ダンジョンライブ・RTA〜脳筋系美女配信者を助けたらバズったらしいので、一緒に最速攻略目指します〜

ネリムZ

第1話 sideレイ『パワーだけじゃ解決しない問題』

 「みなさーん! こんにちは! 脳筋エンチャンター:レインボームーンの攻略配信始まるよー!」


 “待ってました!”

 “【¥500】今日も可愛い!!”

 “最高の可愛さ!”

 “今日はどんなダンジョンなの?”


 “楽しみ”

 “頑張って〜”

 “何とか時間作れたから来たよ〜”

 “初見です。応援してます”


 “こんにちは”

 “やっと来ましたか!”

 “今日はどこまで行くの?”

 “ファイト〜”


 「500円ありがとうございます〜可愛いって言ってくれて嬉しいでーす」


 ライブを始まれば私を目的に沢山の人が集まってくれる。


 その数は既に2000人近くいる。


 中にはスパチャもしてくれる人もいる。


 観てくれている人全員に楽しんで貰えるように、今日も私はライブする。


 「今日はコボルトが蔓延るダンジョンにやって来ました! 剣は3本用意しています! ボス攻略いけるかなぁ?」


 “レイちゃんなら行ける! 絶対行ける!”

 “余裕だと思います”

 “気をつけてね”

 “やったりましょう!”


 剣を片手に、カメラを反対の手に持って先へと進む。


 神が創り出したこのダンジョンには宝などがどこかに転がっている。


 それらも回収してお金を稼ぎたい。


 「おっと。早速遭遇です!」


 内側から外側に変える。凶悪な顔と錆びた剣を持ったコボルトが映った。


 “現れた!”

 “【¥1000】絶対勝てるよ! 頑張って!”

 “節約だよ、節約!”

 “コボルトはそこまで強くないからね!”


 “レイちゃんなら簡単だよ!”

 “手加減しないとね!”

 “無視でも良いのでは?”

 “よゆーよゆー”


 おっとこの音は。


 「1000円ありがとうございます!」


 私は切っ先をコボルトに向け、カメラを地面に固定する。


 準備が終わったら懐からエンチャントアイテムである紙を取り出す。


 自作のエンチャントアイテムを3枚、剣で斬る。


 「【強化付与ブーストエンチャント】『火力上昇ダメージアップ』【重複付与ウエイトエンチャント】」


 私の実力では同時にエンチャントを使えないので、アイテムを経由させる必要がある。


 三重に重ねたエンチャントで強化した剣を構え、コボルトに接近する。


 同時に私自身にもエンチャントを掛ける。


 「【強化付与】『筋力上昇パワーアップ』」


 自分の腕力を強化して、振る力を上げる。


 “自分も強化したか!”

 “手加減しようぜ”

 “手加減なんて言葉、彼女の辞書には無い”

 “これぞ脳筋”


 “大丈夫かなぁ?”

 “ズドーン!”

 “またか”

 “ボス戦まで持たないに1票”


 私の攻撃を察知したコボルトは錆びた剣で防御する。


 しかし、エンチャントを掛けた攻撃にはあまりにも無意味な防御。焼け石に水だ。


 剣を破壊し、コボルトを真っ二つに斬り裂いた。


 豆腐を斬るレベルで簡単に斬れる。


 ただ、その影響で力が衰えずに地面に向かって行く。


 「あっ」


 スピードのある物は簡単には止まらない。私の振るった剣も同様だ。


 地面に衝突し、小さめのクレーターをドンッと作りながら剣は砕けた。


 「あはは。初っ端から1本ダメになりました」


 “だから言ったのに!”

 “あれほど手加減しろと⋯⋯”

 “照れてる顔も最高! 可愛い!”

 “相変わらずで”


 “3重なら地面に衝突してなければ剣は無事だったのか?”

 “6重までなら耐えらるはずなのに! 地面に当たらなければ”

 “コボルト、レイちゃんのためにもっと粘れよ”

 “貧弱貧弱!”


 “ゴリラ娘やな”

 “相変わらずの脳筋で”

 “そこが可愛い”

 “良い事やな”


 「も〜違いますよ〜」


 “嘘乙”

 “分かりやすい嘘は良くないぞww”

 “そうですよね。違いますよね。冗談はやめましょう”

 “またまたぁ”


 誰も信じてくれない。


 「私の計算上止まるはずだったのに」


 “どんな計算したらそうなるw”

 “計算できたら脳筋って言わないんだよなぁ”

 “何がおもろいん?”

 “面白い。草生える”


 私の計算上ではギリギリで止まるはずなのだ。


 筋力上昇のエンチャントは必要なかったか。


 節約したいので、今度はエンチャントを減らす事を頭に入れて奥へと進んだ。


 その後、数体のコボルトを倒して次の階層へと進む。


 度重なるエンチャントで許容限界を超えた剣が1本、犠牲となった。


 「この調子じゃボス戦まで持たないなぁ。次のコボルトを倒したら残念ですが、帰還します」


 “そんなぁ”

 “まだ続けてよ!”

 “まだレイちゃん観たい”

 “【¥10000】コボルト出るなぁ!”


 「わお! 1万ありがとうございます。その念が通じると⋯⋯残念なお知らせですが、出たようですね」


 身長1メートルくらいのコボルト⋯⋯ではなかった。


 「なんだこいつ」


 それは2メートルくらいの大きさをして、通常とは違う赤毛をしていた。


 “何あれ”

 “エルダーコボルト? レイちゃんの挑む難易度では出ないよな?”

 “異変が起こってるのかも。レイちゃん逃げ方が良いよ!”

 “【¥500】気づけ!”


 金色の眼光が私を睨み、雄叫びをあげる。


 500円スパチャの音が掻き消された。


 「ガオオオオオオ!」


 「うっ」


 なんてうるさいの!


 「さっさと倒してお風呂入る!」


 私はカメラを地面に置いて、最後の1本とエンチャントアイテムを取り出す。


 「行きます!」


 先制攻撃さえしてしまえば私の勝ちだ。


 どんなに防御力が硬かろうが所詮はコボルト。エンチャントを重ねてしまえば余裕で倒せる。


 「【強化付与】『速度上昇スピードアップ』」


 普段の私なら50メートル走7秒台だが、このエンチャントを掛ければ4秒台に縮める事が可能になる。


 最速で距離を潰して背後に回る。


 「最短で倒すっ!」


 エンチャントアイテムを斬り裂いて効果を発動させる。


 今回は4重だ。


 何かおかしいな奴には、何かをされる前に倒す。


 「【強化付与】『筋力上昇』」


 “びっくりしたし心配したけど⋯⋯余裕そう?”

 “この程度なら問題ないのか”

 “レイちゃんって普通に強いのね”

 “なんで無所属なんだろう”


 両手で握り、相手を真っ二つにする力で振り下ろした。


 しかし、私の刃は空を斬って地面を砕いた。


 「え」


 私の声が切れる音がした。


 地面に衝突して砕けた刃が舞、私の顔を反射した。驚愕に目を見開いた私の顔を。


 “嘘でしょ?”

 “レイちゃん後ろ!”

 “【¥500】後ろだ!”

 “躱せ!”


 「スパチャ音っ!」


 気の緩み、それが防御への判断を遅らせた。


 突如、私の身体は宙に出されて数秒後に地面を転がった。


 何が起こったのか、頭は理解できなかった。


 しかし、遅れてやって来た激痛が強制的に理解させる。


 「ああああああああ!」


 痛い。痛い痛い痛い。


 今までまともな攻撃を受けて来なかった。こんな痛みなんて知らないっ!


 いつも先制攻撃で倒してたから、まともな防具もケチって買ってない。その結果が左腕に現れた。


 「あああああああ!」


 折れていたのだ。


 たったの一撃のパンチで⋯⋯私の左腕は機能しなくなった。


 それだけじゃない。


 逆流する血を口から吐き出す。内部にもダメージがある。


 「【強化付与】『防御上昇ディフェンスアップ』」


 武器も無い。右手しか動かせない。


 逃げないと。逃げないと!


 「あ、あれ?」


 上手く、立てない?


 痛みか、恐怖か。あるいは両方か。


 私は地面を踏む事ができずにいた。


 “やばいやばい!”

 “こんな状況じゃ誰も助けられんって! 間に合わない!”

 “助けてあげてよ。誰か助けを!”

 “これって神工的迷宮だよな? 神様見逃してよ!”


 絶望する私を嘲笑うように口角を上げ、担いでいる剣を抜いた。


 煽るように、ゆっくりとゆっくりと歩み寄って来る。


 「嫌だ。来るな。来るなあああああ!」


 私が叫ば叫ぶ程、奴は笑みを深くする。


 「ひっ!」


 そこでようやく理解した。


 奴は⋯⋯私が絶望すればする程愉悦に浸れるのだと。


 そもそも剣を最初から使っていたら、私は即死だった。


 生きている時点で⋯⋯察するべきだったのかもしれない。


 あるいは、理解を拒んでいたのだろう。


 アイツは⋯⋯私で遊ぶ気だ。


 股の下を流れる生暖かい液体。それから発せられる臭い。


 それすらも⋯⋯アイツにとっては遊びの一環なのか。


 躊躇いなく、剣を振るわれる。


 “嫌ああああ”

 “まじで、ヤバいって”

 “逃げろ!”

 “オワタ”


 「⋯⋯死にたくないっ!」


 鞘だけでも威力は殺せる。


 私は軌跡が逸れる事を信じて、防いだ。


 「がはっ」


 しかし、そんなのは意味がなかった。


 通常のコボルトが私の攻撃を防げれないように、今の私ではアイツの攻撃は防げれない。


 無理に防御しようとした結果⋯⋯残った腕もへし折れ腹を浅く斬られた。


 出血量的に死にはしないだろう。⋯⋯あくまで今のところは。


 「ごほっ」


 血反吐を吐き、視界が霞む。


 ⋯⋯私は死ぬのか?


 こんな所で⋯⋯モンスターに殺されて?


 父親を見返す事すらできずに、私はダンジョンで孤独にくたばるのか?


 「嫌だなぁ」


 “ええ身体しとるな”

 “それだけやな誇れるの”

 “クソが来んな。アンチ○ね”

 “ああ。終わった。楽しみが無くなった”


 命を刈り取るのか、さらに痛みを与えるために手加減するのか、分からない一撃が目前まで迫っていた。


 深い絶望が押し寄せて来る。闇に私を引き摺り込んで来る。


 そんな時だった⋯⋯奇跡は起こったのだ。


 「あれ? このポイントは必須戦闘じゃなかったはずだけど」


 男の人の声だった。


 “ふぇ?”

 “誰?”

 “助けてあげて!”

 “今だ逃げろ!”


 痛む身体に鞭を打ち、ゆっくりとだがその人の方を向く。


 「⋯⋯ぁ」


 助けを求める声も⋯⋯出すのが辛かった。

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