第13話 ソロ・初戦闘

 慎重に進んで曲がり角の壁に背をつける。確かに足音がする。ただ、一体だけなのか、相手との距離はどのくらいなのかまではわからない。ソロのシーカーでは正面からの戦闘は無謀だ。基本はその場からの撤退である。だけどせっかく初めての遭遇だし、自分の強さを確認する意味でも一度はダメージ覚悟で挑戦してみたい。

 ふと、先ほど拾った鏡のことを思い出した。物入れから取り出し廊下の角から鏡だけを出して様子をうかがう。

 スケルトン!

 うわー、本当に骸骨が動いてる。

 でも鏡越しで見ているせいか、最近のゲームで見慣れているせいか、乾いている骸骨にはホラー的な怖さは感じなかった。

「武器は持っていないタイプか。一体だけなら何とかなるかも」

 万が一地上送りになっても手持ちのアイテムを失わないように、鏡をストレージに退避する。トンカチをどうしようか迷ったけれど、骨だけの相手にナイフがどこまで有効かわからなかったので奥の手として手元に残しておくことにした。

 よしっ!

 気合を入れて一気に駆け出す。

 スケルトンの動きは緩慢で相手の間合いに入る手前までこちらに気づいた素振りも見せない。

 走った勢いそのままにスケルトンの左脇をすり抜けざま、ナイフで切りかかる。左腕に当たったけれど、切り裂く肉も皮もないからスケルトンにダメージが入ったようには見えない。

 素早さはこちらのほうが勝っていた。

 相手はこちらに掴みかかる動きを繰り返している。骨だけに見えてもそれなりに力はありそうだ。捕まるわけにはいかない。左右にステップを繰り返してスケルトンの腕を避けなら切りつける。でもやっぱりダメージはほとんど入らない。ときおり指先にヒットして小さな骨を巻き散らすだけだった。

 直接ダメージを入れられないなら、相手を動けなくする方向で戦うのはどうだろう?

 骨に刃は通らないようだけれど、何もない関節部分はどうだろうか?スケルトンの関節は不思議な力で連結しているように見えるけど、そこって切れないかな?

 考えたのは一瞬、すぐに手が動かしてスケルトンの肘関節を割るようにナイフの刃先を滑らせる。何もない隙間を刃がすり抜ける瞬間、クモの糸ほどもない手ごたえで何かを断ち切るような感覚があった。

 ガシャン、カラカラ、と乾いた音を立てて前腕部分の骨が外れて床に散らばる。

 よし、骨は切れなくても関節は切れる。

 背後から右に回り込んで肩関節から上腕を切り離す。

 がくんとスケルトンの態勢が揺らぐ。初めてダメージらしい反応が見えた。

 振り回す左の上腕骨を掻い潜って左足を膝裏から切りつける。脛骨が体から離れて床を転がる。

 ズシャ

 さすがに立っていられなくなったスケルトンが床に倒れる。

 すかさず馬乗りになってナイフの柄頭つかがしらに左手を添え、真上から喉仏めがけて一気に突き下ろす。

 ガツッと骨を砕く手ごたえがあって、頭蓋骨と胴体が泣き別れた。

 ゲームではスケルトンを放っておくと骨が集まって復活するパターンが多い。念には念を、だ。ベルトループからトンカチを抜き取り高く振りかぶる。

「せいっ」

 トンカチがスケルトンの脳天を狙い違わず打ち抜く。頭蓋骨がばらばらに砕け、ダメージエフェクトを巻き散らしながら光の粒子となって消えた。同時にほかの骨も消えていく。

「ふぅ、やった、初勝利!」

 膝立ちで思わず両手を掲げる。ただ、右手に持っているのがトンカチであることに気づいてちょっと恥ずかしくなった。


 スケルトンからはクロウラーたちの五倍の経験値エストが得られた。こうなるとやはり経験値エスト稼ぎには魔物狩りが必須になってくるなぁ。

 スケルトン一体なら何とかなりそうな目途は立ったけれど、ナイフではやはり火力が足りない。どうしたものかね……


【本日の獲物】

・ダンジョンクロウラー(ダンゴムシ)×六匹

・スケルトン×一体


【入手アイテム】

・片割れの鏡

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る