大会-3 油断大敵


『ROUND3 準備フェイズ』


 1回目、2回目と私は普通に死んだ。まぁ、1回目は完全にポカった訳だけど。2回目は……相手の太刀筋と、"必殺技"を受けてきた。


「なーぁ、あと一回負けたら終わりなんだろ? 本当にあげちまっていいのか?」


「コメント欄がすごく荒れてそうだけど……」


 すごく見たくない。


「ええ。問題ありません。元より"こうなる予定"でしたから」


「作戦聞いた時はすっごく嫌だったけどぉ〜、スタちゃんの読みは間違えないしぃ〜……バレぴもよく我慢したよねっ♪」


「……勝つには戦略も大事だから」


 バレっちさすが大人ぁ〜! 陰キャムーブが知的ムーブになるの羨ましいー!


「ま、私は好きにやらしてもらったがな!」


「アリサは手を抜くの下手だしね……」


 オンかオフしかないこの暴走車両アリサは最初から付けっぱにするしかない。


「それではこれから……オペレーション・アヴェンジ。開始です」


「『Yeeeeees!!!!』」


▼シェリーは コンバラリア(徹甲弾カスタム)を装備した

-火力:すごく上がった

-隠密:すごく上がった

-やる気:ものすごく上がった

-コスト:もう他に何も買えない


「ふふふ……」


 銃のカスタムは、高い。2ラウンド目のあまりコストを回すことで3ラウンド目でやっと使用できるくらいには。だけど……その分、効果は折り紙付き。徹甲弾はその名の通り"装甲"を無視してダメージを与えるガチでやべー奴。

 その分素のダメージとかは下がるんだけどね。今の相手みたいな、"近距離戦闘特化"で、"装甲マシマシ"な相手には滅法強い。


「えーと、どのミサイルだ?」


「チャフミサイルをよろしくお願いします。対象は時宗青色に向けて。アリサさんを爆破したあの方に当てれば罠は使用不可になるはずです」


 それを聞くとアリサはウインドウを無表情で動かして、決済ボタンを押して一言。


「…………ブッ殺す!」


「アリサさんは扱い安くて助かります」


「私より扱い上手くてちょっと泣きそう」


「……わかるよバレっち」


 幼馴染バレっちの同僚に軽く転がされる幼馴染アリサ。見てて悲しくなる。ちなみにバレっちも徹甲弾カスタムらしい。


「準備オッケー♪」


 レファはアサルトライフルを振り回して軽く踊る。3点バーストで貫通弾を吐き出すらしいんだよね……


「装填完了。ここからが本番です」


 ジャキン、っと獲物をカッコよく鳴らしたスターシャ。煙草とか口に加えてそうな雰囲気のあるスターシャは、貫通弾…じゃなくて炸裂弾を選択。爆発する弾だね。普通なら貫通でいいけど、"急所"に炸裂弾を叩きこんだ方が強いからって選んだらしい。……怖い。


『ROUND3 開始まで』


 そして私達は扉の前に移動。今回もまた屋根の上に移動するつもり。フックショットも、二段ジャンプも準備万端。


『5』


『4』


「アリサ」


『3』


「なんだよ」


『2』


「好きなだけ――」


『1』


「暴れようぜ」


『GAMESTART!』


「たりめーだっ!」


 開幕フックショットで上に移動、武士道会の士気は高いが油断しまくりで隊列が甘いのを確認。


「スターシャ、左の金時が特に余裕ブッこいてるから真っ先に」


『了解しました』


「アリサは右翼に。村正がいるから殴ってこい」


『ヒャッハァ!』


「レファとバレっちは真ん中に。3人が見てるから、惹きつけて」


『りょ』


『シェリちゃん報告レポート助かるっ♪』


「私は……奥の奴を殺してくる」


 静音モードオン。シィィィィという駆動音に切り替わり、私の身体が軽くなる。トタンの屋根を駆け抜けて、敵側の2階横の扉から中へ。


「村正ァ、援護いるかァ?」


 幸い、私の動きには全く気づいていない。"敵"は呑気に援護の相談をしながら、ライフルの狙いを定めている。


「クァハハ、女にやられっぱなしでいいのかァ?そのままだと負けちまうぜェ?」


 コイツら武士道も何もないでしょ。めちゃくちゃ口悪いじゃん。まぁいい。早く殺ろう。


「しっかたねェなァ……だが、ククク。産業革命なんて奴ら、オレら武士道会の前では塵芥…ってなァ……」


 私は前に跳ぶ。速いし、何より"音がしない"。空を切る気分は、まるで隼。


「よーく狙ってよォ……」


 アサシンナイフ、準備。


「発──っ!?」


 背後をとって、コアに刃を差し込む。


[Shelly]Blake[信長]


 機械の武士は力が抜けたように斃れる。


[A-RI-SA]Blake[村正]


 まずはダブルキル。


『このまま青いの潰して殺らぁ!』


「OK。スターシャ、そっちは?」


[Stasia]Blake[藤太]


 パバァンと眼下で一体が爆発四散したのが見える。


『今、終わらせました』


「うむ、よくやった!」


 これで私らは五人生存、相手はたった二人だけ。


「銃は剣より強し……あ、私とアリサは銃使ってないや」


『では残った二人に総攻撃ですね。レファさん、突撃を』


『大丈夫大丈夫、ウチぁ頑丈、だぜぃ♪』


 そのまま私も飛び降りて、走る。司令塔であっただろう信長赤いのを消したから、私らの動きを把握できていない見たい。今のうちにもう一人くらい、持っていきたい。


「『そんなヘナチョコウチにぁ当たらなぁぃ☆』」


 遮蔽物とステップで銃弾を避けるレファの姿を見て、ふと思い直す。"銃弾の飛んできた方向"に、敵はいる。


『アリちゃんのいるほうに青い影見えたぁ!』

 

『了解!』


 そして私の左に飛来するミサイル。こっちは直進して弾の出所を叩く。コンテナを二段ジャンプで越えて、コンバラリアを手に。上手く回り込めたから、一回着地してもう一回ジャンプ──って、やば。


「チッ、くると思ったぜシェリーっ!」


 レールガンをブッ放す黄色いのがこっちに振り返ってきて、その銃口をこちらまで向けてきた。そのチャージはすでにMAX。


「お生憎様、私も銃は持ってんの」


 パリリリリバリリリリッと危険な香りがする。


 レールガンは弾速特化。


 この距離じゃ普通、避けられない。


 ケド。


「一人くらいは持ってい──」


 黄色がトリガーを引く速度は、遅すぎて欠伸が出ちゃうかな。


 二段ジャンプの応用、空中回避バレルロール


 アサシンは第二の刃も隠しているものだぜ。


「――くぅっ!?」


「お疲れ様。あと2回、よろしくね」


 コンバラリアから貫通弾を全弾解放。気持ちの良い反動が手に伝わって、黄色を容赦なく貫いた


「お前……格闘型じゃ……」


「流石にキックは遊んでただけだから……」


 流石にあれがメインだと思われるのは心外だが?


[Shelly]Blake[金時]


 これでキルレは1.5。コンバラリアをリロードしたけど、別にいらなかったみたい。


[A-RI-SA]Blake[時宗]


『ROUND3 勝者:産業革命』


『1-2』


 危なげのない勝利。あえて負けることによって油断を誘い、各個撃破していく。


「初心者狩りなんてひどくない?」


「この場に立った時点で相手は"プロ“です。拙が手を抜くわけがないじゃありませんか」


 クスッと微笑むスターシャ。あまりに怖すぎる。コイツが装甲の隙間に炸裂弾を叩き込んでくるんですよ。


『ROUND4 準備フェイズ』


 ラウンド4でも私の装備は同じ。だって何も買えないし。不意打ちをするなら変わらない。


「次は彼方方も再び気を引き締めてくるでしょう。皆さん、手加減は無しでいきましょう。銃の世界の、派手なおもてなしでお出迎えを」


 産業革命で一番物騒なの、やっぱりスターシャじゃない?


 ……なんて、言ったら殺されるだろうからお口チャックね。



──(視点変更シェリー→配信画面)


『第3ラウンドを勝ち取ったのは産業革命ッ!』


『危なげのない勝利でしたね。第一、第二ラウンドは近距離に譲り、第三ラウンドから巻き返してゆく。油断していた武士道会、これは悔しいでしょうね』


>産業革命の勝ち!!!!

>そりゃそうだよ


『安定をとるのならば最初からラウンドを取りに行くべきでは?』


『いえ、そうとも限りませんよ。このゲームのコストはラウンドを跨いでも引き継げますから。あえて第一、第二は使用を抑え目にして観察に徹し、3ラウンド目から高級なアームズを使用して勝負をかける。そういう戦い方もあり得ますね』


>プレッシャーやばそう

>心理面から見ても調子づかせるってのはありなのか

>なるほど流石ロゼッタさんタメになる


『となると……ここからは産業革命の蹂躙が始まると?』


『そうなりますね。武士道会のサイバー剣術も見応えがありましたが、ここからはアームズとボディの強さが逆転してきます。アームズの扱いに長けた産業革命が有利なのは間違い無いでしょう』


>スーパーシェリータイムくるー?

>来るぞ

>バレ様がイキイキしだすぞ……


『激しい戦いを期待しましょう。ラウンド4、間もなく始まります』


>wktk

>[アリサがツーキルに1000円!]

>武士道会応援少なくて草

>あいつらのファンは実況スレにいるよ


5


4


3


2


1


『GAME START!』


 船が開き、4度目の衝突が始まった。


『開☆戦ッ!』


>gogogo!

>はじまった!!


『アリサ、勢いよく飛び出しました。村正、金時も今回は正面突破するようですね。先程の各個撃破が堪えたのでしょう』


>悔しかろうなぁあれ

>あの動き真似できねえよ


『信長、藤太も揃って2階へ!シェリー、これを掻い潜ってアサシンプレイを決められるか!?』


>イキリ信長

>藤太いいところないままかぁ…

>武器が弓じゃないから仕方ない


 その裏で、レファとアリサは直進。バレッティーナが脇道から走る。


『……おや?シェリーとスターシャの姿が見当たりませんね? もしかして敵前逃亡を……』


『……いえ、よく見てください。中央の車両の上に、ステルス状態でスターシャが待機しています。ほら、ここ』


 観戦画面の影を指さすロゼッタ。そこには周囲の色に溶け込んだスターシャが伏せた状態で銃を構えていた。


>ステルス迷彩!?

>なんじゃそりゃぁ!?

>初見殺しすぎるwww

>でもシェリーは?


『……見つけられた方、いらっしゃいましたらコメントまで!』


>草

>無理だよww

>シェリーの考えることはわからんw


 シェリーは"何“をしているのか。


 それは、天の目を持ってしても知覚し得ない事柄であった。



〜〜〜

▼この後武士道会は容赦なくボッコボコにされた

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