固定ダメージで挽き殺します!

@wakewakame193

配信一日目

#1【最速】シェリーの新作昆布巻き配信開始!【前作WR】

配信1日目だけ2時間毎の更新になります

初回ボーナス!

以降は一日二回更新

〜〜〜


「シェリーの昆布巻き配信はーじめーるよー☆」


>わこつー

>早いな

>待ってました


 VRゲーム空間ならではの青と白のサイバー配信ステージでカメラに向かってポーズをキメる銀髪赤目の美少女。腰に手を当て右目にピースを合わせ星が出るような勢いで左目をバチコンっ☆としたところでシェリーは本題に移る。

 横のウインドウに映された議題は『ソウルウェポン新作発売決定!!!!!!!!!!!!!』。小さくピースやニコちゃんマークが描かれていて彼女の手書きだろうウインドウからは喜びの気持ちがよく分かる。


「来ちゃったよ来ちゃったよ遂に新☆作が!」


>何年振りだ?

>4年くらい

>前作の万変斧槍バグ使えるかな


「VGの配信は自室で見てたんだけど、SWの新作発表来た瞬間思わず席立ったから膝が机の角にぶつかって小指を柱の角にぶつけて散々だった」


>草

>いたそう


「このサムネは私が膝と指を痛めて描いた子だからみんな大事に見てね!」


>そんな愛娘みたいな

>生後何分?


「5分。まだちょっと痛い」


>今日は休め


「やだ!今日の24時からサービス開始だよ!?あと2時間だよ!?寝れるわけないでしょ!」


>明日まで平日だが?

>まさかサボる気か


「登校時間ギリギリまでプレイして帰ってきたらまた続きするね。クリエナはさっき箱買いしてきた」


>オイオイオイ

>死ぬわこの配信者

>ほうクリーチャーエナジーですか…たいしたものですね


「筐体のドリンクタンクに放り込んだから眠くなったら直接口に運べる!素晴らしき現代技術!」


>むせそう


「むせるよ?切り抜き集あるから詳しくはそっちをチェック!」


>えぇ…

>最近ミリオン行った

>草

>MADもあるからおぬぬめ


「実は割とお小遣いになってるからね…ってそんなことはどうでもいいの!SWORD開くからね!」


 シェリーはウインドウから取り出した翼の生えた剣のアイコンをタップ。パネルが裏返るように配信空間が変貌し、雲上の神殿に変化した。


「わすっご…綺麗」


>これがスケアートの本気か…

>まじでグラフィックヤベえな

>今からソフト買ってくる


「ちょっと感動した。ノンフィクションエンジン最高」


 幾らかコメントに反応しつつ、シェリーは神殿の中を進む。


「操作に慣れろってことかなぁ?初めての人だと歩くのって大変だもんね」


>初フルダイブで友人に生まれたての子鹿って言われた

>フルダイブでアバター動かすのって何かコツとかある?


「うーん…筋肉よりは関節を意識することかな。曲がるのって関節だから、動かしたい方向に手が届くように全身の関節を回すの。慣れてきたらリアルと一緒でなんとなくでできるよ。最初はゲーセンの筐体で遊んでみて、難しいならコントローラーで遊んだほうがいいんじゃないかな」


>助かる

>フルダイブでRTAをする変態は格が違う


「やめて!?別ゲーならもっと凄い人もいるから!」


 そのまま歩き続けると祭壇まで辿り着いた。祭壇にはアイコンにもなる羽の生えた剣の紋様のタペストリを左右にし、このシリーズの最高神ヴァーサの立派な石造が飾られている。

 また、祭壇の上にはたった一つ、光が凝り固まって生まれたような小さな短剣が置かれていて、新たな者が自身を握ることを待ち望んでいた。


「これ握ったらキャラメイクスタートかな」


>酢昆布があるからそうかも

>なぜに酢昆布ww

>昆布の変化前→昆布の素→素昆布→酢昆布

>分かりづらっ!?


「あはは…新規さんには分からないか…つい言っちゃってたら視聴者さんも教えてあげてね」


>(`・ω・´)<了解っ!

>(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎<任せとけー

>ちくわ大明神


「誰だ今の」


 カメラの方に呆れ顔を送りながら、シェリーは短剣に手を伸ばした。


──英雄様、外の世界よりようこそおいでくださいました。わたくしはヴァーサ。この世界の神です──


 短剣を握るとイベントが進行したようで、石像に光が降り降り半透明のヴァーサのアバターが現れる。神秘的な光のオーブを纏っていて、清らかな白銀髪と慈愛の表情も相まってその姿は最高神に相応しい風格を持っていると言える。


>ヴァーサおb…お姉さん

>はい不敬罪

>前作に引き続き髪の毛の凝り具合が変態


 ただ、前作のヴァーサ様は(公式HPのギャグ4コマ漫画で)オフの時に自室で酒とツマミを用意して下界の様子を眺めているというシーンが書かれたせいで、作中度々最適なタイミングで現れて"見ていましたよ"と登場するシーンが酒片手に見ていただけではという疑惑が発生。そのため本編ではとっつきづらい神キャラであるのに関わらずファンからは親しみを持たれている。シェリーもその酒盛りシーンを脳裏に浮かべ軽く笑いそうになっている。


──この世界は今、未曾有の危機に晒されています。異世界より襲来した化物により魔物が活性化。世界各地が大きな被害を受けているのです──


>ヴァーサ様が美女すぎる DLした

>よくやった オプーナを買う権利もやろう

>いらねぇww


──英雄様。どうか、この世界にて新たな希望の光となり、異邦の災厄を打ち払ってくださいませ──


 そう言い残してヴァーサのアバターは光に還元され、シェリーの握っている短剣に吸い込まれると同時に短剣は一際大きく光ったと思えば大きさを変えた。それは魂魄武装の器が英雄の魂に呼応し、新たな姿を得る演出。システム的には違法スレスレにアカウントのプレイ履歴や思考ルーティンをスキャンしてプレイヤーに合わせた魂魄武装を生成している。


「私がドレイクと同じ英雄になれたって思うとヤバい、泣きそう」


>ドレイクソロ縛りで全再現ボス討伐やってたね

>初見なんだけどドレイクって誰?

>二丁拳銃で魔法弾をブッパするイケメン海賊

>流石に作中英雄と同じ昆布にはならないだろうから…二丁SMGとかか?

>ねーよw


「うわぁー…楽しみ………ンゴッホ」


>蒸せたすかる

>丁度切らしてた

>クリエナ飲んだな


「バレたか。だって流石に長くない?今のところ長物なのは確定みたいだけどさ。サーバー混んでるって言ったって…うわっ!?」


 徐々に棒状に伸びていた光が、急に重心が先端に傾いてシェリーは思わず神殿の床に落としてしまう。しかも、『ドスン』と鈍い音を立てながら神殿の床に食い込んで。


>は?

>面白くなってまいりました

>[確 定 演 出 k t k r]

>超重武器じゃねーか!

>祭りだ祭りだ

>シェリーの超重武器とか初めてでは!?

>……シェリーに超重武器のイメージって無くね?使えんの?

>[ksk]


「うそん……」


 呆然と床に落ちた昆布を眺めるシェリー。配信中だというのに軽く絶望したような表情を見せるシェリーだが、その理由は経歴を言えば明白だろう。SWシリーズの昆布にはある程度種分けがされるのだが、今回変質する超重武器とはその名の通り『超火力高重量低機動』を地でいく通称ロマン種。何を隠そう"シェリー"という、ロマンとは程遠い堅実なプレイスタイルを旨とするプレイヤーであり、WRにもなったプレイ動画は念密に組まれたチャートを一つのガバも妥協もなく遂行された謂わば美術品のような動画だった。そして、そのチャートの中には──超重武器を持った英雄の姿はない。


「えーーっと……マジ?嘘でしょ?超重武器だけは本当になんだけど。あそっかぁ!夢!夢だね!SW新作も夢!」


>ところがどっこい夢じゃありません

>現実…!これが現実…!


「イヤァァァァァァァァァ!!!」


 数分後。三角座りで現実逃避気味にコメントと会話しながら眺めていた昆布の発光が止まり、その姿を曝け出そうとしだした。


「……完成したね」


>表情が死んでる

>開幕10割された時の顔

>[元気出せよ]


「……あ、スパチャありがと。えーとこれは…」


 魂魄武装の光が剥がれた。まず目につくのは硬質カーボンプラスチック。持ち手、そして"覆い"に使われているのだが、この時点で既にマトモな『ファンタジー』からかけ離れていることは間違いない。そして、覆いの中からは超硬合金で形成された円状の刃が軸に刺さって顔を出している。そう、これは──


「回転鋸ーーーーッ!!!???」


 目を逸らしたい程に重厚ワイルド機関部エンジンが、シェリーの正気度SAN値を削り取る。


「うっっっっっっっっそでしょ丸鋸!!??ちょっちょちょちょちょちょおまっおまーっ!おまっちょっえぇーーーッッッ!!!???」


>聞いたことない声聞こえた

>思ってたリアクションと違う

>なんか急に音聞こえなくなったんだけど

>鼓膜張り替えろ


 シェリーの絶叫にも似たが神殿に響く。


「やばっカッコよ…機械…機械じゃん…ギャギャギャギャってぶんまわるやつじゃん…」


 剣を突き立て膝を付いた戦士のように回転鋸へ縋り付くシェリー。涙を流す顔も、やはり悲しんでいるというよりは喜びの表情に見える。

 そう。何を隠そうこのシェリー…いや、本名"天ノ原椎名"という、実は超重武器のようなロマンの類がが大好きなのである。しかも、割と重病。完全プライベートで遊んでいるロボットゲーム[ターミナル・コア]では当たれば必殺だが超短射程のパイルバンカーを愛用し、またデスレースゲーム[クレイジー・カート]に於いても同じくガッチガチの要塞体当たり構成(掘削機を添えて)が愛車。

 つ ま り 絶望の理由は"配信者としての自分のイメージが絶対に潰れるから"である。チャートに一切超重武器の姿がないのも使ったらテンションが有頂天に上りきってしまいチャートをちゃーんと守れないのはリンゴが木から落ちるほどに彼女自身には予想できたからである。

 しかし、昆布の自動生成システムは配信中なのだという空気を読まず、或いは空気を読んで、彼女の大好物である超重武器――しかもその中でもとびきりのキワモノ、回転鋸の[オファニエル]をそこで狂っている彼女に与えた。与えてしまった。


>永久保存不可避

>女の子が出しちゃいけない声してる

>なにこれ

>初見か?安心しろ、俺にも分からん

>[戻ってこいシェリー!配信中だぞ!]


 シェリーはキャラメイクの事など頭からすっぽり抜けて、生まれた自分だけの相棒をしばらく可愛がり続けていた――。



 ――ちなみに、このシーンの切り抜きは1日でミリオン超えたのだが……それはまた別のお話になる。




〜〜〜

Tips コメント欄の描写説明


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>通常コメント

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>[水スパ]<

><[緑スパ]>

>#[黄スパ]#

><<[オレンジスパ]>>

>\[マゼンタスパ]/

>\\[赤スパ]//


って感じです。シェリーは業界の中では有名なRTA走者なんだなーって思ってもらえれば。

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