スカビオサ

一都 時文

第1話 黄色のスカビオサ

 佐野市(さのいち)、私は泣いている。

「ゆっ…幽霊!!」その原因はこれ、私の目の前には軍人のような格好をした泥塗れ、いや、軍人がよく塗る塗装のようなものをしている。そして何より服についた血痕がこの世の者ではないと教えてくる。 

「貴様、なぜ見える?」ガチャッと鉄砲を突きつけてくるが正直、幽霊対私で鉄砲は私の敵ではない。

「ギャーー!!」「うるさい。」冷静に返されると大分恥ずかしいな、でも、何となく悪い幽霊では無いと思えた。よし、どうするべきだ?私はただの現代人、そして目の前の人は幽霊。警察は使えないし祓うのは…何か可哀想な気がする。

「イチと言ったな、」いきなり幽霊に話しかけられると五倍は驚く。

「はいっ!あ、貴方は…?」

「私は正一と言う。日本兵だ。」日本兵…昔、私は日本の犯した重罪をよく叩き込まれたものだ。戦争の事は歴史や道徳、国語、美術でまで用いれられるものだがそのショッキングさに口が開きっぱなしだったことを覚えてる。

「日本…兵、ちなみに私はコールセンターで働いてます。」何で言ったのかは分からないがこの一言が関係をよくしてくれた。その後は現代と過去で違うものの話やコールセンターの話をした。正一に関して分かったことは、自身が霊であることは分かっているが今まで何をするでも無かった為現代のことは全く知らない。そして、戦死したそうだ。

「イチ、名前はどう書くんだ?」

「市場の市でいち。正一は正しい一でしょ?」

「正解だ。」

「あっ、正一こんな時間だけどお風呂入らない?」現在3時だがこのまま血痕付きの人と話ふけるのは気が引ける。

「贅沢は敵だ。そのようなことはできん。そもそも夜に風呂を沸かせば湯気や火が目立つ」

「だから、今は令和!日本は戦争をしないって誓ってんの!」

「……それは、そうか、、」

「はいはい入る入る!」私は風呂を沸かしに行き、ついでに服を探した。どれも女性物で正一には合わない、今から買いに行くのも無理がある。と、あるキャラクターの寝間着を見つけた。

「そういやこの服オーバーサイズだからいけるかも?」私が取り出した服は【マルル】というゆるキャラの服でフードが恐竜の形をしている。ピピピッお風呂が湧いた。

「せいい…」リビングに戻ると正一は戦闘態勢になっていた。これには私も焦る。

「なになになに?」

「否、音がした。」なるほどと思うと私は正一に銃を降ろせと指示しお風呂に誘導した。

「これがシャンプーでリンスね!後、こっちが…」正一は風呂を見るなり驚きを隠せていない。まぁ、昭和初期と今では何かと違いもあるが今まで幽霊をしてきたのなら少しは知っていると思っていた。

「礼を言う。ありがとう市」

「いいよ、ちなみに物には触れる?」

「嗚呼、できる。」確かに正一はドアを開けてみせた。

「良かったぁ、私はリビングに居るからゆっくり入ってて!後、服は洗面所にお願い。あっここね?」分かったと頷くと正一はキラキラとした顔で銃を下ろした。

 さっ、私が次にするのは食事の用意だ。正一の痩せた体を見てると居た堪れない気持ちでいっぱいになってしまった。それに、彼は銃を常に握り、正しい正座で気が抜けない様子だった。これで少しでも元気になって欲しいと思う。

「これでも料理は得意だもん!」私は独り言を言いながら日頃から自炊している事もありいろんな野菜や肉を調理した。肉じゃがに味噌汁、きゅうりの浅漬と生姜炒めを用意する。日本食なのは少しの配慮だ。久々のご飯が洋食だと抵抗があるかも知れないし、何より、戦死ということは最後に食べた食事は僅かなものだったのだろう。今の時代じゃ考えられない。

「…市」正一が戻ってきた。服のせいか先程の強さを帯びた怖さもなく逆に恥ずかしがる姿が可愛く見えた。

「似合ってんじゃん!さっ、席について」

「この料理は…?」

「良かったら食べて?正一のために作ったの。私も明日は休日で仕事ないし、今日くらいオールしてもいけるからゆっくり話そ!」こんなに喜んでくれると思わず嬉しかった。正一は目を丸くしてゆっくりと膝をついた。

「ありがとう、市。」土下座をして感謝をする正一を私はどうしたらいいのだろう?でも、恐竜が土下座してる様で笑えてくる。

「顔上げて?さぁさぁ食べるよ!」初めて正一に触れた。ゴツゴツした体に浮き出た骨が手に当たり早くしなくてはと思ってしまう。

「頂きます。」私も夜食代わりで食べることにしたため二人で手を合わせる。いつも通りだが静かな時間だ。

「母さん…」静けさを遮り正一は涙をこぼした。

「正一?大丈夫?」

「この様な温かく甘い飯は久々だ。母の味によく似ている。ありがとう、」正一は今までどの様な事を経験したのだろう?私には想像すらできない。

「おかわりは何回でもして。私、一人暮らしで食材余ってるから」正一はずっと動いていた手を止めて私を見る。

「何?」

「贅沢なものだ。」

「だよね、今の時代食料破棄で問題になるくらいだもん…何かごめん、昔の人に申し訳ないや」

「うむ、でも現代人が飢餓に苦しまないのは良いことだ。」

「…それはどうだろ」

「どういう事だ?」礼儀が良く姿勢が見本のように綺麗な正一の姿勢が前のめりになる。

「私ね、正一だから言うけど虐待っ子でさ、親からあんまりご飯貰えなかったの、家にいる時は蹴られ殴られで結局親は育児放棄で捕まった。その後は、色んな人の所点々としてきたの。それに私だけじゃない、日本には少ないけど、まだ、紛争してる国とかでは飲む水が無かったり…してる。」

「何と…」かける言葉がない様子で正一は目を泳がせる。

「でも、今日正一が居てくれて良かった。私もこうやって夕食を誰かと食べれるんだって思うと嬉しいよ!」笑顔の私を正一はホッとしたように見つめた。

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