第28話 魔銃士、領主の暗殺未遂事件に巻き込まれる・8

 できるだけマナを節約しつつ魔銃からカマイタチを放つも、そろそろ限界というものがくる。この世界に来てまだ三ヶ月弱、体内にマナは充満し血肉となって循環しているけれど世界にとっては異物だ。弾こうとする自浄作用が働くのか魔銃から魔法を放つたびに疲労感が増えていく。俺は魔銃をホルスターにしまうとククリナイフを背中のナイフケースから取り出し、近接戦闘へ切り替える。各個撃破になるがマナが枯渇するよりはマシ。近接戦闘でマナの回復を図りつつ、近寄るネズミを蹴飛ばしたり首を狩ったり。


「面倒くせーな、まったく!」


 おっと苛立ちが隠せなかった、プロ失格だな。前の世界ではこんなチマチマと殺していなかったからなー、ロケットランチャーでもぶっ放したいぜ。もしくはAK-47アサルトライフルだな。短連射モードにして一斉掃射したい。あーストレス溜まる。アガサの方も疲労からか苛立ちが感じられる。無限に湧いてくるのがほんっとムカつく。エドたちはどうしているんだと視線を送ると、予想外に素早い大ネズミに二人がかりで攻撃している。ルチアも俺が近接戦闘に切り替えたのを見て、エドたちの様子を教えてくれる。


 猛毒付きの前歯で噛み付いてくると見せかけて身体を半回転させ、長い尻尾で攻撃してくる。ハミルはそれを読んでいたらしく高くジャンプすると空中で一回転し、鋭い蹴りを大ネズミの右目に繰り出した。片目を潰された大ネズミは怒り狂ってハミルに攻撃を集中させる。だが死角からエドがブロードソードに付与魔法エンチャント・マジックで炎を纏わせ、残った目に突き立て焼き潰した。


「視覚を潰したし、そろそろトドメといくかエド!」

「そうだな、ソーやアガサにばかり負担かけてるからな」


 ハミルが喉の急所を目がけて拳を叩きつける。エドは炎が吹き上がるブロードソードを心臓に突き立て、そのまま絶命するまで燃やし尽くす。もちろん暴れて抵抗する大ネズミ。横っ面を蹴り飛ばしたハミルの一撃が頸椎をへし折ったらしく、聞き慣れた音が地下に響き渡る。断末魔の叫びと共に大ネズミの姿が光の粒子となって消えていく。予想はしていたが、モンスターだったか。残念ながら魔石はドロップしなかったようだ。


――おめでとうございます、冒険者ランクがDからCにアップしました。


 突如、脳内に無機質な音声が響きランクアップのお知らせが。表向きのランクがひとつ上がったようだ。ということは、この大ネズミ結構な高ランクモンスターなんだな。


「はー、やっと消えてくれた」


 アガサが心底ホッとした声を出す。俺たちを呑み込まんばかりの数がいた子ネズミたちは、大ネズミが倒れると同時に姿を消す。こっちもドロップアイテムの類いは一切なく、不思議なことにあれほど漂っていた悪臭も嘘のように消え失せた。


『お疲れさま、一応この地下道全体に浄化魔法をかけておくね』


 柴犬サイズのままでも内包する魔力量は桁違い。一瞬だけ白色の光に包まれたルチアは浄化魔法を源泉にもかけると、水が元の美しい状態へと変化する。


「クリアの証拠として、水を汲んでおくよ」


 エドが革袋一杯に源泉の水を汲み、ハミルが俺とアガサに労いの言葉をかけてくれる。今回ルチアは完全に傍観していたけれど、俺を一人前の魔銃士ガンナーとして成長させたかったらしい。体内に宿る少ないマナを効率よく駆使して敵を倒す。それをできるだけランクの低い魔物を相手にしている間に体得して欲しくて、魔力供給を控えていたんだとよ。戦っている最中に念話でそう送ってきたら、奮起しないとな。可愛い相棒に頼りっぱなしってのも情けない話だし。


 俺たちは冒険者ギルドに戻ると、クエスト完了の報告をする。報酬を受け取ってから、定宿へ向かう。俺はもっとマナを体内にため込んで循環するすべを身につけないと。


「ステータス、オープン」


 何か変化はないかと確認してみるも、変化無し。ま、元々はSランクなんだから表向きのランクが変化しただけで、ステータス自体は変わらないか。いや、近接戦闘をしたことで筋力と敏捷性の数値が若干アップしてる。微々たるもんだけど。


「ルチア、マナの量を増やすにはどうしたらいいんだ?」

『増やすというより効率よく身体中に巡らせるなら、毎日の瞑想がオススメだよ。心を無にして、マナが細胞の一つ一つにまで浸透するイメージでゆっくりと呼吸を繰り返す。これを繰り返していれば、現地人に匹敵するくらいの魔力をいずれ得られるから』

「そっか。そうなるとルチアも俺に供給する魔力が減って負担が減るな」


 ルチアの魔力が封じられたとしても、俺のマナ含有量が増えていれば一人で戦うことも出来る。どうせ夜は眠ることもなく暇なんだから、瞑想をする時間に充てよう。うん、そうしよう。

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