した瞬間、大量の魔力とスキルを手に入れることができた。


そこからは僕の磨き上げられた戦闘技術と膨大な魔力、スキルが合わさったことによって、まるで作業のように魔王を倒す日々がはじまったのだった。


――――しかし、いつしか魔力やスキルに頼らず戦闘技術だけで戦っていた時代を恋しく思うようになっていくようになった。


「よくあの地獄を乗り越え、この偉業を成し遂げてくれました。 これで大女神様もあなたを現世に生き返らせてくれることでしょう!」


イアは巨大な胸をブルンと揺らし誇らしげに胸を張る。


「――うん」


「あらどうされました? なんだか浮かない顔……」


「いや、生き返る、ね……」


正直この転生生活のなかで、アイドルの引退ライブなんかどうでもよくなっていた。


僕が望むのは……………………。



「――よくぞ成し遂げてくれました!」


空からまばゆいい光と共に、ずいぶんと懐かしいその神が現れた。


名前はたしか……シーフェルだったか。


イアの上司にあたる大女神という神らしい。


僕とイアはシーフェルの前に膝をつく。


「大女神様‼ 私イアが担当するこの者は今回の転生で777回目の魔王討伐を終えました。 ――この者の願いを叶えてくださいませ!」


「――申し訳ありませんイア。 それはできません」


「え?」


「我々神たちは現在、大量の異世界を管理しており、 そしてその多くの世界に魔王が存在し、世界を征服しようとしています。 そして最近、誕生する魔王たちが日に日に強くなっているのです。 我々も転生者たちにチート能力を与え、できるだけ早く魔王を討伐してもらおうとしているのですが、そのチート能力よりも強い魔王が何体か発見されています」


「そ、その話は私も聞いたことありますけど」


「 今までは能力の使い回しで何とかなっていたのですが、その能力を上回る魔王が出てきてしまってはそうもいかない。かといってチート能力を生み出すには多くのエネルギーを使うため、そう簡単に新しい能力を生み出すこともできない。 そこで大女神たちで話合った結果、神の御業を使用せずどんな魔王でも対応できるより実践的なチート能力を生み出す必要があると」


「――ま、まさか大女神?」


「そこで転生者にステータス継承だけを与え何度も転生させ、どんな魔王でも対応できる能力を作り出す。 そしてその転生者の能力を回収しどの転生者にも与えられる能力として保管する」


「まさか、彼のステータスを⁉ 彼は地獄のような日々を経てここまでの力を手に入れました。 それをまるで道具のように……人間は道具ではありません!」


イアは大声を上げてそう訴えかけた。


「私たちだってそんなことは分かっております。 しかしそこにいるその人間は、トラックにひかれる前は特に何の才能もないくせに何の努力もせず、ずっと親に甘え定職にもついていない。 その上、自分が上手くいかないのは社会が悪い、うまくいっている奴らは運が良かっただけと思っている。 そんな人間の魂なんてどう扱っても良いでしょう」


――それは本当にそうだから何も言い返せない。


「それでも彼は死ぬほどの努力をして、世界を、人々を救いました。 十分に生き返る権利はあると思います」


「――はぁ、そもそも元の世界に生き返らせるなんて嘘に決まっているではありませんか。 彼の能力は私たちが回収し、彼には別の世界で無能として静かに生活していただきましょう――そうですね、かつてその男が初めて魔王を討伐したNo.25の異世界で静かに生活してもらうとしましょうか」


「ちょっと待ってください! その世界は魔法に重きを置いている世界じゃないですか。 そんなところに魔力もスキルも奪われた彼を送ったら、どんな酷い目に・・・」


「魂の価値が低い人間のくせに、今まで良い思いもしてきたのでしょう。 よいではありませんか」


僕の意志なんて関係なく、足元に転送用の魔方陣が展開される。


「そんな! たとえ大女神様であってもこんなこと許されません!!!!」


「たった一人の人間の犠牲で、多くの人間が救われるのです。 神である我々はそういう選択をとるべきなのです」


「ならば、なぜ……なぜそんなに笑っておられるのですか!?」


確かにシーフェルの口角は上がっており、笑顔というより嘲笑がその顔に浮かび上がっていた。


「待っていてください! 絶対に生き返らせて見せます!」


イアは転送され始めている僕に向けてそう言い放った・・・けど。


(あ、おかまいなく)


それが僕の本音だった。






 だってだってだって、これから転生されるあの世界は過酷な実力社会で、しかも僕の魔力やスキルはなくなっているんでしょう!?


それってきっとめちゃくちゃバカにされて、戦ってもボコボコにされてそして最後には…………敗北するんでしょう!? できるんでしょう!?


きっとその先には夢に見た、自身の全ての力を使ってもなすすべもなく敗北する。いわゆる【完全敗北】が待っているのだろう。


最初の頃の僕は低レベルモンスターにも勝てない雑魚だったが、転生を繰り返していくうちにスキル【ステータス継承】の力で強くなり、自分が最強であるという全能感に酔いしれてた。


だが、次第にそれは戦いの中に感じていた刺激を薄めていくことにつながったのだ。


そしていつしか、僕に持てる全ての力をぶつけて散っていく敵を美しいと思うようになった。


生きるとはどういうことかをそこに見た気がしたのだ。 だけどいくら憧れても、強すぎるステータスのせいで傷一つ負うことなく、全自動で敵を倒してしまうため、僕にとって戦いは虚しいものであり続けた。


だから、今回の一件は僕にとって夢を叶える大チャンスである。


今度の転生は誰も戦う前から戦意喪失したり、逃げ出したりしない。 気づいたら死んでるなんてこともない。 真っ向から僕に殺意を向けてくれるし、そして負けることもできる。


「あぁ……誰か早く僕を敗北させてぇ♡」


転生が完了する直前、僕はそんなことを呟いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る