本戦-5 剛なる柔剣vs変わった正剣


 少し時は巻き戻る。 具体的には


「嗚呼もうウザったい!」


>草

>なんだそのジャスガww

>的確に首狩りしてるな…


 と天使の首を刈り落としたあたりから。本気ゾーンへ突入した彼女への横槍は無為に帰し、増した勝鬨の"狂気の血潮“を押さえつける。今必要なのは──研ぎ澄まされた、剣の一。見えぬ音さえ斬り捨てる。

 

「そらそらそら〜っ!」


>うーんかわいい

>だが男だ

>お得だろいい加減にしろ


 アストはその振るう姿勢を見て、『隙』を感じた。行動の後の空白。二の太刀へ力を入れ直す為に人体のクラッチを切る、どうしようもない硬直時間。手繰るブラキオンが地を跳ねてアリサに牙を剥き、麻痺らせそのまま切り裂いちゃおうと牙を剥く。


「はぁ──」


>俺このジト目アリサ好き

>お客さん通だね

>ただの偏屈では…?


 だが当のアリサは驚いた様子も見せない。ああ、ただ『面倒だ』と息を吐く。止まったように思える時の中、アリサという身体アバターが、発条に跳ね返ったかのように再逆加速。数学教材にできそうな程完璧な切り返し。


「うぅっそでしょー!?」


>なんだ今のー!?

>これだからジト目アリサは好きなんだ

>理由わかったわ


 持て余す程の剛力狂化状態はあくまでも手段の一つ。ただただ、内に秘めた暴力衝動ストレスの解放。抑圧された鬼神が我が世の春と立ち塞がる悉くを圧倒しているだけ。強敵ライバルと闘うのなら──これでは、いけませんね?


「甘い遅い柔い」


 初手は地這いブラキオンを剣腹で吹っ飛ばし安全圏を確保、面での攻撃なので巻き付かれる心配はなく。引き戻される前に三角カーブで埋めてやる。引き戻すには力が必要だがそれを込めるまでにアリサは追加行動権をGET。採掘道具にしたサードムーンを今度はジャンプ台に。棒高跳びのように大跳躍。頂点に至る頃にはサードムーンは再召喚されていて。


>待て待て待て

>早すぎて草

>俺でも見逃したわ


「あ、ま、うっそ…!?」


 驚愕の色に染まるアスト。伸び切ったままからの再召喚よりは引き抜きの方が早い。だけどこのままじゃ動けず『死』。逡巡の末の結論は──逃走。再展開まで無防備になるがこれも生存の為の必要経費。


>いつもキャピってる奴の戦慄からしか得られない栄養素

>五大栄養素に含みます

>ねぇよw


「あぶな、ぁ!」


 バックステップ横回避。ジグザグ軌道の回避運動は功を奏した。サードムーンは振り下ろされるなり前方に回転。斜め横に来たアリサの足が地面につくと同時。


「流石」


 270°薙ぎ払いが炸裂。射程外まで逃げられたアストは腹一枚繋がった。危ないと汗をかく暇も無く。次回に入った仲間ツレは……炎とゲーミングに押されっぱなし。旗色は、悪いと言って差し支えない。


>流石じゃねえよアリサよぉ!

>これからさん付けしないと…

>なんかここまで参考にならない参考出されると真似したくなる

>無理だゾ…


「遊んでる暇が、なぁ…いっ!」


 想定していたのは『頭のおかしい狂化娘』。だが今目前にいるのは『動きのおかしい大剣鬼』。こんな化け物は呼んでないし読んでない。ブラキオンだって……今やっと帰ってきた。


>おっアストが剣持った

>えーでもさっきの蛇腹崩されただろ?

>魔核装備あるだろうけどまだ分かってないんだぞ

>確かに…?


「させないし、やらせない」


>うわぁ、うわぁ、うわぁ

>アカンこのままやと対処できなくて死ぬゥ!

>既にやばくない…?(


 前に踏み込み。地を擦りながら進み溝を作って。死への誘いは止まらない。天使の横槍は届かない。ただ無感想な。ただただ無機質な。横一文字に結ばれた口が、緩やかに開いて。


「破ァ!」


「避、っけてぇ…!」


>危ねぇ!!

>アスト応援したくなる

>昆布巻き全員ヤバすぎるww


 超過重量のカチ上げ一発。研ぎ澄まされた殺意は不可避の域に達す。しかしそれは『読めた』。あるいは、『読まされた』。そう、例えるなら『今からグー出すよ』と言ってからやる読み合いじゃんけん


『私は今から斬り上げをする』


 そう示されたのなら誰だって懐に潜りたくなる。切り上げのラインを予測してハズれた位置から向かいたくなる。一つのミスが文字通りの死因となるこの戦いでは、そんな"ねこだましチープ・トリック"に引っかかっても仕方ない。今のアリサの『技術』なら、そんな"ガバ"でも利用できるということは、既に示されているのに。


『でもこれで終わらない』


 屈んだアストの身長を超えた瞬間、再び剣が跳ね飛ばされて首根っこ一直線。隙を狙って好機と近寄ってしまった相手を殺す"必殺剣"が迫、り。


「ま、っだまだぁっ!ボクはここで終われないんだぁーっ!」


>うおお!?

>は、っ

>それパリィできんのかよwwww

>※俺らには無理です


 もう一度跳ね返った・・・・・・・・・蛇腹剣ブラキオンが待ってましたと跳ね返るまでの内にアストを覆ったからだ。ジャラララと鳴り響く全方位界はアストとブラキオンの成長の結果。


──

[ブラキオン]

カテゴリ:蛇腹剣

ランク:I

属性:雷

特徴:強靭耐久/形状伸縮/麻痺属性/威力凝縮

──


 まずは威力凝縮。"伸ばさなかった時間"に応じて"伸びきるまで"の速度が上昇し、威力もそれに応じてアップ。更に、今の『カウンター』なら。


──

[ラビット・ノット]

カテゴリ:髪飾り(魔核装備)

属性:獣

スキル:バニーサルト・反撃

──

[バニーサルト・反撃]

スキル[反撃]によるカウンター攻撃のノックバックが増加する。

CT:5秒

──


 頭についた魔核装備ウサの耳が、それを更に乗算する。武装強化IIまで注ぎ込まれた瞬間威力なら、アリサ剣鬼の一撃にだって勝てるのだ。


>崩れた!

>殺られる!?

>ボスの倒されるまでを見てる感覚


「うっ、そ」


「さぁ"反撃"だっ!」


>笑顔のアストかわいい…

>いやぁ、嬉しそう

>一矢報いれてよかったね


 息も継がぬ即死ラッシュでアリサのスタミナはすっからかん。天使回復薬は仲間が食い散らかしてもう来れない。足に巻きついたブラキオンが、『麻痺』を付与してアリサを縛る。


「────ッッッ!!!」


 狂化していないアリサが抱える唯一の弱点は……(いつもと比べて)ステータスが低いこと。筋力抵抗に持ち込まれては割と厳しい。しかも麻痺で動けないとなれば痛めつけられ放題。


「アリサちゃんだけでも、倒すからねっ!」


 独楽アリサに撒かれたブラキオンを引き抜く。その一片一片が身体HPを削り取る。


「く、ぅぁぁぁっ……!」


>えっ

>何今の声

>……ふぅ。

>通報した


 アリサは無抵抗の状態でやられている内は可愛いだけの女の子。馬鹿ほど削れてくHPに呻く声も少し甘い。だがそんな裏面、あるいは本性愛理にやられていてはここにいない。最後の一撃、片手直剣に戻ったブラキオンを固めて。無防備の、腹を──!


GGグッドゲーム、アリサちゃんっ!」


「……じ、ぃ……じ──ぃ」


 死期を悟ったアリサは歪な笑顔でサムズアップ。背中から集積された刃を生やし、ポリゴン片と化した。


「次のアルバムも買うからねカリンちゃーんっ!!」


 とは、いえ。


>ここダイマ

>ステマじゃない…?

>……どちらにせよ買うからいいだろ!?


 同時に、もう片方の戦場も決着ターミネート。無論勝者は燃えるシェリーと輝くファインダー。CT明けのフォレストチェイサーが、アストの背に刺さった。


「げっ」


>あっ

>今いいところだったのにね…

>この戦いちゃんと二画面で見たいんだけどwww


「じゃあアスト!見切りの刹那しようぜ!」


「ヤダよ!?」


 被る金属兜。変わるオファニエル。叫ぶウサ耳。閉じるブラキオン。


>草

>ミスったら死か…

>シェリー有利では?(


デッドイーター・真髄「1秒以内に牙が刺さったので生存ヨシ!」


「ハンティング・ジャーいっ!」


 完全なコンボ成立。焔鋸の刃延長戦。戒天なる一撃がアストを追って離さない。ぶっちゃけこれに勝ってもゲーミング発行してるファインダーにボコられるけど、それはそれとして。


「そんなふざけたノリで倒されたくなァァァァァァイ!!!!!」


 負けず嫌いなのは、シェリーもアリサもアストも、みんなみんな、同じなのである。









『準々決勝 第一試合が終了しました』


『昆布巻きの勝利です』


「俺の勝ち!なんで負けたか明日まで考えておいてね!」


>煽りよる

>うーんこの

>酷い戦いを見た


「取れ高ありすぎて困るわぁ…同時に二つ激戦起すん、やめてもらってもエエ?」


「無理だろ」


「成り行きだから…仕方ないかなぁ、なんて、えへへ」


>おかげで脳を二分したんだぞ

>怖…

>定期的に人外兄貴姉貴出てくんの好きだけど嫌いじゃないよ

>鼓膜破壊ニキ…

 

「……ちょっとゴネてみるけど期待せえへんと待っといてな」


>全裸待機

>服は着ろ

>ぱんつ!ぱんつぬげ!

>変態さんですね……


「いやもっと戦いの感想くれよ!?」


 視聴者達は、いつだって"今の楽しみ"に、飢えているのだった。


〜〜〜

Tips 今回の視点について

前回と今回で配信画面の右半分本戦-4左半分本戦-5を書いた感じです

この二つの激戦を同時に書きたかったからこういう感じになりました……


ちなみにリアルのアリサ──愛理は試合でもサードムーンじゃなくて竹刀を握ってコレをしている。本性と技術が絶妙に噛み合ってないからゲームの世界では暴れているのです…Death

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