え…

◆◆◆ (side???)


 あの不思議なことは最近は起こっていない。


 そりゃね、普通自分の意思と関係なく体が動くなんてあり得ないんだから。


 二重人格じゃあるまいし…


 私は今家のポストをガサガソと漁っている。(決して盗みを働いているわけではないからね!?)


 目当ての封筒を見つけるためだ。


 私は中学生の頃からVtuberなどの配信者という職業に憧れていた。


 画面越しに見る配信者達、特にVtuberはいつもキラキラしていて、私の寂しさを紛らしてくれた。


 だから私もこんなふうに誰かの気持ちを明るくさせることができるVtuberになりたい、と思ったのだ。


 お母さんは別に反対することもなく、「なりたいんなら目指せば?」といった態度で応援はしてないと思うけど反対することもなかった。


 もちろん私は素人でVtuberを目指す上での武器なんか何も持っていなかった。


 だからオーディションに応募しても突出したものがない人間をVtuberにしようと考える事務所はなく、不合格が続いていた。


 でも武器が必要だと分かってからは武器を作るために努力してきた。


 トーク力を上げて普段人と話す時に話題が尽きにくいようにしたり、歌を上手く歌えるように動画を見たりして綺麗な歌い方のコツを掴めるようにしたりという風にだ。


 しかし、結局これといった突出した武器は私には出来なかった。


 そして半ば諦めるような気持ちでこれで受からなかったら最後だと出した事務所からはじめて一次試験の合格をもらったのだ。


 今探しているのは二次試験の合否が書かれている封筒だ。


 これで合格であったら本社で面接を受けることになる。


 ドキドキしながら封筒を探していると応募した事務所からの封筒を見つけた。


 私は家に入ると自分の部屋めがけて階段を駆け上がり、部屋で封筒の中身を確認した。


 内容は…


松井まつい 朱里あかりさん


 あなたはVTOPの二次試験にて合格となりました


 面接の日程は◯月◯日となっております》


 やった!!!


 後は面接だけだ!


 私は嬉しくてたまらなかった。後は面接さえ突破すればVTOPの2期生としてデビューすることができる。


 1期生が話題となりVtuber界隈で知名度が上がってきているVTOP。


 その2期生になるチャンスがもうすぐそこにある。


 そう思うだけで興奮が止まらない。


 そんな時、私の意識は急に途切れた。




◆◆◆




 !、体が自分で動かせる…


 俺の意識が途切れてからしばらくすると、また外の様子を見ることが出来たのだが、自分で体を動かす事は出来なかった。


 そして今俺は自分の状況をなんとなく理解した。


 俺は今、あの鏡に映っていた彼女のもう一つの人格になっているのだと。


 自分の置かれている状況は分かったのだが、これから俺はどうすればいい?


 目の前に置いてある紙には何かのオーディションの二次試験を突破したと書かれている。


 VTOPって男子高校生として生きていた時に友達から聞いたことがある気がするけれど、思い出せない…


  なんでこんな大事な時に思い出せないんだよ!いっつもこうだ。


 まだ大事なことを忘れてしまうクセが残っているとは…


 そうだ!スマホがある。さっきから元々の人格、主人格の様子を見ていた時にスマホのパスワードは覚えたからロックを解除することができるはずだ。


 知らない女性のスマホの中を勝手に見ていると思うと罪悪感を感じなくもないが、VTOPに関して調べるだけだし大丈夫だろう。(開き直った)


 調べてみて確認するとこの紙に書いてあるVTOPは友達から聞いていたVトップとは別物だったということがわかった。


 友達が言っていたのは塗料のことだ。全く紛らわし…ん?


 俺はスマホの画面を見てある違和感を覚えた。


 俺が生きていたのは20●▲年だったはずだ。しかしこのスマホには20▲■年と表示されている。


 ここは俺が生きていた年より十数年先の世界だ。


 なんてこった。まさか地味に未来だとは思ってもなかった。


 だめだ頭が痛くなってきた。とりあえずもう少し考えよう。


 どうやらこの紙に書いてあるVTOPとはVtuber事務所のことのようだ。


 最近できたらしく、たった十数年とはいえ過去の人である俺が知らないの当然だろう。しかも俺はVtuberというものに詳しくない。


 ていうかそうだったら俺の存在って邪魔でしかなくないか?


 この人格の入れ替わりが起こるのは多分不定期だろう。


 例えば学校にいる時に急に俺が出てきたり、人と話している最中に俺が出てきたりするって事になるのだろう。


 マズくないか?え、だってこの紙に書いてあるオーディションってVtuberになるためのやつだよな?


 しかも後は面接だけって…


 俺って絶対消えた方がいい存在じゃねえか。


 主人格に俺の存在を伝えた方がいい気もするがそれでパニックを起こされても困る。


 何か、主人格の邪魔にならないようにする必要は…




 そうやって考えていると、俺の頭の中に1つだけ考えが浮かんだ。


 この考えを実行した時に面接でどのような影響が出るかは分からない。


 けどこれで事務所も採用するとほとんど決めているのであれば、この考えも効果が出てくるのではないか。


 それにしても自分が今もう一つの人格とはいえ女性の体を使ってるのにここまで興奮もないもしないとは思わなかった。


 まあだいぶ健全な男子高校生として生きてきたからだろう。

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