第十二話:突入
防壁上から降り注ぐ石飛礫は子供の頭ほどの大きさがあり、それが大量に地面にばら撒かれれば、破城槌を運ぶ荷車の足止めにもなる。
門前の小鬼小隊は既に殲滅され、工作兵によるバリケードの撤去が進められているが、上からの攻撃を抑えなければ門を破るのにも時間が掛かってしまう。
そして突入までの時間が長引くほど、敵軍の迎撃準備が整ってしまうのだ。パルマムに集結中の魔族軍の援軍が、いつ到着するかも分からない。
「ここは一発かましておきましょうかね」
防壁を見上げた呼葉はそう呟くと、破城槌の本体をぶら下げているアーチ部分によじ登る。
「聖女様?」
いきなり破城槌の上に登り始めた呼葉に、アガーシャ騎士団や破城槌の周りの兵士達が何事かと注目する。
天辺まで登り、大杖を腰のベルトに引っ掛けた呼葉は、荷物袋から『宝珠の魔弓』を取り出した。緑色の宝珠が込められたこの魔法の弓は、魔力で作られた矢を番えて無限に射る事が出来る。
魔力の矢は、狙いを付けた対象を自動追尾してくれるので、放てばほぼ必中するオマケつき。
防壁上にちらちら見える投擲兵を認めると、端から順に狙いを定める。
一体狙う毎に一本の魔力の矢が生成されて待機状態に入り、同時捕捉数は一般人でも三体くらいまで魔弓の性能が受け持ってくれる。
魔力の扱いに長けた者が使えば、一度に十体近くの標的を同時に攻撃する事も可能だ。魔力の矢の最大待機数は使用者の魔力次第。
そして聖女の力を宿す呼葉は、その能力故に魔力も、魔力の矢の威力も、同時に捕捉出来る数も数倍に増強される。
呼葉が構えた魔弓に、幾重にも重なって光のように輝く魔力の矢が凝縮されると――
「射貫け!」
花火が弾けるかの如く魔力の矢束が一気に放たれた。破城槌の天辺から五十本近い魔力の矢が、光の軌跡を引きながら拡散するように飛び広がって行き、防壁上の敵に次々と着弾していく。
この一撃で防壁上の敵兵が纏めて射落とされ、攻撃が止む。一瞬、戦場の喧噪も治まり、防壁を攻撃していたカーグマン援軍兵団の兵士達の皆が聖女コノハを振り向いた。
破城槌のアーチ部分からスルスルと下りて来た呼葉が、固まっている皆に指示を出す。
「ほら、早く前進して、とっとと門を破る」
「は、ハッ! 破城槌前進!」
我に返った運搬役の兵士達が押し始め、ガラゴロと車輪を鳴らしながら進み始める破城槌。
ここでも呼葉の『聖女の祝福』効果が働き、普段より数倍の速度で運ばれた破城槌は、街門前に到着すると同時に吊り下げられた槌のロープが引き絞られる。
「穿つぞ!」
「うおおおおお!」
そして、やはり数倍に増幅された運搬役の兵達の力で街門の扉に打ち付けられた。
破城槌自体も強化されている為その破壊力は凄まじく、通常なら何度も打ち付けて破る補強された分厚い街門の扉が、一撃で粉砕された。
吹き飛んだ扉の欠片が街門の後ろに控えていた魔物部隊を巻き込む。
「突入! 我に続けぇ!」
クレイウッド団長が抜剣しながら号令を掛け、アガーシャ騎士団はパルマムの街に突入した。呼葉を中心に円陣を組む様な形で街の中央通りを駆け上がって行く。
街の中にも其処彼処に細い丸太を組み合わせたバリケードがあり、矢避けの板も設置されている。魔族軍側は、街門が破られた場合に突入して来る敵兵を狙うべく、弓兵がそれらの遮蔽物に隠れる手筈になっていたのだが、肝心の弓兵は防壁上で全滅していた。
本来なら、街門が破られそうになってから防壁を下りて配置に就くという段取りになるところを、呼葉が魔弓の斉射で一掃してしまった上に、街門も一撃で粉砕されたので、魔族軍側の再配備が間に合わなかったのだ。
ほぼ無人の街門前防衛ラインを素通りし、中央広場の手前まで一気に駆け抜けた。広場の入り口には戦況を見て投入される予定だった櫓付き大鬼型の部隊が立ちはだかる。
身長六メートルはあろうかという大型の鬼人は、両肩に小鬼型が乗れる程度の櫓を背負う形で装着しており、櫓の中には短弓を装備した小鬼型が乗っている。
大鬼型は、単体でも刃を通さぬ硬い皮膚と、凄まじい腕力を振り翳して攻撃する強力な魔物だが、それに加えて両肩の櫓から射掛けられる矢も脅威である。
魔族軍では運搬作業もこなせる戦車のような役割を担っており、人類側にとって、地竜や飛龍と並ぶ厄介な相手であった。
そんな櫓付き大鬼型が四体、広場に繋がる道を塞いでいるのだ。流石にあれには迂闊に近付けないと、突撃の歩を緩めるアガーシャ騎士団。
しかし、呼葉が皆に前進を止めないよう訴える。
「ここで止まっちゃ駄目! 街中に散らばってる敵部隊に囲まれちゃうから、進んで!」
通りの真ん中で立ち往生しては挟撃を受けてしまうし、もたもたしていると投擲兵が周囲の建物に上がって、石飛礫を降らせて来るかもしれない。
この少数部隊で街中に展開している魔族軍の駐留部隊を相手取るには、速やかに中央広場の展望台施設を占拠して迎撃態勢を構築しなければならないのだ。
「し、しかし聖女様、あの大鬼型は非常に手強く――」
戦場で大鬼型と交戦した経験のある騎士団員の一人が、戦馬などに騎乗もせず、正面から戦える相手ではない事を説明しようとするも、呼葉は突撃を指示した。
「いいから気合い入れて突っ込む! 騎士様なんでしょ!」
「っ……! ええい、ままよっ! 続けぇ!」
呼葉の鼓舞を受け、クレイウッド団長が先陣を切って飛び出した。
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