第8話 お金
「ええっ、あたし達お金持ってないぞ!?」
「どうしよー、入れないね…………。」
みんなは悲しそうにそう口にした。
ただ、その中でも一際絶望していたのは僕だった。
「そんな…………温泉に入れないなんて…………。」
いちばん強く渇望していた僕の絶望は誰よりも深いものとなっていた。
僕はルカの腕の中でガックリと項垂れる。
その間も僕に絶望をもたらしたおかみさんは「イラッシャイマセ、イラッシャイマセ」と連呼していた。
「うわー、このおかみさん、古いタイプみたいだから融通効かないだろうな…………。ちょっと壊れてるみたいだし…………。」
「ねぇ、ルカ、どうにか出来ないの? 例えばさ……落ちてるお金を探すとか…………。」
「うーん、あの額は落ちてないだろうね…………。」
「そ、そんなぁ…………。」
僕の中で温泉はお預けという言葉がこだましていく。
うぅ、やっと温泉に入れると思ったのに……こんなのってないよ…………。
「わっ、わっ、ちょっとメグ泣かないで! うんっと、待ってて、あたしがすぐに解決策を考えるから…………。」
「ほんと!?」
「もちろん、任せてよ!」
アニはそういうとうーんうーんと唸りはじめる。
これは期待できそう……?
「うーん……ごめん、やっぱ思いつかない!」
「うわーん!」
僕は先程よりも激しく泣き出してしまった。
ちょっと恥ずかしいけれど、この悲しさは止まらない。
「えーっと、メグー? 僕がなでなでしてあげるから泣き止んでー?」
「あっ、あたしもなでなでするよ!?」
「私もー!」
僕が泣いているとみんな心配して何故か僕の頭を全員で撫てくれた。
少し意味がわからなくて冷静になったのか、段々と僕の中で恥ずかしさが優位に立っていく。
「あぅ、み、みんな、もう大丈夫だよ、わがまま言ってごめんね…………。」
僕はたまらずみんなの手を拒んでしまった。
実はちょっと嬉しかったのは内緒だ。
僕は照れくさくて咄嗟に話をそらそうとした。
「それでさ、結局どうする? お金が無いんじゃどうやっても温泉には入れないし、別の場所に向かう?」
「うぅーん、けど私もメグに触発されて温泉に入りたくなっちゃったんだよね…………。」
メグ達は色々考えてくれていたが、結局解決策は出なかった。
そこで、僕の頭には悪い考えがよぎってしまう。
「…………ねぇ、もうさ、お金払わないで温泉に入っちゃわない?」
「…………そうしちゃう?」
「…………あ、あたしも賛成だぞ。」
「…………しょうがないよねー。」
僕のその悪い考えは満場一致で可決されてしまった。
おかみさんには悪いけど、もう我慢の限界だし、早く温泉に入りたい。
僕達はお金を払わずにそろりそろりとおかみさんの死角を通って温泉のあるであろう場所へ向かった。
しかし、その瞬間、アラームのような音が鳴り響いた。
僕達はびっくりして急いで元いた場所まで戻った。
「ケイコク、ケイコク、ムセンニュウヨクヲシタバアイソクザニ
「うわあぁっ!? ごめんなさい、ごめんなさいぃ!
ルカはそう叫ぶと、みんなを連れて何処かに走り出した。
あの刺激臭が少しづつ弱まっていっていたので、恐らく温泉とは逆の方向へと走っていったようだ。
ルカはふぅと溜息をつき、僕達に周りで変な音はしないかどうか確認して貰っていた。
特に変な音はしなかった。
「いやぁ、おまわりさん呼ばれるのはまずいからね…………この温泉は諦めるしか無いかなぁ?」
「ねぇルカ、そのおさわりまん? とか言うのって何なの?」
「おまわりさんね、あいつらは機械の中でもトップレベルに危険な奴らだから、出来るだけ会いたくないんだよね…………。」
「わぁっ、そんな奴らを呼ばれそうになっていたの!?」
それって大ピンチだったって事じゃないか。
るかが咄嗟の判断であの場から離れてくれていて本当に良かった。
「それじゃあ、もうこの温泉は入れないね…………。」
僕は落ち込んだようにそう言った。
2度目の温泉キャンセルは流石にキツイ。
「…………ん? 待って、あれ街じゃないか!?」
アニがそう言って何処かへ走り出した。
僕達もそれを追いかけていく。
「わぁ、本当だ、まだ街が残ってるなんて…………! あそこならもしかしてお金も見つかるかも!?」
「アニ、お手柄だねー。」
「えへへー、じゃあ早速街にお金を探しに行こう!」
「う、うん!」
僕は街というものがどんな物なのか分からなかったけれど、お金が見つかる場所という事なのだったらもうなんでもいい。
そう、僕はもうなんでもいいから温泉に入りたいのだ!
それに、みんなが居るならどこに行ったって何とかなるよね!
僕達は意気揚々と街へと繰り出した。
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