仮想民話百物語

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蛙の宿(かわずのやど)

皆様方は「7つの子」なんて、ご存知でしょうか?

まぁ、有名なもんで、知らないヤツの方が少ないでしょう。バカにすんな、という声が聞こえてきそうなもんです。

私の実家の辺りじゃね、皆、知らないんですよ、「7つの子」。知らないって言うと語弊がありますが、主役は烏じゃないんですね、ええ。私らの方じゃ、皆、「蛙の子」っての歌ってるんですわ。

昔からの伝承ってのはどの地域にもあるもんで、それに影響されて、馴染の歌や風習が歪んで子供たちに伝わってたりするんですわな。

勿論例に漏れず、「蛙の子」なんて歪んじまったのも、一重に私らの方の伝承のせいなんですわ。

その伝承は、こんな内容なんですがね―。


蛙鳴くなら、家路を辿れ。

背に目を向けるな、蛙が来るぞ。

雨が降ったら、すぐさま急げ。

蛙のお宿は、大繁盛。


爺様に、良く聞かされておったのを覚えておりますわ。…意味は良く分かりませんでしたが。

しかし、蛙といえば、昔、こんな事があったんですわ。

アレは今から、何年前だったか。


私が小学校か、中学校か…そのくらいの時分だったと記憶しとります。


その位になると、伝承なんざクソ喰らえ!なんて具合でして、周りの子も私を含め、誰も信じておりませんでした。蛙がどうしたと、むんずと捕まえてあるいとったものも、良くおりました。


その日は、朝から雨が降っとりまして、あまりに降るもんですから、周りの音もかき消されるくらいで。

1日退屈な授業を終えて、外に出ても、まだ雨は止まなくてですね。あまりに強いもんだから、傘も意味をなさないわけだ!仕方なく、皆、雨宿りしてたんですな。

皆、諦めて走って帰っていくうちに、とうとう私と、友達のケンちゃんの2人きりになってしまいやした。


「雨、収まらんねぇ…。」


ケンちゃんは空を見上げながらポツリと呟きやした。私もつられて空を見上げたんですが、そこには厚い灰色の雲が一杯に敷き詰められてるだけで、お天道様が顔を覗かせる気配は微塵もございませんでした。


そんな折、不意にカエルの鳴き声が聞こえてきたんです。


雨音を無視して、響くように鳴いたその声は、なんとも不気味でして。

ケンちゃんに聞こえたか聞いてみるものの

「知らん、気のせいやないけ?」とだけ返されてしまいまして。その言葉を鵜呑みにしようとしたところで、気づいてしまったんですね。


ケンちゃんの身体が、小刻みに震えていることを。


きっと、ケンちゃんにも聞こえていたのだろう。

そう直感いたしやした。


「ゲコッ」


今度は耳元でハッキリと聞こえました。

身の毛が総毛立つのを感じると同時に、私の身体は弾けだすように走り出しました。


一目散に、身体が濡れるのも構わず、傘を投げ出したことも忘れて、家を目指しました。


家につくと私は、安堵のため息を漏らしました。

と、同時に、ケンちゃんを置いてきてしまったことを後悔しました。大丈夫、大したことじゃない。きっと、明日、何食わぬ顔で、いつも通り会えるに決まってる―。

あんな蛙の鳴き声は、きっとケンちゃんの言う通り気のせいだったのだ―。


その日は自分に、そう言い聞かせつづけました。



次の日のことですわ。


前日の雨が嘘みたいに晴れ上がりましてね。正直、伝承を恐れて帰った臆病者呼ばわりされるのが、物凄く嫌で。学校なんぞ行きたくなかったんですが、それこそ、好き放題何を言われるか分かったもんじゃないってもんで、学生らしく学校に向かったんですね。


まぁ、勿論、なんのことはなくてですね。

ケンちゃん、普通に学校に来てたんですわ。

やっぱり、からかわれましてね。

イヤな気持ちになりましたが、安心しましたよ。


オチもなにもない、こんな話で申し訳有りません。


ただ、1つだけ、最近気になることがありまして!ね。


この間、ケンちゃん、亡くなったんですわ。

なんてことない、老衰なんですが。


告別式の時、別れの挨拶をするじゃございませんか。

その時、ケンちゃんの顔を覗き込んだんですがね。


口の中に、蛙が数匹見えたんですわ。


そういえば、あの日も確か、雨が降っとりました。


蛙も、雨宿りするんですかね。

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