この惑星、生体反応あり。

加賀倉 創作

第1話『その惑星に期待あり』

——そう遠くない未来。


 天文学者であり実業家の堀田哲也ほったてつやは、宇宙開発事業のコストカットで財政難に苦しむNASAから、お古になったハッブル望遠鏡を買い上げた。ある時彼は、地球上の遠隔制御施設から、その人類が持つ中で番目に高性能な望遠鏡で宇宙を見渡していると、遥か彼方、一三〇億光年先に、奇妙な惑星を一つ、発見した。

「なんだ、あの美しい光沢を持った星は。近くにある恒星からの光の作用だろうか、半透明な乳白色を基調としているが、桃色や、緑色の干渉色も見られるな。まるで、シャボン玉のようだ。少々いびつなのが、気にはなるが」

 堀田哲也は、瞬く間にその星に魅了された。

「そうだ、大気組成も見てみようか。分光観測モードに切り替えてっと。よし、これであの惑星のスペクトルデータが得られるぞ」

 手元のディスプレイには、上下にジグザグとした折れ線グラフが、FX投資家がよく使うラインチャートのように、徐々に伸びていく。

「窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素。この吸収線のパターンは……」


 惑星には、直ちに無人探査機が派遣された。探査機は、地表の土のサンプルを地球に持ち帰ることに成功した。堀田哲也は、子供のように目を輝かせながら、サンプルを分析した。


「これは炭酸カルシウム! なるほど、有機化合物ときたか。おまけに、窒素・リン・カリウムが豊富に含まれているな。どんな農学者に見せても、この土の故郷は、作物の育つ肥沃な土地だと断言するはず。そして探査車ローバーの探査記録によると……惑星の重力加速度は一〇・三一メートル毎秒毎秒。一〇三〇ヘクトパスカルの大気圧に、平均気温は推定摂氏十三度か。さらに水を検出した、とある。水はもう蒸発してしまっているが、そういった記録があるのは確かだ。これはひょっとすると……」

 その分析結果は、その惑星には生物が存在する可能性が極めて高い、ということを意味した。


 子煩悩な父親である堀田哲也は、つい先日成人を迎えた一人息子の哲夫てつおに、その可能性に満ちた惑星の所有権を、誕生日プレゼントとして譲渡した。しかし、譲渡した、とは言いつつも、自身の発見した惑星の処遇が気になってしまうのが、天文学者の性だった。


「で、哲夫よ、あの惑星を、どうするつもりなのか、聞かせてくれないか。もちろんお前は私の自慢の一人息子だが、あの惑星もまた私が見出した存在。我が子のように、愛しくてな」

「なんだい父さん、あの星を僕の妹にでもするつもりかい? でも、心配しないで。家族のように、とまでは言わないまでも、大切にはするつもりだよ」

「大切に、と言うと?」

「そうだなぁ、例えるなら、妹の身体検査だね。異常がないか、確認するんだ」

「つまりは……惑星探査に行きたい、ということか」

「さすが、察しがいいね。そうだ、ちょうどよかった。そういうわけで、惑星までの足が必要になるんだけど」

 哲也は、息子の頼みを二つ返事で受け入れた。

 かくして哲夫は、恒星間航行に耐えうる大型の宇宙船と、そこに積載可能な小型探査船を得た。


〈第2話『たからもの』へ続く〉

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