第27話 魔銃士、領主の暗殺未遂事件に巻き込まれる・7

 俺たちを威嚇するように声をあげ、睨みつけているネズミの群れ。その数は百をくだらない。うへぇ、数の暴力って奴だ。アガサなんか可哀想に顔を引きつらせて鞭を握りしめている。二足で立ちあがったネズミたちは一メートルほどだが密集されると壮観。その奥に縦にも横にもデカいネズミが赤い瞳を光らせて、尖った歯を見せてせせら笑ってやがる。それなりに知能があるようで、子ネズミ(?)どもは俺たちを取り囲むように広がりながら襲いかかってきた。


「ソーとアガサは、このネズミの群れを頼む。おれとハミルトンは大ネズミを倒す」

「判ったわ」

「ん、了解」


 エドの指示は的確だと思う。ナイフや鞭を主武器とするアガサでは、あの大ネズミに大したダメージを与えられないだろう。俺は広範囲魔法を展開できるし、いざとなったらルチアの助力もある。あの大ネズミには打撃が有効か魔法が有効か未知数。どちらも出来るエドと打撃専門のハミルが相手をするのが筋ってもんだ。


 この地下水は生活用水でもあるから毒を撒くことは出来ない。よって闇魔法は排除。炎も威力を間違えれば蒸発させてしまうから駄目。だったら風魔法で切り刻むか。遺骸は土魔法で埋めて肥やしにしてやる。そうと決まれば実行あるのみ。シリンダーを緑に合わせ、広範囲にカマイタチを浴びせるイメージを脳内に描く。おっと、その前に。


――ルチア、アガサに保護結界を頼む。それとエドたちにも物理防御と魔法防御の強化魔法を。

――任せて。


 アガサに怪我をさせるわけにいかないから、万が一を考えてルチアにお願いしておく。大ネズミの攻撃がどんなものか判らないから、彼らにもバフをかけておく。カミラが抜けた穴は俺とルチアで埋めるべく、補助魔法を発動させる。


「ソー、あたしは左側を担当するわ」

「んじゃ中央と右は任せておけ。取り敢えずエドたちが進む道は開けておくかな」


 まずはエドたちが最短距離で大ネズミに向かえるよう、中央を狙って最大出力のカマイタチを放つ。汚ぇ血飛沫と肉片を撒き散らして、子ネズミたちが物言わぬ肉片へと変わっていく。


「エド、ハミル! 突っ切れ!」

「助かるよソー!」


 二人は俺が開いた道を駆け抜け、大ネズミの元へ急ぐ。まずは俊敏さに定評がある格闘家のハミルことハミルトンが、挨拶代わりの正拳突きを叩き込む。効いたらしく大ネズミは咆哮を上げると、齧歯類らしく伸びた歯で攻撃してくる。


『ハミルトンとやら忠告しておく。その前歯には猛毒が含まれておる。かすり傷だけでも致命傷だ』

「あ、ありがとうございますフェンリル様!」

『そいつは炎も氷も有効だ。毒で殺すのが手っ取り早いが、遺体が地下水に触れると水が汚染される。できるだけ源泉から離れてとどめを刺すが良い』

「はい、フェンリル様」


 俺以外に直接コンタクトを取ったことのないルチアが警告を出す。主人マスター以外の人間と言葉を交わすなんて滅多にないが、ルチアは俺の仲間と認識しているせいか前衛二人に注意を促したのか。


『ソー、あっちの二人が大ネズミを倒せばこの有象無象どもも消滅するから、マナの消費量に気をつけながら魔銃を扱ってね』


 ルチアからの魔力供給が毎度受けられるとは限らないんだよな。トラップによって離ればなれになる可能性だってこの先は否定できないし。俺もマナをコントロールしつつ魔銃士ガンナーとして一人前にならないと。


「判ったよルチア。マナ切れを起こさないよう注意しつつネズミ退治するよ」


 広範囲だが確実に絶命させるため、心臓を切り裂くイメージを。集中してトリガーを引く。断末魔の叫びがあがりネズミたちが倒れていく。俺の方が受け持つ範囲が広いが心臓を一撃で切り裂ける。アガサの方は一撃で致命傷の攻撃を出せないので、早く彼女のサポートに回らないと。……なんて思っていた瞬間が俺にもありました。アガサの持ってる鞭、スゲーです。よくよく見ると深紅の鞭だし、それで打たれると瞬時に炎に包まれて骨も残さず燃やし尽くされている。


「この鞭は別の大陸を荒らし回っていたレッドドラゴンが討伐された際に、剥がされた鱗で製作された世界に七本しかない貴重な物なの。あたしの師匠が独り立ちのお祝いにってくれたのよ」


 笑顔で鞭を振り回すアガサ。彼女に攻撃を仕掛けようとするネズミがことごとく燃やされる際、心なしか恍惚な表情をしているのは気のせいだろうか。何にせよ俺とアガサは無限湧きしてくる子ネズミたちを追い払う。早く親玉を倒してくれよエド、ハミル。

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