第40話 魔銃士、初めてのダンジョン踏破に挑む・4
俺たちがハミルに手間取っていた間にも、スライムは上から降ってきていた。ルチアたちはそれらを俺たちに近づけまいと戦っていた。
――ルチア、大丈夫か?
――大丈夫だよ、これくらい。
頼もしい相棒の返事に安堵しつつ、俺はショートソードを向かってきたスライムに向けて突き出す。それは的確に
「こやつらが広がった瞬間が狙い目じゃ、その隙に
スライムは得物を取り込もうと一旦、大きくその身を広げる。その時に弱点である
「甘いわ!」
素早さに長けるアガサがヒットアンドウェイで次々にスライムを撃破していく。俺も無限湧きしてくる奴らに苛つきつつも、ヴィゴさんのアドバイス通り奴らが広がった瞬間を狙いショートソードを突き込む。
『皆の者、後ろにさがれ。一気に片付ける』
全員がルチアの後ろに隠れる。ルチアも無限に湧くスライムに我慢がならなくなってきたらしく、口を大きく開けると通路全体に灼熱の炎を吐き出した。無詠唱の
『ふむ、厄介な物は消えたようだな。もうスライムは湧いてこぬ』
なんか野獣の悲鳴のようなものが聞こえた気がする。ルチアの台詞から察するに、スライムを無限湧きさせていたものまで蒸発させたのかな? アガサはそれを聞いてスライムのドロップアイテムを回収し出す。銅貨と銀貨が主なドロップ品だが、たまに溶かしきれなかった冒険者の短剣や兜なんかが転がっている。
「ハミル……ハミル」
まだエドはハミルが消えた辺りに目をやって、ぶつぶつ呟いている。彼は暫く使いものにならないな。
「おいテメェいつまで呆けてやがんだよ、ここはダンジョンだぞ? 気ぃ抜いてっと次に死ぬのはテメェだぞ?」
「ハミルはおれにとって大切な幼馴染みで相棒なんだぞ! いきなりあんなことになって取り乱さない方がおかしいだろう!」
「うるせぇ。冒険者やってりゃメンバーが命を落とすことくらいあるだろうが。いちいち喚き散らしてたら冒険者なんか出来ねーぞ、そんなヤワなメンタルなら今すぐ離脱しやがれ!」
リーダー二人が言い争っている中、アイテムを拾っていたアガサが焦った声を出した。
「ねぇカミラは!? カミラの姿が見えないんだけど、あの子戦闘に参加していた?」
言われて思い返せば、スライムにハミルが取り込まれ場がパニック状態になってから一度もカミラの姿を見ていない。言い争っていた二人も一気に冷静になり、周囲を見回す。
「そういやカミラは何処行った? 俺は知らねーぞ」
「オレも見ていない。師匠はどうだ? 彼女と一緒じゃなかったか?」
「いや生憎ワシも見ておらん。お前さんたちと一緒にいるもんだとばかり」
獅子王の瞳メンバーに焦りの色が浮かぶ。誰もカミラの姿を見ていない。ハミルが取り込まれ、もしかしたら緊急脱出したのかもしれない。
『いや
ルチアの魔法感知がそう告げるなら間違いない。もし亡くなったなら、ルチアなら隠すことなく告げる。カミラはどこかに隠れたのか、それとも――。
「チッ、俺らが戦っている間にダンジョンマスターが何かしやがったのか?
「フェンリル様、カミラは生きていますよね?」
『魔力は消えてはおらん。ただ明確にどこにいる、とまでは我の探知を以てでも探れぬ』
塩対応していたアガサだったが、さすがに元仲間の動向は気になるらしく顔色が悪い。銀の翼、獅子王の瞳それぞれにメンバーがひとり欠けた。まだ第一階層にもかかわらず、前衛と回復役が消えてしまった。
「本当にここのダンジョンマスターは性格が悪いの。じわじわとワシらを嬲るようにしておるわい」
「どうする師匠。カミラを探すか、それとも彼女を諦めて進むか」
「そうじゃな」
ヴィゴさんは腕を組んで思案したが、すぐにきっぱりと言い放った。
「生きているならば運が良ければ会えるじゃろう。ワシらのクエストはこのダンジョン踏破じゃ」
「んじゃさっさとダンジョンマスターを斃して、カミラの捜索はその後にするか」
マティアスの言葉に皆も頷いた。覇気のないエドもアガサに肩を叩かれ、ようやく息を吐き賛同する。スライムが出なくなった階層を更に進んでいく。今度は上も警戒しながら、全員が適度な距離を取りつつも声を掛け合って存在を確認し合っている。
回復は俺の役目になりそうだな。各々回復アイテムは持っているだろうけれど、数は限られている。気が抜けないな、まぁ望むところだけどな。
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