エンドオブアーサー
あさひ
第1話 エクスカリバーの行方
湖畔に輝く太陽は無駄に煌めいていた。
「暑い……」
少女はそう呟くと
窓から離れる。
不意に写真立てが微笑んだ気がした
母との記念に撮ったものだ。
「すごいよねぇ」
マーリンと名乗る女性は
奇跡を目の前で体現して見せてくれる。
街によく来る不思議な占い師であり
そして母の古い知り合いらしい。
【記念に撮ったげる】
そう言いながら
箱を取り出し、水晶のような丸いガラスで
光を反射した。
「不意に撮るから変な顔してるなぁ」
母と呼ばれる人物は満面の笑みを向けている
慣れているのだろう。
遠くからカッコウが鳴く
手紙が届く合図だ。
「私に手紙かぁ……」
前にも同じことがあった
それは母からの手紙で
遠い国からの近況報告である。
「今度は何だろ?」
扉を開くと黒いカッコウが
飛び込んできた。
「黒い……」
黒いカッコウは死を知らせる
そんな役割を果たしている。
手紙を恐る恐る開くと
案の定だった。
「母さんが? 討たれた……」
疾走の麗手と言われた
ガレスの死が詳細に書かれている。
伝説と名高い七騎士が一人
ガレス・メイは裏切り行為が発覚したため
粛々に処刑なされました。
「母さんが裏切り? 義理堅いだけが取り柄の母さんが?」
後ろの写真が苦笑いする
そして口が動いたかと思うと
声が出てくる。
「ガレス! ひどい言い方だな!」
「ん?」
ガレスの娘であるリーンは
驚いて写真立てに振り返った。
「やっと気が付いたね」
「なんで写真だよね?」
「マーリンに聞いてないのか……」
母から説明が補足される
どうやらこれは写真と言う偶像ではなく
映ったものが死んだ時に写真に魂が移るという
魔道具らしい。
「なんで死んだの?」
「さあ? わからんねぇ」
「隠してるの?」
「お前が探せ」
会話になっていないが
どうやら母は自分の死の真相を探らせたい
そういう意図が感じられる。
「どこに行けばいいの?」
「マーリンを探せば良い」
「だからどこにいるの?」
「王国が近いはずだな」
この町の近くには
大きな王国が存在した。
名前はアヴァロン
不思議な伝説と母の所属していた組織がある。
「あとは私の槍剣を持っていきな」
「倉庫に眠ってるやつ?」
「ああ、名前はお前が決めろ」
「名前? 何言ってんの?」
「あと私の写真を鞄に詰めろ」
「言ってることが多すぎて……」
写真はムッとした
そして木で出来た箱を指さした。
箱を探すと
メモ書きのような羊の川が一つだけ入っている。
「えっと…… まずは倉庫の槍剣……」
メモ書き通りに
家の外にある倉庫に赴き
槍剣のある奥へと進むと
か弱い女性の声がした。
「ん? こんなとこに迷子?」
どうやら箱の中だ
メモに書かれた箱の中である。
「なんで?」
不審に思いながら
箱をゆっくり開けた。
「がれすぅ……」
「槍剣が喋った……」
「わるいことした?」
「ごめん」
「おそとでたい!」
「そうだね」
槍剣の持ちてを握ると
優しく花束のように外に出す。
「たいよう…… ひさびさぁ……」
子供のような声で
ニマァという擬音が聞こえてきそうだ。
「わたしのなまえ……」
「そうだね」
なぜか淡々と話しているリーンに
違和感を覚えた槍剣は
なんとなく聞いてみる。
「わたしのこときらい?」
「違うけど…… 子供の時にいた幽霊の声と同じだから」
「それわたしだよ」
「ん?」
槍剣は自己紹介を兼ねて
話し始めた。
「そうこにちかづくのよくない」
「だから?」
「ゆうれいごっこでたいじ」
「そっか…… ごめんね」
「わたしのなまえ」
少し悩んだリーンは
横目に煌めく湖を見て
伝承を思いだす。
「じゃあヴィちゃん」
「びぃ? うん! それがいい!」
「そうだねぇ」
「びぃいっぱいたびでる」
「お供してくれるの?」
「うん!」
可愛いねぇと
槍剣を撫でに撫でるリーンを
周りは不審な目で見てるはずだ。
人がいればの話だが
異変に気が付いたのはキスまでいった後である。
「ひとがいない」
「え? ちょうどい……」
「へんたい」
「ほんとに人いないねぇ」
ショックを言葉で塗り替えた。
「がれすおねえちゃんはへんたいさん」
「ビィが悪いんだよ?」
「びぃがわるい?」
「そうだよぉ」
その会話を聞いていた若い女性が
笑いながら歩いてくる。
「おや? リーンじゃないか?」
わざとらしい女性は
マーリンという母の同僚だ。
「久しいね」
「まーりん? なんでいる?」
「ひどいなぁ」
「マーリンおばさんは知り合いなの? ビィちゃん」
「創造者さ」
「お母さまでしたか」
そこまでかと
マーリンは訝しむと
指をパチンと鳴らす。
「のろってない」
「ん? どういう意味?」
「血筋だねぇ」
理解が及ばない話が
展開されすぎて
言葉を聞き間違えたかと考え込んだ。
数秒も経たずに
頭から煙が出てくる幻想をリーンは召喚する。
「ビィ? その槍剣はねぇ」
「ふれたひとにだいじにされる」
「呪いを持ったものに付与するものでねぇ」
呪いではなく
昔の約束でデレデレなのだ。
【ゆうれいさんはなんでリーンを大事にするの?】
【だいじなともだち】
【それだけ?】
【あたりまえ】
ガレスの幼少期を支えた幽霊が
武器とは知れずに心を馳せていた。
「呪い抜きでおばあちゃんをねぇ」
「そうなの?」
「きおくない」
「いやそうじゃない」
「何が?」
「湖の伝承にいるだろう? 湖の乙女ってやつ」
「それが?」
「それなの」
槍剣を指さし
困った表情をする。
「じゃあビィでよかったねぇ」
「うん! びぃ! おきにいり!」
失笑しているマーリンは
用事を思い出したのか
鞄から水晶を取り出した。
「これを見てくれ」
水晶を覗き込む
リーンは世界の現状を知ることになる。
聖剣を振るう少し老けた白い髪の男性
二つに分かれた双剣で人を八つ裂きにする仮面の騎士
ニタニタ笑いながら槍を振るう男装の麗人
その他にも黒い帽子の魔術師などが映っていた。
「これは劇?」
「どう見ても惨劇だよね」
「わるいやつ ゆるさない」
水晶を見せ終わると
家の中へと入っていいかジェスチャーされる。
「お茶しか出せないですけど……」
夕暮れが指す頃だ
旅支度が終わり家を出ることになった。
「この家は放置しておくのか?」
「多分、子供たちの溜まり場になると思う」
「そうか……」
槍剣のビィは眠っているのか
言葉を発しない。
「そういえばだがなぁ」
「なに?」
「私のことはマーリンと呼ぶなよ」
「なんで?」
「お前のお姉さんでリンという名前だ」
「だからなんで?」
「お前が水晶で見たのはお前の母の古巣だ」
「は?」
おわり
エンドオブアーサー あさひ @osakabehime
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