第22話 特訓




僕はエナドリの力を借りて特訓を始めた。


僕は今から見るであろう景色から少し離れた場所に移動し、そこで目の力を発動させた。


心做しか周りがいつもよりもくっきりと見えるような気がする。


しかも、変に体がポカポカしている為寒さも殆ど感じない。



「こ、これ、しゅごい…………。」



あまりの効果に僕はびっくりしっぱなしだった。


今まではこの力を使っているとすぐに疲れてしまったりしていたのだが、全然疲れる様子がない。


ただ、それでも一気に見える範囲を大きくしたりすると危険な事には変わりないだろうから、とりあえずムリの無い程度の範囲をちょっとづつ見ていった。


最初のうちは少し頑張らなければ見えなかった範囲でも、特訓を続けるうちに少しづつ見えるようになって言った。


エナドリの効果もあるだろうけど、みんなが僕の為に協力してくれていたっていうことがあったからこそこんなに効率よく特訓できたのだと思う。



「…………ふぅ、疲れた。」



特訓を初めてかなりの時間が経った頃、さっきまでスッキリしていた頭が急にだる重くなった。


な、なにこれ、何だかすっごく疲れたような感じだ。


さっきまでは全然こんな感じじゃなかったのに…………。



「…………? メグ、どうしたの?」


「…………なんか、急に疲れちゃって。」


「あー、エナドリの効果が切れたんだねー。」



うぅ、やっぱり、うまい話には裏があったんだ…………。


とてつもない倦怠感が僕を襲っていた。


しかし、それと同時に特訓が大成功したことによる達成感のおかげでそれほど辛さは感じなかった。


何せこの短期間で僕は一瞬だけなら目が見える人と同じくらいの範囲を見る事が出来るようになったのだ。


僕は少し誇らしかった。


しかし、辛さは感じていないとはいえ、体は限界だったようで、元々ルカの横に座って居たからそのままルカに身を預けた。



「お疲れ様、ちょっと休もっか!」


「うん、ありがとぉー。」



僕はルカの体に抱きついた。


…………うぅ、寒い。


さっきまでは全然寒くなかったけど、エナドリの効果が切れた瞬間とてつもない寒さが僕を襲った。


体がぶるっと震える。


僕は暖かいルカの中で丸くなった。


そうしていると、僕の体にふわふわなものが被せられた。



「流石にもうそろそろ寒いよねー。」


「うん、ありがとぉー。」



疲れた体にこの暖かさは染みるなぁ。


まるで温泉に入っているみたいだ。



「ふにゅぅ…………はっ! そうだ、温泉!」



そうだ、一瞬忘れかけていたけれど、僕たちは温泉に行く為にここまで来てるのに僕はこんな快楽を享受して…………。


いけないいけない、欲に負けちゃうところだった、僕だけがこんな所で気持ちよくなってちゃダメなのに…………。



「…………。」



僕はもう一度ルカに抱きついた。


そして、今までよりも更にルカに体を密着させてルカの暖かさを感じ続けた。


うぅ、僕のバカ…………。


結局僕は欲に負けて快楽を享受し続けてしまった。




―――――――――――――




「…………よし、もう大丈夫!」



僕はルカの暖かさを存分に味わった後、意を決してルカから離れた。



「え、もういいの? もうちょっと休んでも良いんだよ?」


「やめて! これ以上僕に魅力的な提案をしないで!」


「けどー、エナドリ飲んだ後って結構疲れるから、もっと休んだ方がいいんじゃないー?」


「うぅ、やめてやめてやめてー!」



せっかく意を決してルカから離れたのに、そんな提案をされたらまた負けちゃうよ…………。


僕はまた負けない為にもルカ達の甘い誘いを聞かないようにした。


すると、ルカ達も渋々と言った感じで納得してくれた。


…………なんで僕より残念そうにしてるのかは分からないけど、まぁ、良いだろう。



「もぉ、わかったよ…………私も楽しかったのになぁ…………。」


「え、どういうこと?」


「まぁ、いいよ、それよりさ、もうそろそろ見えるんじゃない?」


「あっ!? そうだった!」



僕は特訓の最中、その光景がちゃんと見えるギリギリの範囲までは見えるようになった。


その為、今なら安全にそのルカ達が見て欲しいと言っていた光景を見る事が出来る。


ほんと、サナさまさまだ。



「メグー! ここが1番よく見えるぞ!」


「はーい、今行くよ! …………ルカ、お願い!」


「はいよー!」



僕はルカに運んでもらってアニのところまでいった。



「ほら、こっちを見ればよく見えるよ!」



アニに促され、僕はその光景の方向に体を向けた。



「じゃあ…………見るよ!」



僕は出来る限り遠くを見た。

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