コズミック!

貴船弘海

灰色をさまようもの

海岸に、青い光が

 夜。

 どこからか、おだやかな波音が聞こえてくる。


 月明かりを反射して、キラキラと揺れる海。

 ずっと向こうまで続く砂浜。

 その上を、数人の男女グループが楽しそうに歩いている。


 場所は――おそらくうぐいすみさき海岸。


 波打ち際に沿って、彼らはゆっくりと歩いている。

 全員が、笑顔。

 夜の散歩を、ぞんぶんに楽しんでいた。


 その時、海の向こうに、一つの点が浮かび上がる。

 とてもとても小さな光。


 それは最初、かすかに見える程度だった。

 だがわずか数秒で、どんどん大きくなってくる。

 水平線に沿うように飛び、色も白からブルーに変化した。


 光の中心に、何か青いカタマリのようなものが見える。

 それを追うようにして、虹色のシッポが続いた。


 彗星?

 流れ星?


 砂浜を歩く彼ら全員が、その場に立ち止まる。

 夢でも見るかのように、ボンヤリとその光を見上げた。


 気がつくと、鶯岬海岸全体が真っ青な輝きに包まれている。

 あたり一面、神秘的な海底の色に染まっていた。


 だがその青い輝きは、わずか数秒で終わる。

 まるで線香花火が燃えつきるように。

 とてもはかなく。

 真っ暗な夜を取り戻した海岸に、波音だけがひびいていた。

 

「ねぇ! 今の、何? なんかすごくない?」


「すごい、すごい! めっちゃすごかった! 何、あれ?」


「彗星かなぁ? 尻尾が見えたけど」


「いや、隕石じゃね? 一瞬だったから、あんまよく見えなかった」


「どこに消えたの? 途中で燃えつきちゃった?」


「あっちだな。あの山のあたり。鶯岬小学校の方」


「めっちゃキレイだったよね! ステキ! ねぇ、今の、誰かスマホで撮ってない?」


「あ、おれ、撮ってたけど?」


「うぉ! すげぇな、山田! ちょっと見せてくれよ!」


「山田くん、ナイス! 今日の優勝、マジできみ!」


 砂浜にいた全員が、笑顔でこちらに近づいてくる。

 みんなが画面を取り囲んだところで――その動画は終わった。

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