サイダーメトロノーム

シノ谷

サイダーメトロノーム

うだるような暑さ


ジリジリと照り付ける日差し


今日も彼は容赦なく私に視線を飛ばす


体中の水分を出し尽くす勢いで汗が噴き出すが、一向に体温が下がる気配はない


やっとの思いで玄関を抜けて冷蔵庫に辿り着くとそこには一本のサイダーが冷やされている


お気に入りのグラスに氷を入れて主役のサイダーを注ぐ


蝉の鳴き声は暑さを演出するのに、なぜ炭酸が弾ける音はこれほどまでに暑さを忘れさせてくれるのだろう


私にとっては「ミンミン」ではなく「シュワシュワ」が夏にふさわしいオノマトペだ


満を持してグラスを口に運ぶ


一口含んだ瞬間、この透明な液体が私を労う


口内に広がる爽やかな刺激、適度な甘さ、喉を抜ける涼感


暑さに支配された思考が嘘だったかのように私の思考はグラスで踊る君に支配される


二口、三口と続けるうちにグラスに水滴が浮かび始める


手やテーブルが濡れないように水滴を拭き取る


自分の汗よりグラスの汗のほうが気になりだした頃には、私は先程までの太陽からの熱烈なアピールなど頭の片隅にすらないのだ


そうして日が落ち、グラスの氷も粒になる


夜が明け、日が昇れば私はまたあの灼熱に挑まねばならない


そしてまたサイダーの労いの言葉を聞く


繰り返される日々


外に出ることすら億劫になるこの季節


でも私はあの一杯のためならばいくらでも繰り返してやろうと思えるのだ


私は今日も繰り返す


サイダーの炭酸が抜けるまで

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイダーメトロノーム シノ谷 @Sino_831

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ