第17話 閑話『独白』

「役に立つ子になりなさい」


何十何百と聞かされた呪いの言葉

幼い俺を壊した言葉









小学生の時の俺は善人だった

誰かのために何かをする人間だった


それが嫌な人も多く、気が付けば周りは敵だらけだった

それでも俺は役に立つ子にならないといけないから止まらなかった



クラスでいじめが起きた

随分と悪辣ないじめだった

当然俺はそれを咎めた


その日だけはいじめがおさまった

いじめられていた子からの感謝の言葉で自分の進む道は間違いではないのだと強く感じた


次の日から俺はいじめの標的になった


それでも俺は止まれなかった

靴を隠されようと、教科書を捨てられようと弁当に虫を入れられトイレで水をかけられようと止まれなかった

いじめのことを親に話したことがある

彼らは「それはいじめでは無い。お前が役に立てないからそんな事をされるんだ。役に立つ子になりなさい」と言った


俺はそれに従った


いじめてくる奴の役に立とうとした

なんの意味もないのに

そんな事をした所で何も変わらないのに


ある日いじめてくる奴が増えた

昔いじめられていた子だった


笑っていた

笑っていたんだ。そいつは


その時確かに、俺の心が壊れた音がした


何も思わなくなった

何をされても、どんな事を言われても心が動くことはなくなった


いじめは止まった

どうでもいいけど


親が宗教にハマった

死は救済だと、生きることはそれ自体が罪なのだと暑く語っていたような気がする


辛くはなかった

何も思わなかったから


死んだら救われる…その通りだなと思った



中学生の時、自分を偽ることを覚えた

死んだら救われる…生きること自体が罪なら出来るだけ生きようと思ったから

生きる上で人との繋がりは必要不可欠だから

無表情で無愛想だと人の輪に入れなさそうだったから


友達が出来た。夜染と言う名前の根暗な子


何だか目が離せなかったからその人の力になろうと手を尽くすことにした


ネットの友達が出来た。秋津と言う男の子


2年仲良くした後彼は死んだ

最後の言葉は「ようやく解放される」だった

やっぱり死んだら救われるんだなと思った


親が死んだ

父親が浮気をしていたらしい

母親が父親を包丁で刺していた

俺も刺された

霞む視界で自分に包丁を刺す母親が見えた


俺だけ生き残った


死んだ母親は最後に笑っていた

やっぱり死は救いだった


その後おじさんに拾われた

感謝してもしきれない




夜染が明るくなった

積極的に人と関わり、クラスの中心人物になった

その時から俺らは下の名前で呼び合うことになった


役に立てたなと思った

俺はまだ、役に立つ子になろうとしていたんだとその時に気が付いた





真菰と仲良くなるにつれて死にたくないと言う気持ちが強くなっていった

真菰の生き様を見届けたかった

真菰の力になりたかった

真菰は覚えていないけれど、辛い時に味方をしてくれたから

真菰と話すのは楽しかったから




真菰との日々である程度は普通の人になれたと思う

趣味が出来て、人を大切に思う心が芽生えて、自然に笑うことが出来るようになった


晴ちゃんに出会った

真菰も入れた3人で遊ぶことが増えた

楽しかった


でも死んだら救われるという根っこの価値観が変わることはついぞなかった




封じ込めようこの価値観は

封じ込めよう弱い心は

人を信じれない自分は

人を疑ってしまう自分は

壊れてしまった自分は

全部全部奥底に封じよう







ルカにも、シロにも、真菰にも、おじさんにも、晴ちゃんにも、奥底の自分は見せないようにしよう


強く、陽気で、頼り甲斐のある素晴らしい男になろう

皆それを望んでる










誰かの役に立つ人になろう


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