#45 【初見殺し】機械仕掛けのお人形【返り討ち】


『次の相手は、お前か』


 周囲を檻のように囲まれ闘い続ける事を運命づけられた『剣闘士クーリエ』が、舞台に上がったシェリーへ相棒たる剣の鋒を向けた。兜に覆い隠されし真意は見えないが、どう見たって"役"に酔っている。


>殺意マシマシ

>湿度高め

>おめめギラギラ


「……助けに来たよ」


 ならばシェリーは彼女を止めるだけ。演じ踊らされている彼女を止めるのが、シェリーの役割だ。


──88888888──


 "観客"達も、それを肯定するかのようにシェリーの登場を讃え、喜び、迎える。


──

ストーリークエスト

3-2-1

[舞台で踊るサンドリヨン](CLEARED)

カレイドシアター。世界中の美が集うカレイドの街でも最高峰の"魅せ者"が集う劇場。しかしその中で今最も人気なのはたった一人。その名はクーリエ。この世界生まれの英雄である彼女のパフォーマンスは素晴らしいと聞くが──。

-1:なんとクーリエは演目を前にして控室から忽然と姿を消してしまった。これは誘拐か、あるいは失踪か。彼女を探してほしいという支配人の願いを叶えてあげよう。

CLEARED:彼女はどこへ行ったわけでもない。彼女はシアターの中にいた。だがこの"舞台"は……。

──


 クエスト完了。

 

──

ストーリークエスト

3-3

[開目剣闘息つく暇もなく]

ようやく舞台の上にいるクーリエを見つけたが彼女の様子は何処か変。幾ら声をかけても彼女へ声は届かない。帰ってくるのは攻撃だけ。この演目を止めるには、彼女を倒すしかなさそうだ。あなたを見守る観客達も、それを肯定している。

──


 クエスト進行。


 シェリーの目前をウインドウが通り過ぎ、推理が大正解を引き当てたことを教えてくれる。だがシステムがそんな親切だけをする訳がなく、末尾の文字を認識し終えたと同時に。


 ギキィッッンッッ!!


>怖っ!?

>そうか俺の死因これか…

>俯瞰視点のおかげで理解したわ


 低い姿勢ですっ飛んできた剣闘士クーリエが、英雄シェリーの首を狙って下から一閃。透けて見えていたシェリーは抜刀した片手剣で対応。鍔迫り合いとはこのことか。


『隙だらけだぞ!』


「アンブッシュは一回だけだからな!?」


>アイサツ無しの攻撃は実際シツレイ

>忍者じゃねえだろ

>演劇に卑怯もヘチマもねえだろぉ!?


 怪力Iにモノを言わせて蹴撃、回避行動を取らせている間にいつもの装備を再着装。拳は岩に。脚は火山へ。胸は肉肉しき触手に覆われて、腰へ森の追跡者が合流。コレがシェリーの決戦形態Ver,N。Nは5以上の実数とする。


「我が名はシェリー!WR連発の完全無欠たる配信女王!!お前を倒して私はEXルートに往く!!!」


>完全…無欠…?

>オリチャー発動のガバだらけたるおもしれー女だろ

>\\[かっこいいぞシェリー!!!!]//


──(非言語的声援)──


 クリーチャーエナジーインクルード、回転鋸を担いて大見栄を張る。肝の据わった今の彼女に怖いものは自然災害と鯖落ちくらいしかない。準備万端だとオファニエルが叫び、回る。


『名乗られては仕方ない……我が名は"スタルーク"!"ロキアの地"にて誉響かせる剣闘士!貴様を殺し、今日も私は生き延びる──!』


「あーこりゃダメだ話通じない」


>いつものシェリーみたい

>アリサだろ

>どっちもどっち


 そしてクーリエ改め"スタルーク"は剣を突き立て仁王立ち。同じく名乗りを上げるとシェリーは周囲の空間が歪むような感覚に襲われて。


「なんの光ぃ…!?」


>ステージセレクトっ!

>うぇぇ気持ちわりぃ

>[※お使いの端末は正常です]


 目眩を振り切ったら舞台の上から闘技場の中へと引き込まれていた。幻覚にしては観客席からこちらを見下ろす"観客“がやけにはっきりしている気がするが。


『では、行くぞ』


「──ああ!」


 整えられたからにはやるしかない。オファニエルを地面に叩きつけて推進、スタルークも超速度で肉薄せんとやって来る。だからタイミングを見計らってシェリーは跳躍、上段からの振り下ろしを狙う。


「死っねぇぇぇいっ!」


>いい笑顔

>そろそろギラギラ笑顔の切り抜き集欲しいな

>一番好きなのは銀行強盗初見で行員脅してる時のやつ


 だがそれは巨大生物相手ならいいが人間に対しては大振りの評価もも良いところ、当然スタルークは冷静に、最適解たる直下に移動する。


『何をやるかと思えば──!?』


「かかったなアホがっ!!」


 しかし一度目の勝者はシェリーに傾いた。勝因はブロック・ロック。舞台から闘技場へと変遷した事で床が『自然地形未舗装』に。そして砂は固体と違って重量に逆らえず。跳ねるように駆けていた彼女の着地点周囲を隆起させ、逆説的に地形沈下。機動特化は足を潰すのが定石。


>は!?

>いやどうやってんのそれ??

>うわぁ最悪だ


「防げるもんなら防いでみろよっ!」


 今のスタルークは落とし穴に全力で突進してしまったのと同じ。着地までは方向転換は不可。避ける術はない。防ぐ術は、剣を盾にするしか。


『がっぐ、ぅぅぅぅ……!!』


 身体を捻り半回転、どうにか剣を迫り来る鋸に当て防ぐが地面さえも背中を襲ったせいで手元がさらに狂う。その上狂気の沙汰にも劣らぬ天使の歌声ギィャァァリリィィ!が恐怖を誘う。どっちがボスだ。


>やってることが魔王vs勇者なんよ

>いや…凄いな、どっちも。

>敵の方が動きの参考になる件


『離れ、ろぉっ!』


「うぉっとと!?」


 しかしスタルークはそれらを振り切って閃いた。とんでもなく重いこの一撃は、受けるのではなく流すべきだと。平行に持っていた武器を姿勢ごと斜めに、特殊移動の特性を利用されてオファニエルの棘は剣の腹を滑り落ちた。


「逃がすっかぁ!」


>ファッ!?

>え?

>装備枠…??


 だがシェリーはここでオファニエルを掴む手を離し、何の変哲もない鋼の剣を召喚。バーニング・リープを起動させて空中宙返り。その腕からは既に岩が消えている。これで大丈夫。


「ぜりゃぁっ!」


 爆進力を攻撃力に。溶岩の足から噴き出す炎がスタルークの細腕を押し切る。体勢の立て直しに意識を割いていた彼女にそれは致命的な隙。


『〜〜っ!!』


>シェリーってなんでもできるよね

>万能だぞ

>でも近接メインだけどな


 薄い装甲にさえ守られない剣闘士の身体は穿たれた上追加の左の鉄拳は頬に喰らい付いてノックバック、怪力Iは伊達ではない。そして飛ばされた先には、独走するオファニエル。


>!?

>魂魄武装って離れても消えないのか

>消さなければ消えねーぞ

>投擲武器の昆布もあるしな……


 サッと着地して構えるはフォレスト・チェイサー。発射後即ハンティング・ジャーを起動、オファニエルの柄に取り付いていた牙の元へシェリーの身体が平行移動。


>めちゃくちゃ草

>驚異的な摺足!

>競馬かよ


「ドライブスルー斬っ!!」


>効果:相手は死ぬ

>ギャグっぽいけどガチ

>マジヒデェ


『なっ、めるなぁぁぁっ!!』


 バッティングフォームのまま引き摺られながら必殺を狙うシェリー。着地には成功したが勢いを消しきれていないスタルークは今度こそ剣で防ごうとするが、もう遅い。


「吹っ飛べぇぇぃぃっっ!!」


 ノックバックは加速する。闘技場となって生まれた壁に向かって一直線。岩盤浴とはこの事か。シェリーの手にはオファニエルが帰還して加速度を保ったままジャイアントスイング、どこまでも残虐で無慈悲な回転鋸が剣闘士を襲い肉を臓を骨を噛み砕いて──!


>お前がナンバーワンでいいよもう

>剣闘士って何だっけ

>勝てば官軍定期


『ぁ"ぁ"ぁ"っ"っ"ぎ"ぃ"ぃ"ぃ"!!??』


>もう表情がやばい

>見せられないよ!!!!

>興奮してきたな


「これで、終い、だぁぁっ!!」


 壁と棘によるサンドウィッチの仕上げはオファニエルの柄へのヤクザキック。助けるとは何だったのか、絶命必至のトドメが効いて。


「死ねぇぇぇ……ぇっ」


>は?

>あれ

>うそん


 壁が、消えた。元の舞台へと戻った。パタリと落ちるスタルーク、いいや『英雄クーリエ』。先程での絶叫と傷はなかったことになり、重力に従って落下。オファニエルを消してクーリエを踏まないように蹴った足を地につける。観客からは再び惜しみない拍手がシェリーに浴びせられて……


──

ストーリークエスト

3-3-EX

[開目剣闘息つく暇もなく]

ようやく舞台の上にいるクーリエを見つけたが彼女の様子は何処か変。幾ら声をかけても彼女へ声は届かない。帰ってくるのは攻撃だけ。この演目を止めるには、彼女を倒すしかなさそうだ。

EX:あなたの手によって英雄クーリエの演目は終えられた。だが、この場には。もう一人、演者が。

──


>勝ち?

>いや終わってない

>リザルトどこ…ここ?

 


 ……も、舞台の幕が降りることはない。音につられて観客席を見ていてシェリーは気づいた。先程まで闘技場にいた観客と、ここにいる観客は同じ顔をしている。嫌な予感がして足元を確認したら既にクーリエは消えていた。


「──マジかよ」


 それどころか少しの目眩と酔いの後、次にシェリーが立っていたのは岩地の上。少し水の滴りし見覚えのある場所。


>場所コロコロ変わるな

>このクエストのボスってクーリエじゃ…


 そしてシェリーに大きな影が落ちる。下手人を"見上げよう"と、錆びついたようにゆっくりとしか動かない首を振り向かせる前に。


『ガララァァ!!』


「ぐべっ」


>あっ

>死んだ

>草

>見事な死にっぷり


 岩々の巨人の足で、踏み潰された。











 ──

ストーリークエスト

3-3-EX

[開目剣闘息つく暇もなく]EXPANSION

ようやく舞台の上にいるクーリエを見つけたが彼女の様子は何処か変。幾ら声をかけても彼女へ声は届かない。帰ってくるのは攻撃だけ。この演目を止めるには、彼女を倒すしかなさそうだ。

EX: あなたの手によって英雄クーリエの演目は終えられた。だが、この場には。もう一人、演者が。

EXPANSION:観客たちは、まだ満足していない。

──











「は?」


そしてシェリーは死に戻った。復活したのは先程までいた舞台の下。横にはクーリエが木箱へともたれかかって睡眠中。壁にはヴァーサ様の聖印の書かれたポスターが。


>見事な死にっぷりでしたね…

>さっきの何?

>…まさかな


 クエストリストにはクリアではなくエキスパンション、即ち更なる分岐が起こったと記されている。


「ってことは……いや、いいや。疲れた!!!!」


 再び舞台に登るための"迫り"が降りているのを確認したシェリーは、床に大の字になって倒れる。クリエナは切れたしデスペナのせいで少し気怠い。それにアリサからのプリンの恵みを享受したい。


>ここまでっすか

>逃げんのか?


「いやいや。明日また続きやるよ。今度こそこのクエスト、クリアしてやるから」


 装備解除してカメラを上に、カシミヤの手によって可愛くなった全身装備が映る。腰に手をやって笑顔を作る。


「今日の配信はここまでっ!明日もいつも通りの時間からやってくから、みんなお楽しみにね☆」


>おつおつ

>おちゅ

>[今日のクリエナ代]<


 キラッとウインクだけキメて配信画面はエンドカードに。そしてシェリーはログアウト、プリンを買ってくれているアリサの元まで向かうのだった。

 

〜〜〜

Tips 適当昆布紹介コーナー


──

[アトム]

カテゴリ:チャクラム

ランク:I

属性:無

特徴:機動操作/自己複製/多段攻撃

──

投げ物の昆布。モチーフは……お察しください。一応ダブルネーミングです。

簡単に言えば動く魔球みたいな軌道を描ける機械仕掛けのチャクラムで、ランクI時点なら同時に二つまで投げられます。しかも周囲は小さな刃が回転してるので怖いよ。

ランクI時点で二つまで同時に出せるのに多段ヒットがついてるから…あとはわかるな?

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