第12話 魔銃士、村長と対面する

 いきなり現れた、真っ白な神獣フェンリル。俺と会話しているときは普通の青年っぽい声音だが、今は重々しい声音で威厳が半端ない。口調まで変わってて誰だよオイ、っていう状況だ。駆け出し冒険者たち四人は勿論、ダンカンも櫓にいる見張りも動けなくなったのが判る。


『我はお前たちが、フェンリルが守護する森と呼ぶ森で生まれたフェンリルだ。母が魔獣との戦いで息絶え、我はそこにいるソーと主従契約を結んだ。彼は東方からの冒険者ではない。異世界より転移した者だ。証拠は彼が持っている』


 念話で魔銃を見せてと言われ、俺はジャケットをめくり腰に挟んでいた魔銃をダンカンに見せる。


「こ、これは! ……伝承は本当だったのか。異世界渡りをする者のみが扱える魔銃。本当にあったなんて」

「おいおいアンタ、東方からの冒険者じゃなかったのかよ」

「俺はひと言も、自分から東方から来たとは言っていないが?」

「あ……確かに」


 駆け出し冒険者内のひとりが俺に疑問をぶつけ、別のひとりが今までの言動を振り返って納得の声をあげた。女子たちは互いに抱き合って、ルチアの圧に失禁寸前だな。櫓にいた見張りが村の奥へ走って行くのを目の端に捉えつつ、俺はルチアに寄り添い彼の言葉に嘘がない証拠をみせつける。


『我はソーと契約を結んだので、あの森を出て自由を得た。今後は森に魔族が跋扈するかもしれないが、お前たちで何とかしろ』

「そ、そんなフェンリル様! 今まであなたさまがいらしてくれたので我々は平和に暮らせました。こんな小さな村、襲われたらひとたまりもありません!」

『あの森は二百年前に我の両親が番となり、住みだした。勝手に崇めだしたのは人間そちらだろう。フェンリルの子は巣立ちをする。親が死ねばそこに守護などない』

「諦めよダンカン。フェンリル様の仰るとおりじゃ。我々は甘えすぎていた」


 しわがれた声がダンカンというオッサンを諫める。年の頃は七十代といったところか。総白髪にこれまた白い豊かな顎髭をたくわえた品のある老人が、杖を突きつつこっちにやってきた。傍らには二十代前半と思しき人物が。そいつは櫓にいた見張りかもしれない。


「しかし村長、村に残っている冒険者は引退した元Aランク三名と現役はCランク二名と駆け出しの四人のみ。これでは人狼ワーウルフ人虎ワータイガーの群れが住み着いたら、応援が到着するまでに村は壊滅します」

「そうならんよう、今すぐよその土地にいる者たちを呼び戻し訓練を施さねばならん。お前たちも早くランクを上げて、村を護れるようになるのじゃ」


 村長はルチアを見て腰を抜かしている四人組を一瞥すると、厳しい言葉を投げつけた。なんだか面倒ごとに巻き込まれそうな予感がするので、俺は先手を打つ。


「言っておくが、俺はこの村にある冒険者ギルドで冒険者プレートを作ったら村を出るぞ。たまたま立ち寄っただけの村だからな」

「フェンリル様と契約した、異世界渡りの方ですな。フェンリル様の主人マスターである貴方がそう仰るなら、我々に貴方を引き留めるすべはございません。ダンカン、リストもよいな」

「……はい」


 ダンカンは不承不承といった態で返事をし、リストと呼ばれた若者は無言で頷いた。


「では、冒険者ギルドへご案内いたしましょう。今の時間帯なら人も少なく、手続きに時間はさほどかかりますまい。リスト、案内して差し上げよ」

「畏まりました。では、どうぞこちらへ」


 白皙の美青年風な面相からは、想像も出来ないほどの低音ボイス。下手すると俺よりも低いな。でも低音にありがちな籠もった感じは一切なく、とても聞き取りやすくて好感が持てる。褐色の肌に短く刈り込んだ紫髪と翡翠の瞳が印象的な偉丈夫という印象。ゆったりとした服を纏っているから、暗器使いかもしれない。隠しきれない強者のオーラが、彼がただ者でないことを告げている。


 そんなリストと並んで俺は、村の奥にあるという冒険者ギルドへ向かう。勿論、ルチアも一緒だ。村人たちはルチアの姿に畏怖と尊敬の眼差しを送りつつ、伏し拝む者が続出した。


――ボク、まだ成体になったばかりなのに困るよ……ソー、どうしよう?

――取り敢えずフェンリルの威厳を保つために、堂々としておけ。



 中身はまだまだ幼生なルチアは念話で泣き言をもらす。図体だけはでかいが、まだ成体になって二ヶ月なんだ。精神が成長するにはまだまだ時間がかかりそうだな。甘えん坊で可愛いからいいんだが。

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